真夜中のディスアームド。(中編)
「先輩、どうぞ。ようこそ我が家へ」
「おお、いい感じ」
木製の家具で揃えられた、ナチュラルな雰囲気の部屋。
キッチンのついたリビングと、小さいベッドルームの2部屋に仕切られているが、あいだにドアは無い。
こじんまりとしているが、シンプルで居心地のいい空間だ。
天井には紐が掛かっていて、たくさんのドライフラワーが吊り下げられていた。
「先輩、荷物はそこのテーブルに置いてください。私は食器を準備しますので」
「オーケー。じゃあ買ったものを並べておくよ」
モチコは食器の準備をしつつ、忘れないうちに花瓶の水替えもしておく。
テーブルの上には青いキキョウ。
キッチンには青いデルフィニウム。
窓際にあるブルースターの鉢植えにも水をやっていると、ミライアが言う。
「青い花が好きなんだね。すごく、モチコっぽい部屋」
「ふふ、そうですかね」
テーブルの上に食べものと食器が揃うと、ふたりは席に着いた。
買ってきた清酒を、小さいグラスに注ぐ。
お互いの分が注ぎ終わると、ミライアがグラスを掲げた。
「モチコと出会えたことに――。乾杯」
「え!?」
かちん、とグラスが当たる音が響く。
モチコの持っていたグラスに、ミライアが押し当てたような乾杯だった。
「モチコ大回転の成功祝いじゃなかったんですか?」
「ん? それもあるけど」
ミライアはグラスのなかのお酒をくいっと、ひとくちで飲み干して続ける。
「乾杯は、その瞬間にいちばん強く想っていることでするべき」
「いちばん強く……」
「モチコに、会えてよかった」
……先輩は、突然こういうことを言うから油断ならない。
モチコは思いつかない返事の代わりに、グラスのお酒をくいっと飲み干した。
お互いのグラスにお酒を注ぎなおす。
食事はおいしかった。
コロッケも、冷やしキュウリも、じゃがバターも、たこ焼きも全部。
清酒は思いのほかフルーティーで飲みやすい味だった。
酒が美味ければ食事が進む。食事が美味しければ酒が進む。
酒が進めば、会話もはずむ。
モチコは朝番を見学したときの話や、3人でお出かけしたときの話なんかを、たくさん話した。
ミライアはずっと楽しそうに、ときおり相槌を打ちながら聞いている。
「先輩って、お酒強いんですか?」
「ん? 普通だよ」
平気な顔をして、普通とか言う人間は信用ならない。
実際はかなり強そうだ。
気がつけばお酒のビンが半分くらい空になっている。
おそらくミライアは、モチコの倍以上のペースで飲んでいるはずだった。
「ふふふ、今日は先輩を酔わせちゃいますよ」
「だめだめ。お酒は無理してたくさん飲むものじゃあないよ」
「じゃあ、無理しないで、たくさん飲みましょう」
上機嫌なモチコは、そんなことを言いながら、お互いのグラスにお酒を注ぐ。
今日のモチコ大回転は大成功だったな。
あれが私のスペシャル。これで少しはアルビレオとして、先輩の役に立てたかもしれない。
お酒が進む。
本当に飲みやすくておいしいお酒だ。
冷やしキュウリにも、コロッケにも合う。美味しい、美味しい。
――そして、どれくらいの時間が経っただろう。
食べものは残さず食べきり、お酒のビンも空になった。
別にたくさん飲もうとした訳ではないが、普通においしくて飲みすぎたかもしれない。
酔いが回ってきたモチコに比べて、倍以上は飲んでいるはずのミライアは全く変わらない様子だった。
やっぱり強いじゃん。
「……んにゃ。しぇ、先輩。デザート、出しますね」
酔ったモチコは、呂律が回らず、立ち上がるのも難しい状態だった。
「モチコ、ちょっと休んだ方が良さそうだね」
「にゅ? ま、まだデザート、残ってるのに?」
ミライアは笑いながらモチコを抱き抱えて、ベッドまで運んだ。
リビングの隣にある部屋に、小さなベッドがある。
ベッドに寝かされたモチコ。
そこで、服を着替えていないことに気づいた。
「あ、服……」
「おっと、危ない」
着替えようと上半身を起こしたモチコがふらふらと揺れた。
それを支えようと、ミライアが手を差し伸べる。
そのとき、ふらついたモチコの手が、思わずミライアのスカーフの先を掴んだ。
「あっ――」
どさり、と音がして、引っ張られたミライアがモチコに覆い被さるように倒れ込む。
まるでモチコが、ミライアを強引にベッドへ誘ったみたいだった。
「モチコ、大胆だね」
「す、すみません」
「服は、今日はこのままでいいかな? 私に脱がされたいようだったら、やるけど」
「う……」
酔っていて思考がまとまらない。
だから。
いつもなら絶対選ばないほうの答えを、選択した。
「じゃあ、お願い、します」
しばしの静寂。
ミライアが口に手を当てたまま、無言になる。
ふいに、その手をモチコのほうに伸ばした。
お酒のせいですでに速かったモチコの鼓動が、さらに速くなる。
「じゃあ、今日の実験、しようか」
実験……。裸で抱き合うってやつかな。
いま脱がされちゃったら、秘密のペンダントもばれるかな。
考えているあいだに、ミライアの手が、モチコに近づく。
そして、モチコの身体に、触れる――。
「いてっ」
指が、モチコのおでこをデコピンで軽く叩いた。
「モチコ、酔うと面白いね」
(後編へ続く)




