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媚びない美しさと心の重さ【4】

 


 鳳四魂大社の鳥居は、夕暮れ前の独特な淡い色をそのまま閉じ込めたように、静かにそこに立っていた。


 二人で境内に足を踏み入れた瞬間、外の音が一枚、薄い膜を隔てたように遠のく。砂利を踏む音が、やけに鮮明だった。


「……やっぱり、空気が違う」


 ミオが、少しだけ声を落として言う。着物の袖を揃える仕草が、無意識のものだと分かるくらい自然だった。私も自然と背筋が伸びる。


「一応、由緒正しい神社やもんね…。」


 私はそう返しながら、バッグに付けているお守りに一瞬だけ視線を落とす。私の心を表したかの様な淡い色のアメジストはまるで自分は世界一の宝石だと主張する様にキラキラと輝いていた。


 拝殿の前へ向かう途中、不意にミオの足が止まる。


「……あ」


 そう呟いた彼女の視線を追って、私も前を見る。境内の奥、賽銭箱の前。──並んで立つ二つの背中があった。片方は、少し肩に力が入った立ち姿。もう片方は、どこか落ち着きなく、体重を左右に移している。


「凄い偶然…」


 声に出した瞬間、向こうが振り返る。


「えっ」


「あっ!」


 ひかりが目を丸くし、次の瞬間、リンが大げさに手を振る。


「うそ、エマ!?ミオも!?」


 驚きと笑顔が同時に弾ける。ひかりはバイト後らしく、動きやすそうな服装の上に薄手のカーディガンを羽織っていたリンはこれから仕事なのか、派手めのトップスにラフなデニムという、いつもの彼女だった。


「私らも、さっき鳥居の前でたまたま、会ってん。ほんまに、四人、会いすぎやな‥」


 リンがコテコテの関西弁で、そんなことをいうと、ひかりがウンウンと頷きながら大きく笑った。


「私達はお茶会の帰り。二人はバイトの前後。ラインを動かした訳じゃないのに、タイミングいつも一緒じゃない?」


「だよね。親友になれるかも」


 私の言葉に、ひかりがそう返答した時、ミオが一歩遅れて小さく微笑んだ。


「……もう、なっている気もするけど」


 四人で顔を見合わせ笑顔を作ると、並んで拝殿へ向かい、それぞれ静かに手を合わせる。形式ばった作法じゃない。


 ただ、今ここに来た理由は、誰もが分かっていた。

 

 そして四人して振り返ったとき、境内の端に佇む人影に気付く。



「あ、温子さん!」


 割烹着姿の温子さんが、穏やかに頷いた。そして、手に持つ箒を置いて、手招きをする。


「今日も賑やかね」


「権蔵さんは?」


「参拝の方の対応中よ。……よかったら、中で少し休んでいって。お茶くらいなら時間あるかしら?」


 優しい笑顔と上品な仕草で居間に通された私達。


 畳に腰を下ろした瞬間、張っていたものがすっと緩む。──湯気の立つお茶の香りに柱時計の一定の音。

 

 その静けさの中で低い声がした。


「……やっぱり、集まったね」


 次の瞬間、畳の縁から、小さな影が姿を現す。



「ゴン太ァ!」


 リンがゴン太を抱きかかえると、ゴン太もそれに応える様にきてフニャッとした笑顔でリンの胸に収まる。


 リンはかなりの動物好きだろう。


 前から思っていたけど、今日で確信に変わった。



 リンに抱かれたゴン太は満足そうな顔を浮かべたまま、少し離れた位置で立ち止まる。そしてミオと私を交互に見た。


「ミオもエマも綺麗だね」


 短い言葉。けれど、飾り気のないその一言が、妙に胸に残った。


「……ふふっ、ありがとう。」


 ミオが小さく頭を下げる。私も御礼を小さく言ってから笑顔を浮かべた。


「なあ、それよりさ。四人がここに集まった理由ってみんな同じよね?」


 ひかりがそう言いながらバッグの中からお守りとコンパクトを取り出す。


 全員の瞳がコンパクトの中に埋め込まれている、まだ濁りのある水晶に集まる。それを見たゴンタは静かに、だけど淡々とした声で話し出した。


「一度で全てを完全に浄化できるとは限らないんだ」


「感情が複雑な程、時間も手間もかかる。そういう時はもう一つ上の技を使えるよ」


「上の技?」


 ひかりが茶を啜りながら聞いた。


「うん。クリスタルゲートっていう技」


「クリスタルゲート……」


「怨念の過去にさかのぼって、何故その感情が生まれたのか。怨念はどんな気持ちを抱いて怨念となったか。それを探し出す旅みたいなものらしい。僕もそういう技を使いこなせる人が出てくるかもしれない、なんていう神様からの言い伝えとして聞いたうちの一つだから実際に見た事はないけどね~」


「魔法少女やん」


 リンがあの日出された物と同じ金平糖を口に放り込みながらそんな事を言う。すると、ゴンタが「僕も!」と金平糖を勢いよくお皿の上から取り出し、一気に食べた。


「フフッ、ゴン太のどに詰まるよ」


「大丈夫だよ。だってこれ美味しいんだもん」


「ねえ、ゴン太。この濁ってる水晶はクリスタルゲートするべきなの?」


「いや、クリスタルゲートは戦いの最中しか出来ないと思う。その水晶は…「周りの水晶は完全に浄化されている。それに感化されて透明になってゆくことを信じてみましょう」


 そう声をかぶせたのは温子さん。


 どこか妙に納得した私たちは「そうだね」「うん」と口々に言いながら、黙り込んだ。




 ──怨念。それは、果てしなく気持ち悪くて、果てしなく怖い存在であることは間違いない。


 だけど、確かにそんな怨念たちにも『生まれた理由』があるのだ。


 そこを探し出さないと、浄化しきれない…っていうのは、何となく腑に落ちた。だって私ですら、過去の自分を癒し切れてないのだから。


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