愛と執着は紙一重【6】
「あそこはかなり安心できる店だよ。インスタとかそういうのしか頭にないから、俺らみたいなのは適度に放置してくれるしね」──と意味ありげな事を言っていた赤井蓮。だけど、その言葉の意味は、店に入った瞬間に理解できた。
いわゆる『成金』が好みそうな店内。
やけに明るいスポットライトの光が、こちらを逃がさない様に当たり続ける。その中で、バカラのグラスも、大理石柄のテーブルも、フカフカのソファーも、どれもが高級というよりは誇示の為に置かれている様に見えた。
笑い声も、グラスの触れ合う音も、どこか軽い。私がこれまで連れられてきた老舗の店の様な、静かな圧や品のある空気とは明らかに違う。
──けど、この店が流行っている事だけは、すぐに分かった。
視線の動きで分かる。誰が金を使う側で、誰がそれを受け止める側か。そして、その関係性を全員が理解した上で動いている。
ヒカリは、間違いなく、その後者だった。
「いらっしゃいませ」
聞き慣れた声に反応して振り向くと、そこには昼間とはまるで違う空気を纏ったヒカリが立っていた。
ほんの一瞬、目が止まる。
けれど次の瞬間には、互いに笑っていた。
「エマ?マジで?いや……。隼人からいつものメンバーにプラスしてサプライズがあるって聞いてたけど……こういう事ね?」
驚きと、仕事の顔が、半分ずつ混ざっている。
「ちょっと待ってて」
それだけ言うと、ヒカリはすぐに黒服の方を向き、短く的確に指示を出した。
「説明しなくても分かるの?」
「うん、大体ね。多分、そこに座る人がエマの彼氏の海里さんでしょ」
「オッ、お目が高いね」
「グラスの扱い方で分かる」
そう言い切ると、今度は自然に隼人を中心に据え、それ以外とはさりげなく距離を取る。
無駄がない。
──これは、相当に上手い。
素直にそう思った。
同時に、少しだけ胸の奥が引っかかる。
私の知らないヒカリを見ている様な気がした。
けれど、すぐに気付く。
違う。これが、この子の外での顔なのだと。戦闘服を身に着け、宝石にパワーを貰い、この子は外でこうして戦っているのだ、と。
家茂から苗字を聞いたヒカリが、私と同じ様に一瞬だけ「ミオの…」とでも言いたげな表情を浮かべながら、何事もなかったかの様に赤井蓮のグラスへウイスキーを注いでいる。
やはり、賢い。
「……エマ?」
「ううん、何でもない」
──だけど本当のヒカリは、もっと単純で、不器用で、真っすぐで、誰かが落ちていたら考えるより先に手を伸ばす様な子だ。リンもヒカリも、太陽の様な子。
こんな風に計算された距離を取る場所は、本来の彼女には似合わない。
——けれど。
それを口にする資格が自分にあるとも思えなかった。
「なんか私らって、知り合ってから笑える様な事ばっかり起きるな」
「ほんまそれ。嘘みたいな事ばっかりね」
「そうそう」
気取らない会話。
それだけのはずなのに、どこか特別に感じる。
「マジか」
「ほんまに“ツレ”の会話やん」
抑えた声でそう言いながらも、隠しきれていない驚きが男たちから漏れる。
この反応を見る限り、どうやら本当に予想外だったらしい。
──もしここにミオとリンがいたら、どうなっていただろう。
一瞬そんな事を考えて、すぐにやめた。




