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ミオという生き物【3】



 ──騒がしい居間。テーブルの上には煮物やお刺身が、まるでパーティーのように豪華に、そして綺麗に丁寧に並べられている。


 それを囲み、キャッキャと女子トークを盛り上がらせているのは私たち――クリスタルガールズだ。


 そしてこの女子会が開催されているのは、鳳四魂大社の敷地内。つまり、権蔵さんと、その奥さんである温子さんのお家だった。



 お二人には子どもがいないらしく、この騒がしい空間もどこか楽しそうだ。私たち四人を優しげな笑顔で見守っている。


 もちろん、その中には――あの日突然、リンちゃんと共に私の前へ現れたキツネの妖怪……いや、神の使いである『ゴン太』の姿もあった。



 そんな空間で、誰よりもくつろいでいるのは、仕事終わりの私やエマさんではなく、今日、キャバクラのアルバイトを当日欠勤したらしいひかりちゃんだった。


「で、本当にその専務、黒髪短髪のイケメンで、隼人って電話先で言ったの?!」


「うん、聞き間違いではないと思う……」


「絶対、タキシード仮面軍団の一人やって。みんなイケメンで好青年やったけど、隼人の隣にいた人、女の人みたいに綺麗な顔してたもん!」


「あ、そう。専務の顔は、確かに本当に綺麗で……」



 そう言いながら煮っころがしを取ろうとした私は、なぜかむず痒くなって箸を置いた。



 ふと顔を上げると、ニヤニヤとしたリンちゃんとひかりちゃんの視線が突き刺さる。エマさんは黙ったまま、ゴン太を撫でながら、静かにこちらを見つめていた。


「なになに、ミオちゃん。まさか一目惚れでもしちゃった?」


「えっ……! なんで、私が。そんなこと……」



 そう言いながら、自分の頬が赤くなっていくのが分かる。その反応を見たリンちゃんは、してやったりという顔で、ひかりちゃんの腕をつついた。



「恋、やね」


 小さくそう呟いたエマちゃんに、「まあまあ、いいわね」と声をかけたのは、台所からカットしたフルーツを運んできてくれた温子さんだった。




 ──恋?



 私が?



「ミオちゃんって、彼氏とかいたことあるの?」


「……ないです」



 即答気味に答えると、なるほどー、と言いながら、ひかりちゃんはフルーツに手を伸ばす。苺に柿、シャインマスカット。とても豪華な品揃えだ。



 そして意外なことに、ひかりちゃんが最初にフォークを伸ばしたのは、柿だった。シャインマスカットが好きそうなのに、案外渋い好みらしい。


「恋愛は?」


「……ない、です」


「ひぇ〜。それやと、その気持ちが恋かどうかも分からんよな」


「とか言うあなた。リンはどうなの?」


 エマがそう言いながら苺を口にする。



「私はそれなりにあるよ。学生時代は部活で忙しくてそんな余裕なかったけど、大学に入ってからは男の子と付き合ったり、クラブ行ったり」


「あ、クラブ好きって言ってたもんね」


「そうそう。」


 ひかりちゃんの相槌に、リンちゃんもウンウンと頷く。この二人は、私から見ると太陽のような存在だ。




 ──私は、幼稚園と小学校は男女共学だったけれど、中学からは女子校に通っていた。


 男性との出会いなんて、決して多くはなかった。



 小学校高学年の頃には……少しふわふわしている私を、「ぶりっ子だ」「調子に乗ってる」などと言う女の子たちがいて、正直、好きな人なんて作る余裕はなかった。


 嫌われないように。いじめられないように。とにかくグループの中で浮かないことに必死だった。



 中学校では女の子ばかりで、色々な子がいても、あからさまないじめはなく、楽しく学生生活を送れていた。


 でも、漫画で夢見ていたイケメンの若い先生もいないし、隣町の男子校の先輩が……なんていう王道の出会いも、もちろんない。



 ──それでも今思えば、だからこそあの空間があんなに楽しかったのかもしれない。


 休み時間に「みおりーん、ナプキン貸してー! あ、投げていいよー!」なんて大声で言われて、思わず笑ってしまった記憶は、女子校に通っていなければ味わえないものだ。


 映画やショッピングは友達と行けるし、母親とゆっくりランチやディナーをするのも嫌いじゃない。



 ──けれど、大学へ進学し、就職してみると、さまざまな経験を積み、自分で失敗しながら人生の選択をしてきた人たちが周囲に溢れていて、正直、圧倒された。


 そしてその頃には、母親が「自分は不幸だ」と人生やパパの愚痴をひたすらに語ることが、いかにおかしなことだったのかも分かってきた。


 ……それでも、無力な私は、自分を変えることも、他人を変えることもできなかった。

 

 だからこそ、毎日楽しそうなリンちゃんや、明るくて強いひかりちゃん、群れずに自分を持っているエマちゃんが、とても眩しかった。



 そんな彼女たちと一緒に何かをできていることが、

まるで漫画の主人公にでもなったかのようで、素直に嬉しかった。



 他人に人生や選択を委ねがちで、誰からも浮かないことに必死で、自分のことすら守れない私が、恋愛なんて。


 ──それどころか、一目惚れだなんて。


「……」




「ミオ」


 自己否定の気持ちでいっぱいになっている私に、優しく声をかけたのは、ゴン太だった。


「恋をするのは普通のことだよ。生きていれば、人を好きになるのも、嫌いになるのも、誰だって経験する」


「人を好きになることにも、嫌いになることにも、『資格』なんてないと思うよ」



 その言葉に、彼女たちは「そうだそうだ!」と声を揃え、私に眩しいほど無垢で綺麗な笑顔を向けてくる。



「ミオ、認めてみればええねん。あれ、私この人の顔に惚れてもうたかもしれん、って」


「そしたら、ちょっと自分が大人になった気分になるで。なあ、温子?」



「私はあなたの顔に惚れたわけではありませんよ」



「ひぇ〜。怖いのぉ。ワシみたいな綺麗な顔立ちの旦那を持っても、そんなこと言うか?」



 どこからか孫の手を持ち出し、背中を掻きながらそんなことを言う権蔵さん。──たぶん、この場にいる誰もが、今、同じことを思っている。



 それを証明するかのように、広い居間いっぱいに、今日一番の笑い声が響き渡った。



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