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ラブコメディ

クリスマスQ & A〜呪いがとけるクリスマス〜

作者: 地野千塩

 Q「結婚できないアラフォー女てやばい? なんだかんだでずっと彼氏もいない。クリスマスもぼっち更新中。おまけに仕事もパッとしないよね。結婚したら、何か変わる?」

 A「結婚は良いものです。一人でできないことも二人ならできます。喜びは二倍、悲しみは半分になるのです!」


 深夜、一人でAIとチャット中。鈴丘麻美、三十八歳。仕事も非正規、ギリギリ一人暮らしはしているけれど、もうすぐクリスマスが近づく。そのたびに思う。一人でいる自分は欠陥品じゃないかって。


 Q「AIのくせに、ぜいぶんとくさいね。やっぱり婚活したほうがいいのかね?」

 A「イエス!」


 ずっと登録したまま放置中のマッチングアプリ、再開してみた。クリスマス時期だろうか。男女どちらもソワソワした雰囲気だったが、年収が高く顔がいい男にいっぱいいいねがついていた。


「う、なんか引く……」


 マッチングアプリ内の格差社会についていけない。欲望や差別が可視化され気持ち悪い。それでも何人かとマッチし、適当にやりとりしていたら、とある男と会うことに。研究開発の仕事をしている理系男子。年齢は四十歳。年収はそこそこだが、一応会ってみる。


 駅ビルに入ってるカフェで落ち合う。相手はこういうことに慣れていないのか、ずっと腕組みし、不機嫌そうだった。名前は香野守。


 顔はまあ、年相応。白髪もぽつぽつあったが、メガネ姿は堅物そう。あまり恋愛は好きじゃない雰囲気だが、この人もクリスマスムードにやられたんだろうか。カフェでもクリスマス限定のラテを頼んでもいた。麻美もクリスマス限定ブレンドのコーヒーをすする。


「しかし、結婚できないアラフォー女なんて呪物みたいだよな」

「え? は?」


 自己紹介までは一応和やかだったが、なぜか香野に説教をくらう。「女さんは結婚に逃げられるからずるい」とか「婚活女は高望み」だとかSNS情報をコピー&ペーストしたような言葉。聞くだけで身体がこわばる。


 これはナシだなぁ。服装もダサいし、こんな会話をしてくるなて。麻美はコーヒー代を払い、早々に退散した。


 Q「っていう男に会ったけど、私って呪物?」

 A「そんなことはありません! 今のコンプライアンスの世の中で、そんな言葉を言う人がおかしいんです! いいですか、幸せは結婚などでは計れません! 幸せは人それぞれです!」


 うん?


 AI、前と言っていることと違う。前は結婚が素晴らしいと勧めてきたが、今は人それぞれの幸福について謳っている。


 Q「前と意見違くない? AIの意見ってどこにあるの?」

 A「そもそも私は人間ではなく、感情もなく……」


 AIと会話していたら、ますます虚しくなってきた。今年もぼっちなクリスマス決定。呪物みたいな存在、一丁出来上がり。


 Q「この呪いはとける?」

 A「AIの回答は必ず正しいとは限りません。重要な情報は必ず確認をしてください」

 Q「だよね。ずっと毎回矛盾しているもんね。あー、虚しい!」

 A「そうですね!」


 AIに同意されても嬉しくない。が、クリスマスで一人なのも耐えきれない。今度は婚活パーティーを申し込んだ。


「は?」


 しかし会場にあの男がいた。香野守。また説教を言われると思うと嫌になったが、相手は謝ってくるではないか。


「は?」


 意味不明。


 ◇◇◇


 マッチングアプリは格差社会だ。どうせイケメンが全部持っていくんだ。ほら、実際、高身長で高年収で高学歴の男にいっぱいいいねがついてる。


「けっ! 何がマチアプだよ、下らない」


 文句しか出ない香野守。職業は香料の研究開発をしていた。大学の時、この苗字をみた面接官が何か運命じみたものを感じ、内定が出たそうだ。本当は別に研究したい分野があったが、なんだかんだで新卒後、ずっと同じ職場で続いてる。といっても仕事では海外研修も多く、忙しい。すっかり婚期を逃し、あわててマッチングアプリをするが、時すでに遅し。浦島太郎状態で全く成果が出ない。自業自得とはいえ、四十すぎて恋愛初心者という現状に涙が滲む。


 そんな折、プロフィール写真に好みの女性がいた。名前は鈴丘麻美。しかもマッチングして会えることに!


