西園寺えま-23-
用意した二人分の朝食。湯気を立てる味噌汁の匂いが、静かなキッチンに広がっていた。
そのとき、スマホが震える。画面に表示されたのは、LINEの通知だった。
《まだ飲んでる。ご飯要らん。》
「……あっそ、いつまで飲んでんの。」
それ以上は何も言わなかった。というか、言えなかった。言葉にしたら自分が惨めになりそうで。
感情を押し殺したまま、手つかずの朝食をシンクに流す。冷静に、淡々と。
そして自らを落ち着かせるかの様にデロンギのコーヒーマシンでコーヒーを淹れた。
もしコレが賃貸だったら、自分の給与では到底支払えないだろう。そう誰でも分かるくらいに広くて見晴らしの良いマイルーム。
部屋を見渡せば歴代の彼氏たちから贈られたブランド品や高価なインテリアが並んでいる。
ちなみにこのマンションの一室も、車も、全てが贈り物だった。
まるで彫刻の様に整った顔立ち、瞳は二重で眉毛も綺麗に整えられており、鼻筋は外国人の様に通っている。唇は品の良い綺麗な形をしており、すこしだけ分厚いのが、また色っぽい。
つまり、私は町を歩けば高確率で男性から振り返られるほどの美貌を持つ美人だ。勿論、何も意識しなくても、インスタのフォロワーは常時、数万人。
けれど、そんな綺麗な見た目とは裏腹に私の心を満たしているのは、いつも「いつかは捨てられる」という執着と恐怖だった。
ネグレクト気味で、男に奔っていた母親。母親に似た顔をあんなに嫌っていたのに、その顔を使って母親と似た様な生活をしていて反吐が出そうになる。
「あんなふうにはなりたくない。」
──そう強く思えば思うほど、なぜかダメな男に惹かれ、振り回され、恋愛になると、簡単に己が壊れてしまうのだ。
「……整理しなきゃ、全てを」
小さく呟く。
頭では分かっている。
けれど、心が言うことを聞かない。この執着を断ち切りたいのか?それとも、もっと深く溺れたいのか。
答えの見えない問いを抱えたまま、えまは鏡の前に立った。完璧なメイクを施し、何事もなかったかのような顔を作る。
そしてバーキンを手に取り、扉を開ける。
向かう先は──己を救済してくれるとSNSですこし前にバズっていた、あの鳳四魂神社だ。




