ひかりのデート記念【2】
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのゲート前は、平日の昼間とは思えないほど人が多かった。
修学旅行生の集団にカチューシャを頭に乗せたカップル。笑顔が堪えないファミリーたち。
お母さんいわく、昔は人が全然居なくて30分すら待たなかったらしい。そんな過去なんか、今のユニバを見てると到底、信じられない。
あの大きいゲートを通り過ぎ、くるくると回る地球儀の前でキョロキョロしていると後ろから肩を叩かれる。
ふわっと香る香水の匂いで振り向くまでもなく、その手の主が誰だか分かった。
「おはよう」
──ひそひそと聞こえる女子達の噂話。
分かる。隼人は確かに噂話の一つや二つしたくなるくらいに格好良い。しかも、今日の白のシャツに、淡いグレーのジャケットと云う服装は、まるでどこかのモデルのようだ。
会うのは今日で三回目。
毎回毎回、彼の付けている物や着ている物は私の持ち物とは反対。全てが主張しないのに、明らかに質がよく、美しい。これが本物の人のみが持つ『オーラが物を底上げする』という事なのだろう。
「御曹司、おはよう」
「ハハッ、なにそれ。」
私が一晩悩んだ服選びを、ものの数秒で軽々と超えてくる。きっと私が一晩…いや、一週間悩んで買う品物も数秒で即決してしまうような人。
「チケット、もう取ってあるよ」
そう言って目の前に差し出されたのは、QRコードが写ったスクリーンショット画面だった。文字には当たり前の様にエクスプレス・パスと書いている。
「おごり?」
「勿論。俺が誘ったんだから。しかも急に。」
「こればっかりはマジで神様やわ…あざーす!」
「なんか、調子良いね」
楽しそうに笑う隼人と私の身長差は25センチくらいはアリそうだ。でも、偉そうに彼の肩に腕を回すと、彼は屈託のない笑みを浮かべた。
──たくさんの視線を主に隼人が集めながら、二人で園内に入った途端、空気が変わるのを感じた。
今までは何も考えずに歩いていたアーケードの下。今ではすれ違う人々の声色から、喜怒哀楽の感情が手に取るようにして分かる。
「……。」
「どうしたの?」
「あっ、いや。何でもない」
「?あ、そうだ。ポップコーン食べない?」
入って直ぐ、すこし歩くと右手にポップコーン屋さんがある。
幸い、人はそんなに並んでいなかった為、私達は直ぐにかわいいボトルに入ったキャラメル味のポップコーンを手に入れることができた。
「お、久しぶりに食べたら美味しいね」
「んー、甘いしね。どこいく?」
「俺、あんまりUSJ分かんないんだよね。案内してくれない?ひかりのおすすめでいいよ」
そう言われてユニバのアプリを開いて待ち時間を確認した。ユニバの混雑状況を知るにはハリドリの待ち時間を見るのが一番早い。
「…おっ、ハリドリが40分待ちやわ。今日は空いてる日かもね」
「40分で空いてるの?凄い世界だね」
「まあ、40分ってことは実質30分くらいやし、今日はエクスプレス・パスがあるから10分くらいで乗れるかもね。混んでる日は120分とか普通よ」
そう言いながら顔を上げると、咄嗟に前から歩いてきた同じ年くらいの女の子の集団と肩がぶつかる。
「あっ、すみません…」
「チッ、前見て歩けよ」
「ちょっと、灯。キツイよー」
「いや、そうやん?こんな人多いのに、うつむいてスマホとか見てたら危ないから!」
「まあね〜。でも彼氏格好良いし照れてたんじゃない?」
「ね〜。映える彼氏やん笑」
「あの女はインスタ映え命って雰囲気出てるよね。バッグはレディディオールやったけど、パチモンやろ」
「ハハッ、パチモンはやばいわー」
「……」
何もそこまで、言わなくても。
ムッと頬に空気を入れて立ち止まる。
するとそんな私を振り返った隼人が見つめると、苦笑いを浮かべた。
「何か言ってたね」
「ムカつく」
「まあまあ、相手にしないのが一番だよ」
ポンポン、と大きな手のひらで頭を撫でられるけど、気は済まない。しかもこのレディディオール本物やし。てか、ぶつかっただけでそこまで言われる筋合い無いし!
そう思っていると、お守りの水晶がすこしだけ先ほどよりも熱くなっているのが分かった。一瞬だけドキッと胸が高鳴る。
「ピュリファイ!」
「……え?」
変身は、勿論しない。
でも、これくらいは言っても良いだろう。自分の感情も相手の感情も浄化する。ステッキも何もない今はただのオママゴトみたいなもんだけど。
「んーん、言ってみただけ」




