四魂の導き1
「ひぇぇぇ! 落ち着け、落ち着くんじゃお嬢ちゃんたち!それをむやみに振り回したらアカン!それは祟りじゃなくて、単なる変身や! 変身!」
大阪の南、由緒正しい鳳四魂神社の境内に、場違いなほどコミカルな老人の叫び声が響き渡った。
幕末から続くこの神社の神主、鳳源蔵、七十五歳。
普段は「由緒正しき神社の守り主」を自称している。白髪と曲がった背中のおかげで、「それなりに見える」効果だけは抜群のはずだった。
だが今、その神主は社務所の影に半身を隠し、烏帽子を歪ませながら、齢二十前後の少女たちに向かって身振り手振りを交え、必死に説明していた。
「聖なる変身って……こんなヒラヒラの格好して言えるわけないでしょ!露出度高すぎやし、こんなん変身じゃなくて、ただのコスプレやん!」
星野ひかりは、自分の姿を見下ろしながら絶叫した。
深い海のような青──アクアサファイアが胸元で輝く、ビスチェ風のドレス。幼い頃、テレビ越しに見て憧れていた女性戦士たちの姿が脳裏をよぎる。
けれど、今の年齢でこれを着るとなれば、どう見てもコスプレだ。
ふわりと広がるフィッシュテールの裾から、白くしなやかな脚が大胆に伸びている。石畳を鋭く叩くのは、蒼色のひざ丈ロングブーツに良く似合う細いヒールだった。
「あの、星野さん……でしたっけ。私、お化粧が……その、すごく濃くなってる気がして……」
隣で困惑しているのは、神崎みお。
淡いピンクの桜の花びらが無数に散りばめられたAラインドレス。オフショルダーから覗く肩は華奢で、カチューシャも合わさってまるでその見た目は本物のお姫様のようだ。
跳ね上げられたアイラインと、艶やかなグロスが乗った唇が、控えめな美しさを攻撃的なほどの可憐さへと変えていた。
「みおちゃん! そんなの後よ、後!今は集中して! ほら、アイツ、また来るよ!」
一人、この状況を楽しんでいる様に見える朝倉りんが、ヘソ出しの黄色い衣装を翻して叫ぶ。
黒を基調にしたミニスカートと、黄色と黒が混ざった絶対領域のみを残した長めのニーハイブーツ。頭には、ひまわりを思わせる黄色のトパーズの髪留め。
それもまた、どこかで見たことのある【魔法少女】の姿だった。
彼女たちの視線の先──
地面から湧き出した黒い霧が、巨大な蜘蛛のような形を成してうごめいている。
神主が先ほど説明していた──❝怨念❞。
「……はぁ。いつまで戦隊ごっこの気分でいるのよ。冷静になりなさい。しっかり戦わないと、私たち逃げられないわ、これ」
人一倍落ち着いた声で、西園寺えまが言い放つ。
紫のスリットドレスから覗く脚を優雅に踏み出し、タイトなシルエットと高い位置で結い上げた黒髪が、大人びた雰囲気を際立たせていた。
「そうじゃ、紫のお嬢ちゃんの言う通りじゃ!手に持っとるそのステッキを❝怨念❞めがけて、心を綺麗にした状態で振ってみィ!」
源蔵が社務所から身を乗り出し、激しく手招きする。
「拾ったお守りが形を変えたのは、あんたらが選ばれた証拠なんじゃから!」
「ええい、頼むから早うせんか!拝殿が壊れたら修理代がえらいことになるわい!宗教税金無し言うても、このご時世、寺社に金なんぞ無いんじゃ!」
「結局お金かよ、クソジジイ!」
悪態をつきながらも、ひかりはアクアサファイアの埋め込まれた豪奢なステッキを強く握りしめた。
これが夢なら──やるしかない。
格好良い姿で勝利して、明日インスタのストーリーに「面白い夢を見ちゃった」なんて書いてスタバのラテの画像と一緒に上げてやろう。
そんな打算的な想いを、胸の奥に隠しながら。




