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ミオという生き物【6】

 


 つい思わず、昨日寝る前に考えていた言葉を口にしてしまった自分に顔を染めそうになるが、変身した私の前に立ちはだかるのは、巨大な鎖に縛られた『怨念』。


 顔を染めている暇なんて無いのは、明白だった。



 私は、瞬く間に交わされるその攻撃をかわしながら、自らの首の水晶に触れる。


 その瞬間、どこからともなく現れたのはゴン太だった。


「ミオ、大丈夫!?」


「どうにか!あ、危ない!ハーモニーブロッサム!」


 ゴン太を襲いそうになった影の粒子を、まるで綺麗な桜花が列を為すかの様に振り払い、その隙を狙って、ゴン太を抱きかかえる。


「おお、すごい!ミオ!ありがとう」


「いいえ、大丈夫?」


「うん、僕は大丈夫……来るよ、ミオ!」



 怨念は低く叫びながら、自らに巻き付かれた鎖を私たちめがけて投げつける。


 ステッキを向こうにめがけて振ると、どうにか、これも回避する事が出来たけど…少し冷静になって考えると一人で怨念と戦うなんて、初めてだ。


 私なんかで倒せるのだろうか──そんな不安が自分の胸の中に渦巻いてくるのが分かる。



「ミオ!しっかりして!攻撃が弱まってる!」


「ゴ、ゴメン。」


「大丈夫、ミオは強い!ミオなら出来るよ!」


 そう言いながら、私の肩の上に立つゴン太は、次々と飛んでくる攻撃を、赤い炎のような光で弾き返していく。


 短い前足を振るたび、攻撃は粒子となって怨念へと返される。その一連の動きは、私たちとは違い、明らかに戦い慣れているものだった。



「ミオ、この怨念はまだ弱い!ミオ一人でも出来るかもしれない!」


「……あの黒水晶を狙えばいいの!?」


「そう!あそこを狙って!」



 ──山崎佳代子、相手がベテラン社員であろうが新入社員であろうが決して自分のスタンスを崩さない女性。怖くもあり、けれど仕事仲間としては信頼できる。そんな相手。


 なぜ、彼女は、あそこまで一人の人間を追い詰めてしまったのだろう。


 そう考えてみるけれど、私たちは、クリスタルガールズだとか、変身ができるだとか言っても、他人の気持ちを即座に理解できる魔法なんて持っていない。



 だけど——誰かを強く攻撃してしまう人にも、その人にしか分からない苦悩があるはずだ。


 強い言葉は、ナイフのように、いつか必ず自分に返ってくる。それが、人間の人生だと私は思ってる。


 彼女は頭がいい。小学生や中学生じゃない。だからこそ、そんなこと、嫌というほど理解しているはずなのに──それでもなお、キツい言葉を使う理由。



「山崎さんッ……!元に戻ってきて!ハーモニーブロッサム!!」



 私は勢いよく怨念の中心に浮かぶ黒水晶めがけて飛び出すと、ステッキを中心に向かって振りかざし、すっかり言い慣れた、あの名前を叫ぶ。


 すると怨念は先ほどとは比べ物にならない程のパワーで、私の無数の花びらを押し返そうとした。



「……負けない!……絶対に負けない!」



 ──今までの弱い自分とは決別したい。そんな思いだった。


 私は……弱かったんだ。


 誰かが誰かの悪口を言っていれば、本心では何も思っていなくても、場の空気を壊さないために、黙って頷いてしまう人間だった。

 

 「私はあの子のこと、結構好きだよ」そんな言葉を、口が裂けても言えない人間だった。


 自分が浮かない様に、自分が標的にならない様に。


 そんな無意味な事に全力をささげて今迄生きてきた。



「私は──自分を守るの!もう弱い自分にはなりたくない!」



 私は両手を合わせ、ステッキを力いっぱい握りしめる。すると、ステッキの先端に付くお守りと同じ色の水晶から放たれたのは、先ほどの攻撃とは比べ物にならない程の無数の光の花びら。


 淡いピンク、優しいグリーン、そして希望のイエロー。 花びらは渦を巻き、怨念の体を包み込んでいく。



「ゴン太、力を貸して…!」


「うん、僕も!」



「ハーモニーブロッサム!」

 


 花びらは、炎のような真っ赤な粒子に押される形で、怨念の核へと到達した。


 次の瞬間、鎖が砕け散る音が響く。耳に残る低い悲鳴を上げたその塊は、やがて光の粒となり、宙へ浮かび上がる。


 そして、吸い寄せられる様にしてどこからともなく現れたコンパクトの中へと消えていった。



「……倒せたのかな」


 

 私がそう呟くとゴン太は「まずい」と言ってから、コンパクトの中心の水晶へとまた消えていく。そしてそれと同時に私の変身も解け、給水室に静寂が戻った。


 山崎さんは、きょとんとした様子で立ち尽くしている。


「あら……私、何を。少し言い過ぎたかしら」


  謝罪こそなかったが、毒気が抜けたように足早にその場を去っていった。そして、当の本人の田中さんも「アレ?」と一言呟くと小さく私に頭を下げてから、続く様にしてその場を去る。


 揺らぐお守りに付く水晶をふと見た直後──スマホが小さく震えた。



エマ:『いま、熱くなった。変身した?』


ミオ:『ごめん、した。一人でどうにかやってみたよ。水晶、増えてるかな?』


ひかり:『だよね?コンパクトが熱を持ったから私も思ってたんだ。増えてるよ!……でも、色が違う。まだ濁ってるみたい。何だろうこれ』



 ひかりちゃんからのラインを見て、私もコンパクトを開ける。


 そこには、他の水晶の透明さとは明らかに異なる、水晶があった。



リン:『休み時間終わるから確認してまたライン入れるね!でもミオ、お疲れ様!』



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