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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第4章

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77/83

おいしいネタで楽しいディナーを(後編)

 ――コンコンッ。


 モチコがマグロの美味しさと、ミライアのかわいらしさに夢中になっていたとき。


 突然ノックの音が響いた。


 食事の途中で、ダイニングの大きな扉がノックされたのだ。

 すぐに専属メイドさんがドアの外に出て、用件を確認する。


 何事だろう、とモチコとミライアも黙って様子を伺っていた。


「奥様、緊急の知らせです――」


 部屋に戻ってきた専属メイドさんが、すぐに口を開いた。

 抑揚の少ない冷静な口調だった。


「シグナスで巨大台風の接近を確認しました。まもなく、シグナル(ナイン)が発令されます」

「シグナル9っ!?」


 思いがけない知らせに、モチコが最初に叫んでしまった。


 タイフーンシグナル・ナンバー(ナイン)

 それは、未曾有の大災害であることを示す言葉だ。


 奥様とミライアは黙ったまま、表情を変えずに聞いていた。


 専属メイドさんは、まだ何か言うべきことがあるようで、奥様に目くばせをする。

 それを見て奥様は言う。


「構わないわ。全て言いなさい」


 専属メイドさんが、抑揚の少ない口調で告げる。

 その後の言葉は、さらに恐ろしい知らせだった。


「シグナスの魔女が台風へ挑みましたが、全滅しました。全員負傷し、これ以上のアタックは不可能です。奥様、すぐに避難を」


 それを聞いたミライアが椅子から立ち上がった。


「モチコ、行くよ!」

「はいっ!」


 ミライアはすぐにダイニングの大きな扉を開き、部屋を出ようとする。

 そこで、いったん振り返った。


「母上、すみません」

「たまには、本を読みにきなさい。ミライア」


 ミライアは頷くと、ドレスのまま走って部屋を出ていった。

 モチコも「失礼します」とだけ挨拶をして、慌ててミライアの後を追う。



 しかし、どうやってタワーに行けばよいのか?

 モチコもミライアも、ホウキと制服はタワーに置いてきた。


 お屋敷にある普通の掃除用ホウキでは、二人乗りには小さすぎる。


 ミライアとモチコは廊下を走ってエントランスホールに出た。

 ふたりでそこらじゅうを見回してみるが、使えそうなホウキは無い。


「くっ……! どこかに、ホウキは無いか?」

「先輩、もう走って駅まで行くしか――」


 モチコがそう言いかけたとき、突然、上の方からバカでかい音が響いてきた。

 ごろごろごろ!


 ダッダーーン!!!


 ホールにある大階段を何かが上から転がり落ちてきて、床に激突した。

 妙な物体が、つぶれたカエルみたいな形で、床にのびている。


 それはよく見ると、金色の髪に桃色の瞳が付いて、黒い魔女のローブを着た――。


 カエルみたいにつぶれている魔女だった。


「ラ、ランラン……?」


 モチコが声をかけたが、ランランは落下の衝撃がそうとう痛かったのか、ぴくぴくと震えて声も出せない様子だった。

 それでも、モチコに手を伸ばし、持っていたものを差し出そうとする。


 それは、お屋敷にある中で一番大きいホウキだった。


「これは……! ランラン、ありがとう!」


 ミライアにそのホウキを見せると「よし、これならいけそうだ」という答えが返ってきた。

 まだ身体をぴくぴくさせながらも、立ち上がったランランが言う。


「……モチコぉ、死ぬなょ」

「ありがとう、気をつける!」

「モチコが死んだら、ランラン氏も死にますゆぇ」

「いや、死ぬなよ!」


 ランランにふたたびお礼を言い、モチコはミライアとともにお屋敷の外へ出た。


 借りもののホウキでは全力で飛ぶことはできない。雨避けの魔法もない。

 それでも借りたホウキで無理やり空へ飛び立つ。


 ふたりを乗せたホウキは、ふらつきながらもスピードを上げ、タワーへと向けて飛び始める。


 遠い海の向こうには、空を覆い尽くすほど巨大な台風の姿が、少しずつ見え始めていた。




<第4章 完>

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