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クリスタルゲート発動【4】


 建物の裏手、講義棟と講義棟の隙間にある、少し古びたベンチ。


 人通りはほとんどない。聞こえるのは、遠くで話している女の子たちの楽しそうな笑い声。きっとまだアイドルがここに来た事の余韻で騒いでいるんだろう。


 私は缶コーヒーを四本持つと、一人一人に手渡した。


「はい、今日の分。おごり」


「え、リンが奢りって、珍し。基本、金欠やん」


 ひかりがそう言いながら受け取ると、ミオもその言葉につられる様にして小さく笑った。


「こっちは勤労少女ですからね。最低賃金で店長にコキ使われながら頑張っとります」


「ハハッ、いやっ、冗談よ。ありがとう」


「私はブラックね」


「エマはそうだろうと思ってたよ。ひかりとミオはカフェオレ。」


「え、リンもブラックなんだ」


「うん、意外にね」


 

 私は短くそう言って、缶のプルタブを開けた。四人でベンチに並んで座るなんて変な感じ。


「にしても今日は疲れたねぇ…」


 ミオがそんな事を言う。


「確かに、今迄とは比じゃないね」


 ひかりがウンウンと頷きながら同意した。



 ──黒水晶を浄化する、なんて言ったら簡単そうに見えるけど。


 実際は、そんな事ないのが現実だ。



 やっぱり、怨念という人の持つ『負の感情』に触れて、それと向き合い、戦い、そして最後、透明にしてからコンパクトに戻す。この一連の行為は肉体的にも精神的にもかなりしんどい。


 権蔵さんが前に言ってたこの業は代々男性だけで…っていうのも今になれば納得がいく話。多分、基礎的な体力があり、人の感情を『業として』受け止めれる器を持つのは男性の方が圧倒的に多いのだろう。


 だからといって、男性であればだれでも出来る事でもない。


 選ばれるのが神主やお坊さん、神父さん、医者や教員といった人達がほとんどなのは『人の感情を人のものとして処理する能力に長けている、もしくは慣れている』からだと思う。



 それでも奥さん曰く、権蔵さんも大きい怨念を処理した後は驚くほどの御飯を食べて、夜間頻尿と無縁なほど長い睡眠を取るらしい。


 なんとなく──意味が分かる。



 私たちは夕焼けに染まりかけた空を見上げた。


 珈琲の苦味が、喉を通る。



「あのさ」


 私が、ぽつりと言った。


「人生って、むずかしいよな」


 誰かに向けた言葉というより、独り言に近い。



「頑張ってたもんが、急にどうにもならんくなったり。好きやったもんが、別の形になっていったり」


「別に、誰が悪いとかじゃないって分かってるのに、誰かを責めたくなる。」



 エマが、静かに頷いた。



「いつもいつも正解が一個とは限らないからね。」




「しかも」


 エマの言葉に、ひかりが続ける。既に飲み干したらしいカフェオレの缶を振りながら、遠くからこちらに手を振り、短い足で一生懸命駆けてくるゴン太を優しそうな瞳で見つめながら……。


「過ぎてしばらくしてからじゃないと、自分がした選択が間違ってたかどうかも分からへんし」



 その言葉を聞いて私は小さく笑った。



「ほんまそれ」



 誰も否定しない。


 誰も、まとめようともしない。



「おーい!探したよー!」


「初めてのクリスタルゲート、見てて感動したよ!」



 そう言って、ぴょいっとベンチの端に飛び乗ると、美しい毛並みに夕日を移しながら、誇らしげな顔で私たちを見つめるゴン太。



「クリスタルガールズ、本当、お疲れ様!」



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