神崎みお-22-
「あの人ったら、またゴルフやねん。どこの誰と行ってるんか知らんけど……。みお、あなただけはちゃんとしてくれて本当に救われるわ」
まるで韓国ドラマに出てくるお金持ちの人が住む様な豪邸のダイニングには文句一つ付けようのない完璧な和朝食が並んでいる。
可憐なエプロンを身に纏った母が、可憐に、そして優雅にティーカップをつまみ、レモンを入れた紅茶を飲みながらいつもの愚痴をこぼした。
みおは「そうやね、いつもやね。」と微笑みながら、完璧に焼かれた少し甘い玉子焼きを口に運んだ。
父親の不在、母親の過度な期待。みおはいつだって、親の敷いたレールの上を歩いてきた。
母親の理想の娘、そしてそこそこ大きな会社を経営している父親がどこに出しても恥ずかしくない娘を演じることが、この家の平和を守る唯一の方法だと知っているからだ。
「はぁ…。私も本当はみおみたいに大学に進学してバリバリ働いてみたかったのよ。大学時代にあの人に出会って直ぐにお付き合いをして、専業主婦をずっとさせてもらって、今になるんやけどね。」
「……。」
「本間、振り返れば子育ても私が一人で回して、あの人は仕事ばっかりで…」
綺麗なメイクに、綺麗な顔立ち。母親が外に出ていれば、きっと私なんかよりも引く手数多だっただろう。
私といえば、両親に手間とお金をかけてもらったから、そこそこ名の通る大学を卒業し、大手商社に就職できたけれど、この場面で『私にとっては優しくて面白くて、良いお父さんよ。』と本音のフォローさえも入れる勇気の無い意気地なしだ。
きっと、心の中では昨日のあの怨念みたいに劣等感が膿のように溜まっている。
「お母さん。私、ちょっとお散歩に行ってくるね」
──問題なんて起きないほうが良いのは分かってる。普通が一番良いことも分かってる。
尖らず、威張らず、謙虚に。……だけど、基本が怖がりの私は、昨日起きたあの事実を有耶無耶にすることが出来なかった。
「あら、いいわね。あ、後で映画に行きましょうよ。お昼には戻ってこれる?」
聞き流す。我慢する。気遣う。
それがみおの日常だ。
けれど、最近はその無かったことにした感情が、いつか自分を飲み込んでしまうのではないかと怖くなる。
みおは百点満点の作り笑顔を母親に向けると、導かれるように、鳳四魂神社を目指した。




