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陽キャのソナタ【1】

 


 昔から、『リンって常に楽しそうだよね』と周りに言われる事が多い。楽器を弾いてても、歌ってても、テストの点が悪くても。そして私自身、自分は都合の良い耳を持ってると思ってる。


 つまり嫌な事は聞こえてこないし、仮に耳に入っても寝れば忘れる。


 だけどそんな私だからといって、悩みが無いワケじゃない。バイト先の店長はいつも説教臭くてうざいし、友達だって多い割には腹を割って話せる人間なんてそんなに居ない。


 ──というか、先ず……大学が何一つ面白くない。


 朝起きるのが憂鬱になるほど嫌いってほどでもないけど、楽しいかと言われたらソッコーに首を横に振る。講義もそこそこ、友達もそこそこ。


 笑って過ごしてはいるけれど、胸の奥が震えるような瞬間は、ここにはない。


 だけど今日は、ほんのちょっとだけ浮かれていた。


「ねえリン、外見た?」


「見たよ。アイドルの『セカンド・ラブ』が居たね」


「マジで、あのメンバー全員いかついくらいにイケメン過ぎるわ!」


「てか、生で見たら全員骨格が芸能人だよね。あれでこそ、日本が誇るエンターテイナーだわ」



「本間、朝から学内ざわつきすぎやろ…」


 キャンパス内はいつもより騒がしい。


 機材車が何台も停まり、スタッフらしき人たちが慌ただしく行き来している。周りの子の会話から察するに、どうやら今日はバラエティの撮影らしい。


 今を時めくアイドル達が一日だけ大学生気分に戻って学食を食べたり、好きな講義を受けて勉強してみたり──なんていう、いかにも茶の間の母親受けがよさそうなバラエティー企画。


 私は元々クラシックや和楽器を聞いて育った。だけど、だからといってJ-popに興味が無いワケではない。でも正直な話、聞く回数は断トツで洋楽が多い。


 クラシックとのリミックス、日本にはないテンポの組み合わせ、胸をざわつかせる重低音。


 勿論、ピアノやヴァイオリンといった楽器を使った曲でも正直、向こうの方が『今』と『クラシック』を上手に掛け合わせた物を作ると思っている。


 だから、周りに合わせて、アイドル達が最後に一曲歌うらしい体育館までは来てみたけど…この『セカンド・ラブ』見た事は有っても、私のプレイリストの中に入った事は無かった。


 ──まあ、今をトキメク大アイドル様たちだ。


 名前を聞けば誰でも知ってるし、テレビで見ない日はない。生で『本物』を拝むことが出来るのは、私にとって紛れもなく良い経験になるだろう。



 体育館の中は、普段のそれとは別物だった。照明が組まれ、床にはコードが這い、中央には簡易ステージ。スタッフの声が反響して、ざわざわと落ち着かない。


「リン、クラブ帰りそのまま来たん?」


「朝方までおったよ。軽く、ネカフェで仮眠してそのまま」


「相変わらずやなぁ」


「単位ヤバイから朝はちゃんと来なね。」



 笑われながらも、私は軽く肩をすくめる。



 ──夜に逃げ場を作るのは、もう癖みたいなものだった。


 そんな事を考えていた時……ほどなくして、アイドルたちが姿を現す。


 歓声が上がる。性別問わず、体育館の中に居る生徒たちほぼ全員が一斉にスマホを構え、空気が一段階、熱を帯びた。


 ……やっぱ、人気者ってすごい。



「マジでセンターの赤井君イケメン過ぎる!」


「赤井く~ん!」


 熱を帯びたその声は、センターに立つ男に向かう。


 赤井蓮……。演技をさせてもピカイチ、歌わせてもピカイチ、スタイルもピカイチ、顔も文句なし。


 セカンド・ラブ自体がかなり職人気質のアイドル集団で、バラエティーもエンターテイメントも全てを極めようとしているのがテレビ越しからでも感じられる。その軍団のセンターを張る男──タダ者ではない事は確か、だ。



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