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ひかりのデート記念【5】

 

 パレードの興奮が冷めやらぬ、閉園間際のユニバーサル・シティウォーク。


 華やかなメインストリートから一本外れた、少し街灯の暗いエリアを歩いていた時だった。


「……待ってよ、ちょっとだけ。ええやん、一杯くらい」


「……すみません、急いでるので」


 街灯の死角で、三人の男たちが一人の女性を囲んでいた。酒の匂いが、夜の冷たい空気に混じって鼻をつく。女性は一人でユニバに推し活にでも来ていたのだろう。大きな一眼レフを片手に持っていた。


 対する男性陣は──まあ考えるまでも無い。これはナンパだ。


 楽しさの余韻で少しばかりぼんやりしていた私の視界が、瞬時に現場を捉えた。



「嫌がってるやん。離したりよ」


 考えるより先に、足が動いた。


 私の声に、男たちの不機嫌な視線が集まる。


「あ?……なんや自分、関係ないやろ」


「なになに、一緒に遊びたいとか?」


 三人組の内の二人が一歩、私に詰め寄る。


 心臓が警鐘を鳴らす。これはただのナンパじゃない。と第六感が教えてくれた。


 もっと奥深くに闇が潜んでいる……そんな何かだ、と。



 ブラックワールドで戦うのとは違う、生身の人間に向けられる剥き出しの悪意。


 しまった、と思った。衝動で飛び出しすぎた。


「嫌がってる相手と無理やり遊んで楽しいの?」


「ハァ?」



 その時──声をかけられていた女の子がこちら側へと回ってきたのを確認したのか、先ほどまで黙っていた背後に立つ『王子様』がすっと手を私の肩に置き、小さく呟いた。



「……あーあ。せっかくの綺麗な夜なのに」


 低く、けれど驚くほど澄んだ声。


 彼は私を優しく自分の背後へ引き寄せると、『こっちに寄っときな』と一眼レフを持つ女の子に優しく声をかけてから、まるで女性を守る騎士(ナイト)の如く私たちを庇う様に一歩前へ出た。


「な、なんやねん……」


 男たちが一瞬ビクついたのが分かった。見た感じは優男の隼人。でもこの人は、声を発し──言葉を発すれば発するほど、底知れぬ恐怖心を与える様な人物。


 勿論、光友の御曹司は相手に殴りかかるわけでも、怒鳴り散らすわけでもない。ただ、ポケットに片手を入れたまま、冷徹なまでに静かな瞳で彼らを見下ろした。


 顔が整った男の真顔ほど怖いものは無いと──思う。



「悪いんだけど、俺、キミらみたいなのが一番嫌いなんだ」


「ここら辺なら確かに飲食店も多いし人も多いしね。一人の子ならまだしも、二人でいる様な女の子なら付いてくるだろうね。警戒心無く…」


「で、そこから…。そこで黙ってポケットに手入れてる君、君が飲み物の中に薬物でも仕込んで、気を失った女の子の財布を取り、廻し、そして最後に写真を撮って彼女たちを脅迫するんだよね?」


「俺らの知っている店で働かないと、この写真バラまくぞ。身分証明書をコピーしたから実家の住所も全て分かってるぞ、って」



 隼人の口角が、わずかに上がる。


 私と隣に居る子は、驚きすぎて口を開けずにいた。まるで全て『視えている』かの様な話しぶり。なんでこんなに確信を持っているのかは分からない。

 

 だけど、獲物の急所を正確に見定めた捕食者のような圧をかけて話す隼人の言う事が嘘だとはまるきり思えなかった。



 隼人が纏う空気が一変しているのが分かる。


 高価なジャケットのシルエットが、月光に照らされて鋭く切り取られ、まるで異世界の騎士のような威圧感を放った。



 ──やっぱり、この人はタキシード仮面なんだ。


 そう思うと小さい頃からセーラームーンが大好きだった私の心臓が、ギュッと何者かによって握りつぶされる様な感覚に陥る。



「警察を呼んでもいいし、何なら俺の個人的な『知り合い』でも呼ぼうか?」



 言葉は丁寧なのに、拒絶を許さない絶対的な強制力。


 男たちは、まるで透明な壁に押し潰されるように、じりじりと後退した。



「……チッ、行こうぜ。しらけるわ」


 捨て台詞を残して、男たちが逃げるように去っていく。



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