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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第4章

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おいしいネタで楽しいディナーを(中編)

 専属メイドさんが、トレイに乗せて前菜を運んできた。

 無駄のない動きで、ミライアとモチコ、奥様の前にお皿が置かれていく。


 なんかこう、野菜をソースでああしたりこうしたりしたような前菜だ。

 緊張してるし、高級な料理なんて初めてで、よく分からん。


 先輩の食べ方を横目で見ながら、真似して同じ食べ方をする。


 うまいしか感想が無い。うまい。



 前菜を食べ終わると、専属メイドさんがちょうど良いタイミングでお皿を回収していく。


 メイドさんがお皿を取るために少しかがんだとき、額でまっすぐに切り揃えた前髪が、ちらりと揺れた。

 いわゆる黒髪ぱっつんボブだ。


 先輩が艶のある黒髪なら、こちらは艶消しの黒。

 何かを内に秘めたような黒さだった。


 無表情ではないが、時おり会釈するときに見せる微笑みも、コントロールされている。

 目の形はぼんやりとした雰囲気なのだが、視線は周りのすべてをつねに把握しているような感じ。


 さすが奥様の専属メイドだ。



 続けて、スープが運ばれてくる。

 なんかたぶん、ジャガイモとか生クリームとかを、あれしてこれした感じのスープだ。


 うまいしか感想が無い。うまい。


「そういえば、父上はいないんだね?」


 ミライアの問いに、奥様が答える。


「今夜は、王都にいる」

「ああ、王都で会合か何か?」


 ふたたび、無言の同意。

 この親子はなんでこんな、剣士が間合いを探り合ってるみたいな会話なのか。

 聞いているほうがドキドキする。


 それから、ミライアがモチコの方を見て言った。


「この子はモチコ。シグナスでの私の相方。母上は、もう全部知ってると思うけど」


 たしかに、奥様は終始おどろく様子はない。

 もともとすべてを知っているかのようだった。


 紹介されたモチコは、ぺこりと頭を下げて挨拶する。

 そのとき、奥様の琥珀色の瞳と目が合った。


「小説から恋を学ぼうとは、愉快」

「ふえっ!?」


 突然、奥様からモチコへの言葉が飛んできた。

 びっくりして変な声が出る。


 なんて答えるべきか悩んでいると、ミライアが先に口を開いた。


「ふふ。モチコ、そんなことしてたの?」

「えっ!? ま、まあ、そうですけど……」

「モチコはさあ、ときどき変な行動するよね。急に恥ずかしがったり、大胆になったり」


 そんなことないです!

 と言おうとして、口を開きかけたモチコよりも先に返事をしたのは――。


 なんと奥様だった。


「多くを知っているが、理解の体系が独創的」

「そうそう。モチコは頭もいいし、難しいことを良く知っていて感心するのに、意外に変なところを気にする」

「尖った書物を置けば、面白い場所へ戻ってくる」

「ふふふ。モチコは反応が面白いから、ついつい色々と手を出したくなるんだよね。このあいだなんか――」

「先輩っ、もういいですから!」


 なにこれ?

 なぜか親子が打ち解け始めたのはいいけど、私をネタに盛り上がっているのはどういうこと?

 いや、打ち解けてもらえたなら、まあいいけど。


 余計なことを言いそうなミライアの口を、モチコは慌てて塞ぐ。

 それを見た奥様は、口元でにやりと笑みを浮かべていた。


 ……やっぱこのふたり、親子だ!



 そんなこんなであたふたしていると、メインの魚料理が運ばれてきた。

 専属メイドさんが置いたお皿を見て、モチコが思わず声をあげる。


「わっ! これ、マグロじゃないですか!」


 お皿の上には、マグロを使った料理が載っていた。

 煮たもの、焼いたもの、そして刺身が少しずつ。


「こんな貴重なものを……」


 マグロの刺身なんて、相当貴重だ。

 マグロ漁師のいる港町でもないと食べられない。


 マグロが獲れるような遠洋は、マナが薄くて魔物と戦うすべがないので、漁は命がけになる。

 だからマグロは、非常に貴重な高級品だった。


「モチコ、マグロを見たことあるんだ?」

「はい。私は北奥(ほくおう)の小さな港町で生まれたんですけど、そこでマグロ漁が盛んだったんです」

「へえ」

「獲れたマグロは基本、全部売りものになるんですが、大漁祭の日だけは少し食べられたりして」

「地元の特権ってやつだね」

「私の故郷では、一口サイズに丸めたお米に、マグロの切身を乗せて食べるスタイルでした」


 さっそくマグロを頂くことにする。

 お皿の上のマグロの刺身は、色が鮮やかで、明らかに新鮮なネタだ。


 モチコ的には箸で食べたいところだが、ここではナイフとフォークらしい。

 マグロの刺身をナイフで小さく切り分け、フォークで刺して口へ運ぶ。


 脂が乗ったマグロが、口のなかでとろけた。


 うまいしか感想がないっ! うまーーーーーい!!


 ……と叫びたい気持ちを抑え。

 この場ではお澄ましで「とてもおいしいです」と言っておいた。


 先輩は完璧なテーブルマナーで食べている。

 普段は床にあぐらで座って、ジャガイモを茹でずに齧ろうともしてたけど、やればできるんじゃん。


 確かにメイド長の言っていたとおり、お嬢さま風の先輩はかわいらしかった。

 不思議とこれはこれで成立していて、違和感がない。


 なんだか秘密の花園をのぞき見たような気がして、どきどきしてしまう。


 ――コンコンッ。


 モチコがマグロの美味しさと、ミライアのかわいらしさに夢中になっていたとき。


 突然ノックの音が響いた。


(後編へ続く)

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