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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第3章

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真夜中のディスアームド。(前編)

 真夜中。台風一過の空をホウキが飛んでいく。


 仕事を早上がりしたモチコとミライアは、ホウキに乗って北へ向かう。

 パーティーのための買い出しに行くのだ。


「冒険者街まで行って食べものを買おう。あそこなら夜中でも、屋台が出ているから」

「台風のあとで、屋台が賑わっているかもですね」


 今夜は、モチコ大回転の成功記念パーティー。

 そのために、屋台のおいしい食べ物を買って帰ろうという作戦だった。


 しばらく飛んでいくと、夜中でも明るい冒険者街が見えてきた。

 ホウキが高度を下げ、ふたりは街の明かりのなかへ降り立つ。


 そこは、朝まで飲み明かす冒険者たちで賑わっていた。

 こんな真夜中に開いている店は飲み屋しかないが、代わりに道路には屋台がたくさん出ている。


「さて、屋台で何を買おうか?」

「おシズさんからおみやげのコロッケを貰ったので、あとはおかずが2つくらいですかね?」

「せっかくだから、お酒も買っていこう。お祝いだし」

「おお。いいですね」


 そんなことを話していると、ミライアが「あ、」と何かに気づく。


「うちにお酒を飲むコップが無いな。さすがに食器が売ってる店は開いてないか」

「じゃあ私の家に来ますか? いくつかコップありますし」

「お、いいね。じゃあ、今夜はモチコの家でパーティーだ」


 屋台が立ち並ぶ大通りは、予想どおりたくさんの人でごった返していた。

 冒険者たちが、お酒を片手に談笑しながら、屋台の明かりの中を行き交っている。

 真夜中の、熱を帯びたような喧騒が心地いい。


 屋台のあいだを歩くと、肉が焼ける香ばしい匂い。

 ソースと香辛料の魅惑的な香り。

 さらに、ふんわりと甘い焼き菓子のような匂いまで。


 ずらりと並んだ屋台には、ありとあらゆる種類の食べ物がありそうだった。


 雨上がりの濡れた路面に、屋台の魔導ランプの光が反射して、色とりどりに滲んでいる。

 湿度の高い空気にその色が混ざりあい、ぼんやりと光る霧のように、やさしくあたりを包んでいた。

 まるで夢のなかにいるような気分だ。


 ミライアの横を歩くモチコは、機嫌よく屋台を眺める。


「おいしそうなものばかりで、迷っちゃいますね」

「モチコの好きなもの、買っていいよ」

「いや、私と先輩で、ひとつずつ選びましょう」


 そう言って、屋台の食べ物をふたりで吟味していく。

 モチコは冷やしキュウリ。

 ミライアはじゃがバターを選んで買った。


 そのあと発見した、鉄板の上でコロコロ回るたこ焼きが、どうしてもおいしそうだったので、結局それも買うことにした。

 鉄板から拾い上げられたたこ焼きが、小さい箱にぎゅっと身を寄せ合うように入れられているのがかわいい。


「お酒はどうしようか」

「先輩、この屋台ならビンで売ってますよ」


 お酒をカップに注いで売る屋台が多かったが、ビンで売っているところを見つけ、そこで買うことにする。

 ビールやワインなんかもあったが、今回は清酒にした。

 モチコが好きなお酒だったからだ。


 戦利品をふたりで抱えながら、そろそろ帰ろうかと思っていたとき。

 ふと小さな屋台が目に入った。


 その屋台は、スイーツを売っているようだった。

 たい焼きとか、カステラみたいな、屋台っぽいものではない。

 高級スイーツというべき佇まいのケーキだ。

 そのミスマッチな組み合わせに、思わずモチコがつぶやく。


「屋台でケーキ……? どうしてこんな夜中に売っているんですかね?」

「ああ、冒険者向けの高級スイーツだね」

「冒険者向け?」

「冒険者たちがお酒を飲んだあと、締めにラーメン派とスイーツ派がいるらしい」

「なるほど。締めのスイーツですか」

「彼らは冒険で稼いだお金をおいしいものに使うから、結構売れるらしいよ。せっかくだから買って行こうか」


 そうして、小さめのケーキを2つ、買っていくことにする。

 店番のお姉さんが、かわいい箱にケーキを丁寧に詰めてくれた。


 生ものなので必ず今晩中に食べてくださいね、

 という注意を聞きながら、ケーキの箱を受け取る。



 買い出しが済んだふたりは、モチコの家へ向かうことにした。

 混んでいる大通りを避け、裏路地からホウキで飛び立つ。


 モチコの家は、タワーと冒険者街の中間あたりにある。

 しばらく飛んでいくと、暗い地上に、ぽっかりと開いた丸い穴のような場所を見つけた。


「あれです。あそこが私の家です」


 モチコが穴のような場所を指さす。

 ホウキが高度を下げ、地上に近づく。


 たいぶ近づいたところで、その丸い穴みたいなものが、池だとわかる。

 その池のほとりに、小じんまりとした家が建っていた。

 ここがモチコの家だった。


「池のそばにある家なんて、素敵だね」

「はい。借家ですけど、良いところです」


 ホウキから降りると、モチコは家のドアを開けて中に入る。

 室内の明かりをつけたあと、ミライアを招き入れた。


「先輩、どうぞ。ようこそ我が家へ」


(中編へ続く)

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