2.目撃者は猫?(問題編、1)
私は夜型である。
いや、急に何を言い出したのかと言うと、今すっごく眠い。ちなみに授業中。
だって春だもん。暖かいんだもん。六時間目だもん。いいじゃん? だって眠いんだし。
いやいや駄目駄目。なんか今、悪魔の囁きに耳を貸しそうになったよ。
「はぁい、分母の違う分数の足し算はぁ、分母を通分して揃えまぁす」
今の時間は算数。
先生の声も遠くに聞こえてきた。
おりちゃん、見た目はギャルなのに授業は真面目なんだよね。もうちょっと面白くしてほしい。
「っと、三分の四足す二分の五! はい、分かるひとぉ」
「はい! 四と五の最大公約数は二十です。つまり……」
青木君は元気に答えている。
もう……私はダメです。
くてっ。
☆
「あぁ~! 由紀にゃん寝てるじゃん!」
「由紀、起きて」
ユサユサ。
私はハッと目を開けた。
どうやら授業中に寝てしまって、今は放課後らしい。
私はもうちょっと寝かしてもらおうと目をつむる。
瑠璃と美海は何か言っているが、私に関係はない。
そんな日常の風景は、非日常な音で破られた。
ドン! バシン!
私はピクリと跳ね起きる。音は給食場のあたりから聞こえてきた。
私は給食場に向かって走り出す。
「待ってよ由紀にゃん~」
美海が私の後ろを追ってくる。
私には後ろをかまう余裕はない。何かすごく、嫌な予感がする。
「追いついた」
いつの間にか、美海と瑠璃が隣に並んでいた。
あれ? さっきまでだいぶ後ろにいたのに。
……はいはい私はどうせ運動神経悪いですよ悪かったですね!
息を切らしながらも、給食場にたどり着いた。
「うわっ……」
現場は予想以上に酷かった。
ミニスカートのかわいらしい女の子の上に、掃除用具入れが覆いかぶさっていたのだ。
「本堂……美百合。四年二組」
「相変わらず、気味は無駄なことに脳を使うね。普通、接点の無い下級生の名前なんて、覚えてないよ」
クールな声に振り返ってみると、腕組みをした青木君が私の後ろにいた。
「この学校全員の名前を暗記しているのが、私のささやかな特技ですけど」
私はボソッと言う。
「って、早く持ち上げてあげましょうよ」
「僕に任せて、男子だし」
青木君は力いっぱい掃除用具入れを持ち上げるけど、上がらない。力なさすぎでしょ。
「美海に任せろ~!」
美海は元気よく、掃除用具入れを蹴りつける。
凄まじい音がして、掃除用具入れは元の場所に戻った。……ちょっと端が凹んでたけど。
はい、これがこの可愛い女の子の底力ですよ~
「ふむ、死因は背中を掃除用具入れで強打されたことが原因だろうな」
「死んでません。勝手に殺さないでください」
青木君が失礼なことを言っているので、横で訂正する。
「……許せない」
「美海?」
なぜか美海がわなわなとふるえている。
「許せないわっ、美百合にこんなことして!」
美海が急に大声を出した。
「ま、まあ、確かにひどいね」
「だから由紀にゃん!」
名前を呼ばれて私はびっくりする。
「何?」
「この事件、由紀にゃんの推理力で解決して!」
……は?
四月、パートツーなのです。
そして問題編はまだまだ続きます。猫出てきてませんし。