大病院の怨念の正体【3】
「声デカいわ!病院やぞここ!」
権蔵が布団の中から私達にそう怒鳴るが声はまだ微かに震えていた。
「ほな何なんよ。ちゃんと説明して」
エマが腕を組んで、冷たくそう言う。リンは完全に面白がっている顔だし、ミオは紙袋をじっと観察している。こんな場面一つでも、みんなの個性が出ていた。
「お母さん、出てて!」
「えっ。そんなん幽霊やったらアンタも…」
幽霊ならいいよ。もし怨念なら大変だから。
──そんな言葉が喉まで来て出かかったけど、グッと堪えた。そして、大丈夫だから。と言い聞かせるようにして心配そうな母親の背中を病室外へと押す。
その様子を見計らってから、いつもの上品で、はんなりした様子とは程遠い温子さんが大きく、そしてわざとらしく、ため息をついた。
「アンタ、あの人に何言うたん?」
権蔵は、恐る恐る顔を出し、ゴン太を水晶から呼び出した。そして、まるで神の使いに守ってもらうかの様にゴン太を強く抱きしめると、片方の手で布団をギュッと握り込む。
「……三日前や」
その声に病室の空気が少しだけ静まる。
リンはミオの肩にもたれかかりながら、未だ面白そうに権蔵の話しだした言葉に耳を傾けていた。
「神社の前でな。夕方、落ち葉を掃除してたら見慣れへん綺麗な大島紬を着た、オバハンが立っててん」
「自分ジジイのくせに、人にオバハン言うな」
「知らん人や!ほな何て呼べ言うねん!」
リンがそう突っ込むと、権蔵の返しが思いの外面白かったのかケラケラ笑う。それにつられて、いつもはクールなエマも笑みを浮かべた。
どうやら、この場でこの話しを真剣に聞くつもりなのは、私とミオのみらしい。
「その人がな、『ここ、まだ参ってええですか』って言うから、ワシは『どうぞ、どうぞ』って言うたんや」
「普通やん」
「普通や。せやけど、話しはここからや」
権蔵は、妙に遠い目をした。
「夕陽がな、ちょうど鳥居の向こうに沈みかけとってな……その人の横顔が、妙に寂しそうやった」
「ワシもお前らと一緒の生業をしとる。何となくその人の持つ悲しみや哀愁が分かるんや。せやから少しでも元気なってもらおうと思って……」
「何を言ったんですか?」
ミオの声がどことなく低い。
「『あんた、夕陽より綺麗や。安心しぃ』って─」
一瞬、病室の空気が凍った。
私も思わず口を大きくあけて、あんぐり顔をする。
「キッッッザ!!」
そう一言呟くと、リンがキャハハと笑いながら手を叩き、はっさくをかじった。そして一言ツッコむ。
「既婚者が何ナンパしとんねん!」
「ちゃうわ!慰めや!神主のせめてもの慈悲や!」
「慈悲が重いやん。しかも夕陽よりって何やねん」
権蔵の言い訳に私達は全員、腹を抱えて笑い出した。もっと深い話しがあるのかと思いきや、夕日より綺麗なんて──今どき、少女漫画でもそんな言葉使われないだろう。
その時だった。
紙袋が、ふわり、と揺れる。
「……」
ミオの指先がぴくりと止まった。




