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少しずつ変わっていく世界【4】

 


 四つの力がステッキを通して一点に重なった瞬間、空間が軋んだ。


 黒水晶が、悲鳴のような音を立ててひび割れる。サファイアの青、アメジストの紫、トパーズの黄色、そしてローズクォーツの淡いピンク。それぞれの輝きが、荒れ狂う螺旋(らせん)となって怨念を包み込み、濁った闇を浄化の光で塗り潰していく。


「あの言葉でいいんだよね?」


 私がそう確認すると、皆が小さく首を縦に振った。


「とにかく必死に、この場を鎮める事に集中しましょう。」


「みおの言う通り、気持ちを一つに!」


 リンが笑顔でそう言うと、私たちは息を吸い、大きく叫んだ。



「「――ピュリファイ!」」


  四人の鼓動が、魂が、きっとこの瞬間だけは同じ方向に辿り着いていたんだろう。


 先ずはこの場を鎮めたい、そして、目の前で荒れ狂う怨念に少しでも安らぎを、と。



 その気持ちが伝わったのか前回とは段違いの光が弾ける。──黒水晶は、音もなく透明な雫へと姿を変え、キツネが掲げたコンパクトの中へ、吸い込まれるように消えていった。



「……終わった、よね」


 ひかりが深く、溜まっていた息を吐き出す。


「い〜いね〜、今の! 最高にキマってたよ!」


 やけに陽気な声が、足元から響いた。


「……え?」


 見ると、先ほどまでは机の下で隠れる様にして様子を見守っていた子キツネが、慣れた足取りで、りんの足元にちょこんと座り込む。


 陽光を反射する金色がかった毛並み。 その大きな尻尾が、まるで機嫌の良いメトロノームのように左右に揺れていた。


「はあ~可愛すぎる~ゴンタ~」


 緊張感から解放されたりんが、屈み込んで何の躊躇もなくその頭を撫でる。


「ふふ〜、そこそこ。リンは撫でるの上手だね、本当!合格!」



 ――喋った。



「え、喋った!?」


「うわっ、普通に喋るタイプ……!?」



 驚愕するひかりとエマをよそに、ゴンタと呼ばれた子キツネがぴょんっと軽やかに跳ねると、次はみおの胸元へ飛び乗る。みおも満更ではない様子で撫でていた。


「……ゴンちゃん、何だか私たちの変身、前と変わって豪華になっていませんか?」


  みおが、鈴を転がすような声でそう言った。


 その言葉に、ひかりは自分の胸元へ視線を落とした。


「あ……本当だ」


 サファイアのブローチの下に、繊細なカッティングを施されたネックレスが付け加えられている。 エマの漆黒のドレスも同じだった。アメジストの宝石が連なり、より重厚で高貴な装飾へと進化している。



「それに、さっきの攻撃……前より、はっきり効いてた」


 エマの鋭い視線が、みおの胸元でくつろぐキツネに向いた。


「お、鋭いね〜。 正解! 君たちの覚悟が決まったからだよ」


「……覚悟?」


 私がそう繰り返す。


「そ! 前はね『巻き込まれた』感じだったでしょ? でも今は違う。自分でここに立つって、ちゃんと自分で決めた」


 一瞬、四人の間に沈黙が落ちる。


「その分、変身も攻撃も、前より本気仕様になったんだ」


「……じゃあ、あなたは何者なの?」


 エマが、冷徹なまでの美しさを湛えた瞳で問う。


 子キツネは、少しだけ、その琥珀色の瞳の奥に深い知性を宿した。


「ぼく? ぼくはね〜……」


 長い尻尾が、ゆっくりと弧を描く。


「こっちの世界と、あっちの世界の『境界』にいる存在。一応、神様の使いってやつ。こっちの世界でもキツネは神の使いとして知られてるでしょ?」



「神様……?」


「うん。神様から指令が出たんだよ。君らを見守る様にって。まあ最近はさ、神様でも元居る人達でもどうにもならないくらいの――怨念がね。簡単に言うと…増えすぎてるんだよ。」



 百貨店の華やかな空気とは裏腹に、背筋に冷たい氷を押し当てられたような感覚が走った。


「本来なら、決まった役目の人たちだけで回るはずだった。でももう、足りないんだ」


「神様でも……受け止めきれないの?」


 みおの問いに、キツネは黙って首を振った。そして四人を順番に見つめる。


「今回は、君たちで解決できた。でも、次もそうとは限らない」


 ひかりは、お守りの水晶をぎゅっと握りしめた。



「大丈夫だよ、ひかり。倒すコツはね――怨念の感情を、否定しないこと」


「つまり、受け入れること、よね」


 エマは、さっきの戦いの瞳を見ても思ったが『何かをつかみかけている』に違いない。


 そんな彼女の言葉に、キツネが大きく頷く。


「そう。怒ってもいいし、嫉妬してもいい。怖くても、みっともなくてもいい。それを『なかったこと』にしようとすると、怨念はもっと強くなるんだ」


 四人は、自分たちの中に渦巻く、決して「綺麗」とは言えない感情を思い浮かべた。



「ま、今日は説明はここまで! これからよろしくね、クリスタルガールズ!」


 キツネは再びりんの足元へ戻ると、何事もなかったかのように座った。光の粒子になり、最初からそこにいなかったかのように消えていった。


  その笑顔の奥には、まだ語られていない向こう側の闇が広がっている事はバカな私にも明白だった。





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