四魂の導き3
「さあ、声を合わせるんじゃ! 心を一つにして、その感情を認めてやるんじゃぞ!」
「感情を認める……」
「浄化は英語の動詞で【ピュリファイ】です。それでいきましょう!」
みおの目が心なしかキラキラとしていた。きっと、幼い頃にテレビの前でワクワク・ドキドキしながら見ていたあのアニメのワンシーンを重ねているのだろう。
源蔵の声が、夕暮れの境内に厳かに響いた。四人は、互いのステッキが触れ合う感覚を通じて、微かな振動を感じていた。それは、目の前の黒水晶が抱える、持ち主の「叫び」とも取れるものだった。
「「「「ピュリファイ!!」」」」
四人の叫びが重なった瞬間、ステッキの先から目も眩むような七色の光が放たれた。
光は黒水晶を優しく包み込み、蓄積された「怨念」という名の汚れを、一枚一枚剥がしていく。やがて、宙に浮かぶ黒かった水晶は、一切の濁りがない透明なクリスタルへと姿を変えた。
「……終わった、の?」
ひかりが呟くと同時に、透明な水晶は吸い込まれるように、社務室の奥で何かを掲げている源蔵の元へと還ってゆく。
同時に、四人の豪華な衣装と濃いメイクが、光の粒子となって霧散していった。
「おぉぉ……! お見事!」
源蔵が、先ほどまでの焦りを忘れたかの様な満面の笑みで彼には似つかわしくないほど繊細な宝石箱を手にして、小走りで駆け寄ってくる。
掌に収まるほどの大きさのそれは、やわらかなハート型。淡い金色の縁取りには、古いアンティークのような装飾が刻まれている。表面は鏡のように滑らかで、光を受けるたびに、淡い虹色が静かに揺らめいていた。
「ちょっと、近すぎ! それに、さっきから何なのよ浄化とか、変身とか! その口ぶり、何か知ってんねやろ。説明しなさいよ!」
私服に戻り、少しだけメイクの艶が残った顔で、ひかりが詰め寄る。
「まぁまぁ、ひかりちゃん。落ち着いて……。それより、皆さんもこれを持ってたんですよね?」
みおが、拾ったばかりのお守りを差し出した。
それぞれが先ほどまで身に着けていたアクアサファイアやアメジストなどの水晶が可愛く取り付けられたお守りが夕闇の中で小さく瞬く。
「そうよ。私はこの紫のを、手水舎の近くで拾ったわ」
えまが冷静に付け加えると、りんも不思議そうにお守りを見つめた。
「私はこの黄色いの! 落とし物だと思って届けに来たら、急にあんな杖になって……」
「ワシも驚いたわい。まさか同じ日に、違う色のお守りが四つも『拾われる』なんてな。これはもう、神様が引き合わせた『クリスタルガールズ』の結成式のようなもんじゃ!」
源蔵が鼻を高くして笑うが、ひかりは一蹴した。
「いやいや、そういうのイイから。説明」
「……お前らな、それを返そうとか考えとるんやないやろな。アホ言うなよ! 一度拾って変身した以上、それはもうあんたらの魂の一部じゃ」
「はぁ? 冗談じゃないわよ! 説明もなしにいい加減にしなさいよ! このクソジジッ──」
「まぁまぁ、元気な娘さんたちね」
ひかりの叫びを止めたのは、この世の物とは思えないほどに透き通った女性の声だった。
「……貴方、良かったじゃないですか。勇敢で聡明な子達がこのお守りを拾ってくれて」
「ああ、まあ拾ったというよりも、水晶がそう仕向けたんやろうがな」
源蔵と同じくらいの年齢だろうか。着物を凛と着こなした美しい女性が屋敷から現れると、四人の背筋が自然と伸びた。その上品な佇まいには全女性が見本とする様なクラシックな美しさが宿っていた。
この二人は夫婦なのだろう。偶然拾ったお守り、風変わりな神主夫妻、そして性格も境遇もバラバラな四人の少女。 彼女たちのそれなりに問題や悩みを抱えた人生が、ここから一味も二味も違った物語になることを、今はまだ誰も知る由もなかった。




