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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第5章

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おかえりはタイフーンのあとで(前編)

 ふたりを乗せたホウキが、街の上空を飛んでいく。

 急ぎ灯台(タワー)へと向かっていた。


 台風は近づいているものの、まだ街に雨は降っていない。

 それでも風はかなり強かった。

 借り物のホウキということもあり、揺れに揺れて、荒っぽい飛び方になる。


 ドレスとメイド服を着たふたりが、嵐のなかをホウキで飛ぶ。

 はたから見たら、変な奴らだと思われるかもしれない。


「先輩、タワーが見えました!」


 タワーの光は、割とすぐに見えた。

 ホウキをまっすぐ光の方へ向け、出来る限りスピードを上げる。


 そこで、鐘のような音が聞こえてきた。


 キンコン、カーン――。


 街中に鳴り響く大きな音。

 続けてアナウンスが始まる。


「台風が接近中です。――ただいまより、タイフーンシグナル・ナンバー(ナイン)を発令します」


 台風警告信号(タイフーンシグナル)だ。

 モチコたちは事前に知らされていたので驚きはしないが、あらためて緊張が走った。

 

「――繰り返します。タイフーンシグナル・ナンバー9が発令されました。規則に従い、すみやかに行動願います」


 シグナルの発令とともに、ホウキの下に広がる街が、一斉にざわめいた。


 何千何万という家々の窓が閉じられ、店は商品を中へと押し込む。

 街のすべての通りから人が消え、数えきれない程たくさんの建物の明かりが、不安を煽るようにせわしなく明滅した。


 さらに、いつもはここで終わるアナウンスに、今回は続きがあった。


「――大規模災害が発生する可能性が高いため、緊急事態を宣言します。すべての保安職員は直ちに緊急対応へ。冒険者の方は観光客の避難誘導にご協力ください」


 モチコはごくりと唾を飲む。

 異例のシグナル9に、異例の緊急事態アナウンス。


 これらは、シグナスの魔女がみな負傷して、戦えなくなってしまったために出されたものだ。


 このままだと台風は、シグナル9のまま上陸して街を襲うことになる。

 そうなれば、大災害になるのは間違いなかった。



 ほどなくして、ホウキはタワーにたどり着いた。

 借りたホウキでは高度が出せず、屋上展望台(フライトデッキ)への着陸ではなく、タワーの下から入る。


 待機室(ラウンジ)には、びちょびちょに濡れて、ボロボロの制服になったチャンチャルとピコットがいた。


 ピコットはテーブルの上に大の字で、気絶するように寝ている。

 チャンチャルは床に座りこみ、上半身をイスに突っ伏していた。


「ちーちゃん! 大丈夫!?」


 モチコがチャンチャルに、ミライアがピコットにかけ寄る。

 ふたりとも、魔力切れだった。


 細かい擦り傷はたくさんあるものの、大きな怪我は無さそうだ。

 ただ、魔力の切れたピコットは意識を失い、チャンチャルは立ち上がることもできない状態だった。


「モチコちゃん……! 戻って来てくれたんだね」

「……うん」

「うれしい。けど、今回の台風はだめだよ……」

「ダメ?」

「うちらが挑んだけどダメで……。でも、今度はマルシャちゃんが……」

「マルシャが?」

「モチコちゃんも……逃げて……」

「ちーちゃんっ!?」


 チャンチャルはそこまで言うと、意識を失ってしまった。

 ミライアとふたりでチャンチャルを運んでソファーに寝かせ、ピコットにブランケットを掛ける。


 それから急いでシグナスの制服に着替えて、準備を整えた。


「モチコ」

「はいっ」


 呼ばれたモチコは、ミライアの目の前に立つ。

 ミライアの手には、純白のスカーフが握られていた。


 ミライアが、モチコにスカーフを巻く。

 そのあと、モチコがミライアにスカーフを巻く。


 お互いのスカーフがしっかりと巻かれたことを確かめると、シグナスに戻ってきた実感が湧いてきた。


 私は、戻ってきたんだ。



 螺旋階段を上って中央展望室(コントロールルーム)に入ると、リサの叫ぶ声が聞こえた。

 どうやら総司令官と揉めているようだ。


「これ以上は危険です! アルビレオを全員撤退させてください!」

「だめよ。シグナル9のまま上陸すれば、この街にも王都にも、甚大な被害が出るわ。ほかのアルビレオもすぐに召集して」

「また犠牲者を出すつもりですか!?」

「私達が、やるしかないの。そのためのシグナスよ」


 叫ぶリサに、毅然とした態度で答える総司令官。

 そこに、いつも通りのんびりした、シズゥの声が響いた。


「いま王都は国際会議(サミット)で、世界のお偉い方が集まっているからね~。貴族たち(スポンサー)的には、やらざるを得ない、ってことなんだろうねえ~」


 そこへ、今やってきたミライアが口を開く。


「私が行くよ」


 中央展望室(コントロールルーム)の中にいた全員がミライアを見た。


「だめっ! ミライア!」


 リサが叫ぶ。いつもの透明な声は、悲痛な響きだった。


「リサ、任せて。モチコとなら、大丈夫」


 ミライアと目が合ったモチコはうなずく。

 そこへ、シズゥが近づいてきた。


「ミライアは、止めたところで無駄だからね~。はいこれ、超特別セットだから~」


 シズゥはそう言うと、凍結魔法のスクロールを5枚ずつ手渡してきた。

 ふたりで合計10枚も!

 10枚分の値段で、家が買えるのでは……。


 モチコがスクロールを胸ポケットにしまうと、シズゥは別のスクロールで雨避けの魔法をかけてくれた。


 そのとき。


「――医療班を呼んでくれ! マルシャを頼む!」


 中央展望室(コントロールルーム)に切迫した声が飛び込んできた。


(後編へ続く)

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