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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第4章

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おいしいネタで楽しいディナーを(前編)

 ……どうしてこんなことにっ!?


 モチコとミライアは、大きな扉の前に立っていた。

 お屋敷のメインダイニングへと繋がる扉だ。


 いまから、夕食を頂くことになる。


 メンバーはヴェネルシア奥様と、ミライアお嬢様。

 そして――。


「なっ、なんで私も一緒なんですかっ!?」


 なぜかモチコも参加することになっていた。



 すこし前、モチコとミライアがお屋敷の本館に着くと、入口の前にメイドがひとり立っていた。

 見たことのないメイドだったが、他のメイドとは違って豪華なメイド服を着ていたので、奥様専属のメイドだと分かった。


 その専属メイドさんに、なぜかモチコも一緒に来るように言われ、案内されるがままについて行ったら、いま夕食会に放り込まれようとしている。


「わ、私なんかが参加して、いいんでしょうか……?」


 モチコが恐る恐る口にすると、奥様専属のメイドさんが抑揚の少ない声で答える。


「モチコ・カザミモリ様も同席させるようにと、奥様からのお申しつけです」


 うわあ。奥様は何をどこまでご存じなんだろうか。


 不安に思いながら横を見ると、先輩が今まで見たことがないような固い表情で扉を見つめていた。

 さすがの先輩も、緊張しているらしい。


 そりゃそうか。数年ぶりにお母様に会うのだ。

 しかも家出して以来初めて。


 モチコはミライアを励まそうと、隣に立つミライアの腕を掴んで、ぎゅっと握った。


 私がついてますよ!

 というメッセージのつもりだったが、緊張でひえひえに冷たくなったモチコの手では、逆効果かもしれない。


 すると、ミライアはモチコの方に顔を向け、口元でにやりと笑った。

 お、いつもの先輩だ。私のメッセージが伝わったかな?


「ふふ。モチコがすごい緊張してるもんだから、おかしくて、こっちの緊張が解けたよ」

「ええっ! そういう感じですか!?」


 予定とは全然違う伝わり方だが、まあ良しとする。



「準備が整いました。中へお入りください」


 専属メイドさんはそう言うと、大きな扉を開いた。

 扉の先にあったメインダイニングは、絵に描いたような豪華な部屋だった。


 横に長い立派なテーブルには、真っ白なテーブルクロスが敷かれ、銀の食器が並んでいる。

 テーブルの中央には、花瓶に生けられた白い百合の花が見事に咲いていた。


 天井にはシャンデリア。床はワインレッドの絨毯張り。壁際にはたくさんの高そうな装飾品。

 この部屋を掃除するメイドさんは、かなり緊張するだろうな……。


 奥様は長いテーブルの真ん中に座っていた。

 今日はさすがに本は読んでいない。顔はこちらに向け、美しい姿勢で座っている。


 専属メイドさんが椅子を引いて座るように促したので、ミライアとモチコは奥様の向かい側に並んで座った。


 椅子も明らかに高級なものだ。

 背もたれの部分には細かい木彫り細工が施されていて、普通はまっすぐなはずの脚の部分は、わざわざ謎の美しい曲線を描いている。


 こんな手の込んだ椅子、いったいいくらするんだろう……。

 いや、お金ばっかり気にしてる訳じゃないけど!


 テーブルにつくと、深い森で煙る霧のような神秘的な香りがした。

 奥様の香りだ。


 先に口を開いたのは、ミライアだった。


「……母上、お久しぶりです」


 ミライアの言葉に、奥様は何も答えなかった。


 だが、怒っているという訳でもないようで、表情はどこか優しげなのが分かる。

 何を秘めているのか分からない琥珀色の瞳で、ミライアを見つめていた。


 モチコは会話を振られるまで、だんまりを決め込むことにした。

 こんな空気で何をしゃべったらいいかなんて、分からん!


 この部屋には、奥様と、先輩と、専属メイドさんと、私しかいない。


 私がお屋敷のメインダイニングで、奥様と夕食をともにする日がくるなんて、想像できただろうか?

 なんだこの超展開。


 ……いやまてよ?

 そもそも、先輩が実はお嬢さまだった、というだけで超展開なのだ。

 そこからさらに超展開がきたところで、なんてことはないっ!



 ……いや、嘘です。

 超超展開で、めちゃくちゃ緊張しています。

 死にそうです。


 そんなモチコの苦悩を知ってか知らずか、親子の会話は進んでいく。

 久々の再会の挨拶もすっ飛ばして、奥様が口を開いた。


「人払いはしておいた。このメイドは問題ない。ここでは何を話しても構わない」

「そう言うってことは、母上はシグナスのことも、全部知ってるんだね?」


 奥様は何も言わない。これが、無言の同意ってやつだ。

 正直、親子の会話とは思えない。久々だからなのか、だいぶぎこちない感じ。


 この親子は元からこうなのかもしれないけど。


「このメンバーだけに人払いしたってことは、お屋敷では、まだ私が王都に留学中ってことになってるんだよね?」


 ミライアがそう尋ねると、今度はすこし置いて、奥様から返事が返ってきた。


「自由には、安全が保障される必要がある。そして安全には、秘密が必要」

「……なるほど。豪華な食事で口止め、ってことみたいだよ。モチコ」


 うわぁぁ!

 先輩っ、何とも答えにくい場面で振ってこないでほしいんですけど!


 モチコは「はぁ」と曖昧な返事でお茶を濁すしかなかった。


 ミライアの正体が、お屋敷の外では秘密であるように。

 お屋敷でも、ミライアとシグナスの関係は秘密、ということのようだった。


 それは、この部屋にいるメンバーしか知らない。

 先輩の秘密は、ここにいる4人だけが知っているってことだ。


(中編へ続く)

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