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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第4章

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ぬるくて痛い雨、そして(前編)

 世のなか、良いことばかりは続かない。

 そして、悪いことばかりが続くこともある。


 タワーへと出勤する途中。

 モチコは魔導トロッコを降りて、中央街の通りを歩いていた。

 今夜は先輩に何の食事を作ろうか考えていると、ふいに声をかけられる。


「あれ? カザミモリさん、だよね?」


 声の主を見ると、魔法学校時代の同級生だった。

 クラスメイトではあったけれど、特別に仲が良い訳でもないくらいの。


 まあ、学生時代のモチコは、ランラン以外に友達はいなかったわけだが。


「はい。お久しぶりです」

「卒業して以来だよね? カザミモリさん、変わってないからすぐ分かったよ」


 それはモチコが変わらず地味で無表情ということだろうか。

 いや、勝手にひねくれた考え方をしてはいけない。この子に他意はなさそうだ。


 学生時代から、表裏のないさっぱりした感じの子だったと思う。

 たしか水属性の魔法使いで、卒業後は医療関係の魔法士として就職したんじゃなかったっけ。


「カザミモリさん、今はどこで働いてるの?」

「今日は、シグナスに……」


 久しぶりに会った知人と交わす、他愛もない会話。

 だが、彼女が放った次の言葉に、モチコは身体を固くせずにはいられなかった。


「シグナス? カザミモリさん、魔法が使えるようになったんだ。よかったね!」

「あ……いや、えっと……」


 表裏のない、まっすぐな祝福の言葉だっただけに、モチコには鋭く突き刺さった。


「魔法は使えないんだけど……その……」


 うまく答えることが出来ない。


「え? 魔法が使えないのに、シグナスで何してるの?」

「うぐっ」


 自分の立場をあらためて思い知る。


 未だに魔法が使えない。それは事実だ。

 それなのにシグナスに居させてもらっている。


 ただ運よく、みんなの優しさに甘えさせてもらっているだけ。


 そのあとなんて返事をしたか、よく覚えていない。

 お手伝いをしてます、とか、適当に答えてぎこちなく別れたと思う。


 なんとか気持ちを切り替ようと、重い足を無理やり持ち上げて小走りでタワーへと向かった。

 思えばこのあたりから、悪いことが続いていく。




 今夜の任務は、昨日までのモチコなら楽勝なミッションなはずだった。

 だけど、大失敗した。


 日付が変わる頃にシグナル3の台風が来て、モチコがアタックすることに。

 モチコ大回転をするほどの台風ではないので、普通にスクロールを撃てば問題ない。


 だが、撃とうとしたとき、元同級生の子から言われた言葉を思い出した。

 集中できずにスクロールを2枚も暴発させてしまった。


 それでも一応シグナル2まで落とせたが、前回の大成功からの失敗なだけに、モチコはかなり落ち込んだ。


「モチコ、そんなに落ち込むことないよ。こういう日もあるって」

「はい……」

「今日は、まっすぐ帰ってゆっくりしよう」


 しょんぼりするモチコに、ミライアは励ましの声をかける。

 今日は実験をせずにタワーへ帰ることにしてくれた。


 ほどなくしてタワーへ戻ると、いつも以上に疲労を感じていた。

 テーブルでうたた寝をしていたら、夢を見た。



 ――みじかい夢。また、いつもの夢だ。


 魔法学校の定期試験が始まり、クラスメイトが1人ずつ先生の前に呼ばれる。

 みな合格していくなか、モチコの順番が来る。


 深呼吸をして、何度もトライする。

 魔法は発動しない。

 呼吸が浅くなり、全身に嫌な汗がにじむ。


 先生やクラスメイトが、みな失望した様子で去っていく。

 今日出会った、元同級生の顔もあった。


「君には才能が無い」


 誰かが言った言葉が、反響してどんどん大きくなる。

 モチコが最も嫌いな言葉。


 もうすぐ目が覚めるはずだと分かっていても、つめたい汗が止まらない。


 先輩が立っているのが見えた。

 振り返った先輩の、口元が動く。


「モチコには才能が――」

 

 その先は――。


 聞きたくない!!


 モチコは夢の中で、全身全霊の力を込めて叫ぼうとした。

 声にならない絶叫。




 ――そこで、目が覚めた。


「モチコ、大丈夫?」


 先輩の声がした。

 現実の先輩の、凛としたやさしい声。


 気づくと握りしめていた手が汗でぐっしょりだった。手だけでなく、額からも汗が流れている。


「うなされてたから、悪いけど起こさせてもらったよ」

「ああ……。すみません。ありがとうございます」


 ふう、と大きくため息をついて、時計を見る。

 もう夜が明ける時間だった。帰りの準備をしなくては。


「シャワーを浴びてくるから、少し待ってて」

「はい。そしたら、先に屋上で待ってます」


 シャワーを浴びる先輩を待つあいだに、モチコは先に私服に着替えて屋上展望台(フライトデッキ)へ向かう。

 少し風に当たろうと思ったからだ。


 屋上に出ると、台風は通り過ぎていたが、まだ少し雨が降っていた。

 一部分だけ屋根が付いている場所があるので、そこにいれば身体が濡れることは無い。


 夜明け前のうす暗い空を見ながら、ぼんやりと考える。


 悪いことが続くなあ。

 これ以上、悪いことが続いたら、しばらく立ち直れなさそうだ。

 帰りに虹の女神さまにお参りでもした方がいいだろうか。


 そんなことを考えていたとき、ふと気づいた。


「……あ、更衣室にペンダントを忘れてきた」


(後編に続く)

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