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愛と執着は紙一重【1】



「今日は集まってくれてありがとう。」


 私は真っ黒のロングヘアを靡かせながら、落ちついた声でそう言った。いつの間にか私達の『喫茶店代わり』になった、権蔵さんのお家。


 温子さんの入れる抹茶を味わいながら、皆であーだこーだ話す時間が、束の間の青春を思い出させる。


 大体、私たちが女子会をする時は権蔵さんは神社に出ていて家に居ない。温子さんは、それもあって私たちの会話に優しく寄り添い、楽しそうに女子として参加してくれている。


 母親や祖母の温もりを知らない私にとって、この家はまるで理想に描いていた実家の様な安心感さえあった。


「改まって…何かあった?」


 ミオが持ち寄ってきた和菓子を出しながら、心配そうな瞳でそんなことを問いかける。


 私は皆の前に和菓子が出揃うのを待ってから、静かに口を開いた。



「彼氏ができたの。」



「……ええ?!」


「エマ、別れたばっかりやん!」


「マジですか…!」



 それぞれの思うことが、それぞれの口から発される。十人十色とはよく出来た言葉で、つくづくクリスタルガールズは全員個性があって面白い。


「相手は?」


「ミオしか会ったことがないんやけど「まさか!千海里さん?!」


 ミオがハッとした顔でそんなことをいうと、しまった!と言う様に手のひらで口を抑える。


 だけど、ミオの心配には及ばない。


 私がここに皆を呼び出したのは、あの時に別れる勇気をくれた彼女達に、自分が新しい人生を歩みだしたことを報告したかったからなのだ。


「相手は、裏千家のお家元の息子で、ミオの好きな人、通称『天使の専務』の友達、千海里」


「すごい名前‥」


「確かに。裏千家といえば、千利休で、その子孫となればそんな名前にもなるか。」


「あ、なるほどな。ひかりってそういうの頭良いよな」


「まあ、色んな人と会話するからね」



 ──あの日、お茶会で声をかけてくれた千海里。普段は忙しく京都には月のうち1週間くらいしか滞在していない。


 そんな中でも、もう5回程は食事を重ねた。夜ご飯だけじゃなく、テーマパークへ遊びに行ったり、はやりのカフェを訪れてみたり。


 話しを聞けば聞くほど、私なんかとは育ってきた環境も愛情や期待のかけられ方も全てが違うんだ、と圧倒されたものだ。でも不思議と『この人が気になる』という気持ちは消えることが無かった。


「向こうから?千さん、エマのこと気に入ってたもんね。」


「1回目の食事は向こうから。でもお付き合いを申し込んだのは私からなの。」



「「ええ?!」」


 クリスタルガールズと…そして温子さんの驚く声も入り交じって広い家に響く。


 まあでも、そりゃそうか。


 この人達は、私が今迄してきた恋愛のほとんどが『押されてから始まる』ということを知っているのだから。自分からお付き合いを申し込んだ、なんて聞いたら驚くに決まっている。


「そんなに良い男なの?」


 温子さんが、私たちと同じく畳の上に正座をして抹茶をすすりながらそんなことを聞く。どうやら台所作業は終わったみたい。


 私は、優しいその表情に安心感を覚えながら、小さく一度だけ頷いた。


「ほら、私って親に愛された記憶もないし、小さい時から自分で自分の身を守るのが当たり前やった環境で、育ってきたでしょ。」


「対して相手は期待されて、愛情をかけられて、大事に大事に育てられたお坊ちゃん。こんな話ししたら引くかな、と思いつつ話してみたの。」


「……どうやった?」


 ひかりが心配そうな表情で私に続きを要求する。いつの間にやら現れたゴン太は少しばかり眠そうな顔しながらも、ひかりの膝の上に居て聞き耳を立てていた。



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