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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第5章

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颱風(前編)

 暴風域に入った途端、ホウキのコントロールが難しくなった。


 猛烈な風が、不規則にすべての方向から吹きつけてくる。

 それでも何とか前に進もうとするが、正面から風が吹くと、ホウキが前に進んでいるのかも分からないくらいだった。


「もう、まっすぐ進むのは無理だ! 流されながらでも台風に近づくよ!」

「はいっ!」


 轟々と吹きつける風のせいで、大声で叫ばないとお互いの声が届かない。

 まっすぐ進むことを諦めたホウキは、風に流されながら揺れに揺れて、ときには横倒しになった。


 その中でモチコは、ホウキの上で身体を左右に大きく傾け、自ら姿勢を崩していく。

 モチコが姿勢を変えることで、ホウキのバランスを取るのだ。

 ミライアがコントロールし切れない部分を、カバーするための作戦だった。


「モチコ、いいよ! すごくいい!!」

「はいっ! まだまだいきます!」


 ホウキが風で左に押し倒されれば、モチコが身体を右に倒して、ホウキの方向を修正する。

 そうしてホウキは少しずつ、台風に近づいていった。

 暗い雲をかき分け、この嵐の中心を目指す。


 ――ズガァァァン!


 突如、視界が開け、轟音が飛び込んできた。

 目の前に立ち塞がっていた、厚い雲を突破したのだ。


 雲を抜けると、とんでもない爆音が待っていた。

 左右にそびえる巨大な建造物を、同時に爆弾で思いっきり破壊しているかのような、耐えがたい音。


 あまりの音量に、モチコは顔をしかめる。

 耳を手で押さえたいが、いまミライアから手を放したら、バランスを崩してしまう。


「痛っ!」


 何かが身体に当たって痛みを感じた。


 雨だ。


 暴風によって運ばれた雨粒が、いよいよ雨避けの魔法を貫通して襲ってきた。

 あっという間に全身が濡れていく。


 モチコは身体中に力を込め、バチバチと当たる雨粒の痛みに耐えた。

 ホウキが小刻みに振動し始める。


 ミライアの魔力と、風の強さが拮抗して、せめぎ合っているのだ。

 みしみしと、嫌な感触がホウキから伝わってくる。

 あまりの烈風。ホウキがしなって折れそうだ。


「私は飛ぶのに集中する! モチコは撃つのに集中して!」


 ミライアの叫び声が聞こえた。

 モチコはスクロールを撃つために、台風を探す。

 右か? 左か――?


 だがどこにも、台風らしきものは見えない。


「台風は、どこですか!?」


 モチコが叫んで尋ねる。


 答えはすぐに返ってきた。


「目の前! さっきから、ずっと!!」

「えっ!?」


 それは、もうずっと前から見えていた。

 大きすぎて、それが台風だと認識できていなかったのだ。



 視界すべてを覆う、あたり一面の、

 恐ろしい黒。


 その漆黒のかたまりが台風だった。



「今日は出し惜しみは無しだ! 1発で決めようと思わなくていい! モチコ大回転、4回は覚悟して!!」

「はいっ、任せてください!!」


 モチコは大回転に備え、スクロールを手に取った。

 深呼吸をして、カウントダウンを待つ。


「いくよ!」


 ミライアの声とともに、ホウキが回転を始めた。

 視界が回る。

 回転がどんどん速くなる。


 変わり続ける景色。

 雲、空、黒、海――。


「カウント!! 3ッ!!」


 カウントダウンが始まる。

 モチコはミライアを掴んでいた両手を離し、頭の上にまっすぐ伸ばした。

 スクロールを固く握りしめる。


「2!!」


 オーラを練り、スクロールに流し始める。

 緑色の泡のようなオーラがモチコを包み、スクロールも光を放ち始めた。

 全身ずぶ濡れだが、今はそんなことは気にならない。


「1ッ!!」


 スクロールに魔力が満ちた。

 視線と腕は目標に向けてまっすぐ、そのまま視線と腕をキープする。


 雲、空、黒、海。

 雲、空、黒、海――。


「撃てッ!!!」

「はいッ!!」


 モチコはスクロールを放った。

 タイミングは、完璧だった。


 ばすん、という音とともに光の矢が現れる。

 矢は一直線に漆黒の嵐を切り裂き、台風の根元あたりへと消えていった。


 モチコ史上、最高の出来だ。


 白い閃光が走ったのと同時に、ホウキが回転を止めて急旋回する。

 台風からいったん離れて、2発目を撃つ態勢を整えるのだ。


 ズーンという地響きのような音を聞きながら、ホウキが台風から離れていくのを見守る。


「モチコ! 完璧!!」

「やりましたっ!」

「よし! これならいけるぞ!! 2発目も――」


 それは、ミライアが、

 まだ話している途中だった。


(後編へ続く)

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