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ひかりのデート記念【6】



 私たちの元に、夜の静寂が戻ってきた。


「……隼人」


 私が声をかけると、彼は憑き物が落ちたように、いつもの柔らかな表情に戻って私を振り返った。


「ごめんね、ひかり。怖かった?」


「ううん。……大丈夫だけど」


「そっか。なら良かった。二人とも無事でよかったよ」


 彼は少しおどけて見せると、私の乱れた前髪を指先でそっと整えた。その手つきはどこまでも優しくて、甘い。


 けれど、さっきの男たちを退散させた、あの氷のように冷たくて重い空気の正体を、私は知っている。


 彼が守ってくれたのは、私なのか。


 それとも、自分の所有物を汚されたくなかっただけなのか。



「行こうか。家までちゃんと送り届けるよ」


 差し出された手。私はその手を取りながら、胸の奥で小さな疼きを感じていた。


 恋に落ちるような高鳴りと、それと同じだけの速度で育っていく、正体不明の違和感。


 パレードの光が、遠くで最後の一閃を放った。



 ****


 余韻を楽しむかの様な騒がしい喧騒を離れ、滑り出したタクシーの車内。


 外を流れる夜景の光が、交互に車内を照らしては消えていく。そして高速に乗り込んだ時だった。私が重い口を開いたのは。


「……さっきは、ありがとう」


 小さく呟くと、隣に座る隼人がふっと表情を緩めた。


「いいよ。でも、ひかりのああいうところ、本当に尊敬するな」


「え?」


「自分より先に、誰かのために動ける。……なかなかできることじゃないよ。真っ直ぐで、綺麗で、まるで名の如く、自分は暗い宇宙に居るのに人類を照らし続ける『光』そのものみたいだ」


 隼人の視線が、まっすぐに私を捉える。


「まあ、でも俺が居ない時に、というか一人の時にあんな事されると困るけど…まあ、ひかりはダメだとか心配だからやめてくれ。なんか言っても同じ場面に出くわしたら同じ事するだろうけどね」


「ひかりはさ、自分がどれだけ特別な存在か、もっと自覚したほうがいい」


 流れる光が彼の瞳に反射して、宝石みたいに煌めいた。


「……チョッ、緊張するわ!このシチュエーション!」


「ってか、隼人もそんな風に言わないでよ。勘違いするようなこと」


 鼓動がうるさい。私は窓の外へ視線を逃がした。


 一瞬、バックミラー越しに見えた運転手さんは、私たちの恋の行方を見守るかの様に優しい笑みを浮かべていた。



「勘違い? ……いいよ、してくれて」



 隼人の手が、シートの上で私の手に重なる。ユニバでも何回か腕を引っ張ったり、指先が触れたりはした。でも今は──何なんだろう。


 私、ミオみたいにうウブでも何でもないのに。


 電流が走ったみたいに身体が熱くなった。



「俺は、本気で言ってるんだから」


「元々、ひかりは今時珍しい純粋な部分を抱えてる子なんだろうなと思ってた。興味はあった。」


「純粋に育ってきたからこそ生まれる『心の輝き』ってのは、ブランドで……派手なメイクで……武装して作り上げたものとは天と地の差を持つほど、美しく尊いモノなんだよ」



 甘い。まるで一周回って毒みたいに甘い空気が、狭い車内に充満していく。


「その『破天荒』さは君が持つ美しく汚れなき『心の輝き』が作りあげた、危うくも素敵な物なんだよ」



「……」


「あ、ごめん。難しい言い回しだよね。要は、勘違いしてくれて結構。というか、勘違いだと思わせたまま終わらせるつもりはないから、安心してねって意味」


「ヘッ、それって…」


 勘違いだと思わせたまま終わらせるつもりはない──?


 つまり、告白してくるってコトか?


 一瞬にして顔が赤くなり、ポッと全身に熱がこもる。


 そんな私を見た隼人は慈しむかの様に優しい手で私の頭を数度撫でると、「そこで降りて下さい」と運転手さんに声をかけ、前を向きなおす。


 しっかりと握られた手を離す事は……何故か、出来なかった。



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