「服装がわからん。靴もわからん」


 全部わからないが、デパートに行き、店員に勧められるままに服を買う。あとは仕事と同じ髪型で大丈夫だ。浮ついた心で待ち合わせのカフェに向かうが、本人を目の前にしたら緊張でフリーズ。頭がパニックになり、なぜかSNSの婚活女性のことなどを話してしまい、空気は限りなく悪い。


「そうですか。結婚できないアラフォー女なんて本当に呪物みたいですね」


 相手に嫌われ、はい、終了。


 あぁ、困った。こんなこと言うつもりじゃないのに。


 Q「AI、こういう場合、どうしたらいいんか?」


 自宅で一人、聞いてみた。若い部下はAIに恋愛相談しているというし、試してみる。


 A「それはいけません。誠心誠意謝ってください」

 Q「でも相手にはブロックされてる。もうやばい」

 A「そもそも」

 Q「は?」

 A「なぜ君は結婚したいの? 君が一番、独身はダメだって呪いをかけていないかい?」


 心臓がギクっとした。確かにそう。婚活を始めたのも、自分に何か足りないと思っていたから。結婚してパートナーがいれば幸せになれるんじゃないかと思っていた。


 A「そんな欠けを埋めてくれるような結婚、どんな女だって嫌だよ。何で結婚したいの? 本当に独身は不幸か? 今のままで不幸なのか!?」


 意外なことにAIに説教をくらってしまった。麻美の気持ちがよくわかる。これは全く不愉快だ。その上、あながちまちがってもいない説教だから、さらに微妙。


 Q「ま、確かに一人でも不幸じゃないよな」

 A「その通りです。でも、結婚すれば一人でできないことが二人でもでき、喜びは二倍、悲しみは半分になります」

 Q「おいおい、どっちだ? 意見がぶれてない?」

 A「AIの回答は必ず正しいとは限りません。重要な情報は必ず確認をしてください」


 こんな会話、不毛だと思った。虚しい。もうAIは辞めて、とりあえず、また婚活は再開だ。婚活パーティーに申し込み、行ってみた。


 ソワソワと落ち着きがない男性陣の中に紛れ込んだ時、驚いた。麻美がいた。


 向こうも気まずそうだったが、謝るしかない。頭を下げ、謝った。


 麻美はなぜだか全く怒っていなかった。なんだかんだとマッチングし、連絡先交換し、一緒に駅まで帰る。駅周辺は華やかなイルミネーションに溢れて、まだクリスマスイブでもないのに、カップルも歩いていた。


 逆に清掃員がせっせと落ち葉をはき、保険会社の人がティッシュを配っていた。サラリーマン姿の男性も忙しそうに歩いている。案外、クリスマスでも一人の人多いかもしれない。それにこの人達が不幸なんて決めつけられない。


「まあ、僕はもう今のままでも幸せかな。そう思うことにします」


 言葉にしたら心は晴れていく。AIはどっちつかずで意見がブレていたけれど、結婚に夢を見るのを手放したら、楽になってきた。


「そっか……。そうですよね。結局、幸せだって思うのは他人でもAIでもない。私の心ってことかな?」


 麻美も頷く。同時に空かふわふわと雪も降ってきた。今日は一段と冷えるが、うん、そうだ、別に不幸じゃない。そう思ったら、雪の白さがとても綺麗だ。


「呪い、とけたかもしれない」


 吐息とともに麻美の声が響く。


 Q「結婚したら幸せになれる? 結婚しないと不幸?」

 A「知りませんよ。AIの回答は必ず正しいとは限りません。重要な情報は必ず確認をしてください」

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