媚びない美しさと心の重さ【3】
会場を出て、少し日が傾き始めた風情ある町並みを歩く。華やかな着物姿の私たちは、道行く人々の視線を否応なしに集めたけれど、今の私の意識はその半分も外に向いていなかった。
「……ねえ、エマ。やっぱりこれ、気になるよね」
「え?……ああ、うん。」
ミオがおもむろにバッグから取り出したのは、あのコンパクトだった。中に埋め込まれている水晶の内の一つは、昨日ミオが一人で浄化したもの。
そして、他とは違いまだ少し濁っている。
「行ってみる?鳳四魂大社」
「うんッ、エマが時間あるなら、是非行きたい…!」
真面目なミオの事だ。きっと、ここで彼女を放置したら自分のチカラが足りなかったんじゃないか、とか悩むに違いない。
「5円玉入れて、専務との恋も神頼みしなくちゃね」
私がニヤリと笑って茶化すと、ミオは分かりやすく頬を赤らめた。
「いやっ、えっ…!そういう意味じゃっ…!」
浮足立っているミオを「はいはい」といなす。
けれど、そう言う私自身の胸の奥も、実はさっきからざわめきが収まらない。そんな私の顔をチラリと見たミオは何かを思いついた様に、ただでさえ大きな瞳をもう一段階大きくして私を見つめて話しだす。
「あ、そうだ! 千さん、すごかったよね。まさか裏千家の次期家元候補だったなんて……。」
「ね。国宝だよ、国宝。凄いよね」
「エマ、最後の方何か話してたでしょ?二人で何話してたの?」
ミオの純粋な好奇心の瞳が私を射抜く。
私は歩調を緩めず、前を向いたまま、努めて平然とした声を絞り出した。
「……ああ、連絡先、交換したわよ。千さんと」
「えええっ!? 嘘でしょ!?」
ミオが立ち止まって叫びそうになるのを、私は手で制した。
「声が大きい。」
「……えっ、でもエマ彼氏居るでしょ?」
ミオの言葉に、一瞬だけ足が止まりそうになる。
──そう、私には健吾がいる。
けれど……今までの私の恋愛は、いつだって「押されて、折れる」形だった。健吾との恋だってそうだ。
そして情が移り、相手を大事に思ってきたときに、重いだ、可愛げが無いだで振られる。お決まりのパターンだった。
健吾だって、最近は朝帰りが増えた。このままいくと、三か月もしない内に新しい女を作って出て行くに違いない。
──あれほどまでに母親を憎んでいたのに、母親と同じ様に美貌もスタイルも、自分の一部として利用してきた自分の人生にはたまに反吐が出そうになる。
けれど……自分から本気で「この人だ」と、雷に打たれたような衝撃を感じたことなんて、一回か、二回程度だった。連絡先を聞きたいなんて思った事すらない。
千海里……あの童顔で、食えない笑顔を浮かべる男。
スマホの画面を見なくても、さっき登録したばかりの名前が脳裏に焼き付いている。
健吾というモヤを抱えたまま、私はそれを軽々と飛び越えてくるかもしれない異常事態に、無意識のうちに期待してしまっている。
「……ミオ、私ってねバカな女なの。」
「へっ?」
自分でも驚くほど冷めた声でそう言い放つと、ミオは少し不安そうに私の顔を覗き込んだ。
「神頼みしないといけないのは私の方かも」
私はミオを追い越すようにして、カツカツと草履の音を響かせた。胸元の水晶が、歩くたびに私の鼓動をなぞるように小さく揺れていた。




