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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第5章

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颱風(後編)

「よし! これならいけるぞ!! 2発目も――」


 それは、ミライアが、

 まだ話している途中だった。


 まったくの、予想外。


 決して油断していた訳ではない。

 あまりにも予期せぬ事態だった。



 ――ホウキが、前後左右を台風に囲まれていた。


「は?」


 モチコは思わず、間の抜けた声を出すことしか出来なかった。

 どちらへ避けても台風に飲み込まれる。


 回避は不可能だった。


 それでもミライアはホウキを直角に急上昇させ、台風の壁を上っていくように飛んで避けようとする。

 前後左右から迫る台風が、やがて互いに結合し、ホウキを吞み込もうとする刹那。


 ミライアが叫んだ。


「――くっ! そういうことか!!」


 台風がホウキを呑み込む。


「台風は、2つ重なっていた……ッ!」



 どうりで大きいはずだった。

 台風は2つあったのだ。


 1発目のアタックで、1つ目の台風がダメージを受け、進路がずれた。

 そこで重なっていた2つ目の台風が現れ、ホウキを挟み撃ちにしたのだった。


 ホウキは、台風の渦に巻き込まれた。

 渦に呑み込まれれば、たかが1本のホウキに、為すすべは無い。


 海の藻屑になるだけだった。


 それでもまだ、ミライアの心は折れない。

 “疾風迅雷の魔女”の二つ名を持つミライアは、持てる魔力をすべて使って、コントロールを取り戻そうと善戦した。


 5枚のスクロールも撃ち切った。

 渦に巻かれながらスクロールを正確に撃つことは不可能だったが、それでもほんの僅かに台風にダメージは与えた。


 しかし結局、そこまでだった。


 ホウキが台風の渦から脱出することは出来なかった。



 カミナリの光が見えた。

 ほぼ同時に爆発音がした。


 モチコは、猛烈に回転する景色の中で、その光を見た。

 だが、音は聞こえなかった。


 カミナリに撃たれて、意識を失ったからだ。


「――!?」


 モチコが気づくと、ホウキの上で身体が後ろにのけ反っていた。

 幸い、意識を失っていたのは一瞬だった。


 何が起きたかは理解できていなかったが、何かが焦げる匂いに気づく。


 お互いを結んでいた紐が、カミナリで焦げて切れた。

 飛んでいきそうになった紐を、モチコは反射的に掴む。


 これが無いとモチコ大回転ができないから。


 紐を掴んだとき、姿勢が崩れ、メガネが飛んだ。

 ぼやける視界のなか、両手を伸ばし、メガネを掴もうとする。


 運よく、左手が黒ぶちメガネをキャッチした。

 だが、そのときには、モチコの身体はホウキから落下していた。


 正確には、落下ではなく上昇だった。

 凄まじい渦によって、高く巻き上げられたのだ。


「モチコ!!!」


 先輩が名前を叫ぶ声が聞こえる。

 でもその声もだんだん遠くなる。




 ――これは、死ぬかもな。

 

 身体が揉みくちゃにされる感覚の中、モチコは自分でも意外なほど落ち着いて、色々なことを考えていた。

 こういうのを走馬灯というのかもしれない。


 先輩と、初めて出会った日と同じだ。



 ――台風の夜にメガネをかけてはいけない。

 でも、かけないと見えないしな。


 ――海に落ちて、クラーケンの今夜のおかずになるのはやだな……。

 でも、クラーケンぐらい、先輩なら倒してくれそうだな。

 


 いくつかの言葉が浮かんだあとで最後に考えたのは、叶わなかった夢についてだった。



 魔女になって空を飛びたいという夢。

 頑張って働いて学費をためて魔法学校へ通ったこと。

 結局才能が無くて魔女になれなかったこと。

 空を飛べない自分が、最期にこうして空を飛んでいるのは、ちょっと皮肉だ。


 この世界には、どれだけの数の夢があるんだろう。

 そのうちいくつが叶い、いくつが消えていくのか。


 ――私は叶わなかった夢と一緒に、ここで消え……。



 突然、心の底から。


 熱い想いが激流となって溢れてきた。

 黄金色(こがねいろ)の、まぶしい輝きだった。



 ……いやだ!

 消えたくない!!


 私はまだ、先輩と一緒に――。



 空を飛びたい!!!



 モチコの目の前に、金色の粉を振りまいたような光が見えた。

 その直後、凛とした声が響く。


「――手を出せ!」


 まるで暗闇に差し込む一条の光のような、凛々しい声だった。


 モチコは反射的に、右手を声のする方へ伸ばす。

 宙をさまよった手は、次の瞬間、差し出されたもうひとつの手によって、しっかりと握られた。



 手をつないだふたりは、台風の渦によって上下左右も分からなくなるほどにかき混ぜられ、嵐のなかに消えていく。

 遠ざかる意識のなか、ふたりは最後まで固く手を握り――。


 お互いに決して離すことは無かった。

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