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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第3章

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必殺!モチコ大回転ッ!(後編)

「モチコ、怖くない?」

「大丈夫です。先輩を、信じます」


 モチコは両手をミライアの身体から離した。


 スクロールを両手でしっかりと握り、頭の上にまっすぐ掲げる。

 ミライアの身体を包む黄金色(こがねいろ)のオーラが一段と大きくなると、暗闇を照らす光のまぶしさに、モチコは思わず目を閉じた。


「いくよ!」


 ぐいん、と勢いよく身体が横に倒れるのを感じる。

 次に目を開いたとき、景色は高速で回転していた。


 ぐるんぐるんと身体が強い力で回されている。

 だが、先ほどまであった、強風が全身に吹きつけてくる感覚は消えていた。


 ホウキは、風に流されずに飛んでいる。

 いい感じだ。


 モチコは回転する景色を見た。

 海と、雲と、空が、視界のなかで流れるように切り替わっていく。


 だんだん、その決まったパターンが分かってくる。

 まずは海、つぎに雲、そして空。その繰り返し。


 海、雲、空。

 海、雲、空。


 油断すると、すぐに目が回りそうだ。

 それほど長くは持たない。この一発に、集中する。


「3ッ!」


 ミライアのカウントダウンが始まる。

 モチコは大きく息を吸い込んだ。

 頭上にスクロールを掲げたまま、しっかりと腕を固定する。


「2!」


 オーラを練り、スクロールに流し込む。

 緑色のオーラがあたりに弾ける。


「1! ……撃てッ! モチコ!」


 海、雲、空。

 海、雲、空――。


 ここだ!


「――えいやっ!」


 ばすん、と音がして、光の矢が飛んでいくのが見えた。

 ホウキが回転を止め、同時に急旋回する。


 回転の勢いが残っていたため、ホウキが上下逆さまになった。

 逆さのまま、猛スピードで台風から離れていく。


 後方から、ズーンという地響きのようなものが聞こえた。

 続けてパチパチと海面が凍る音も。


 モチコは逆向きになった視界で、凍っていく大気がキラキラと輝くのを見た。

 凍結スクロールが、ばっちり決まったのだ。


 ホウキの上下をくるりと元に戻しながらミライアが言う。


「モチコ、会心の出来だね!」

「ふう、なんとか。ばっちりグーです」


 ――これが私のスペシャル。


 ミッションを達成したモチコは、大きく息を吐いた。


 先輩と一緒だから、出来たことだ。

 ひそかに、制服のなかのペンダントをぎゅっと握りしめる。


 ふたりを乗せたホウキは、そのまま、まっすぐタワーへ向けて飛んでいった。





 ――そのころ、タワーでは。

 リサとシズゥが台風の状況を見守っていた。


「あ、攻撃(アタック)に成功したみたいね。台風が弱まっていくわ」

「お~。シグナル5でも2発で決めたか~」

「すごい。シグナル3まで落ちたわよ」

「リサは、どっちが台風にとどめを刺したと思う~?」


 シズゥが口元をにんまりとさせながらリサに尋ねる。

 タワーからは、ホウキの上のふたりの細かい動きまでは観測できないので、どちらが最終的にアタックしたのかは分からない。


「賭ける?」


 リサが透き通った声で言った。

 口元はにこりと清楚に微笑んだまま。


「じゃ、せーのでいこうか~」

「せーの」

「ミライアかな~」「モチコちゃんね」


 賭けが成立した。


「モッチーも頑張ってるけど、シグナル5はさすがにミライアでしょ~」

「ふふ。虹の女神様のお導き次第よ」

「今日こそは勝ちたいなあ~。せめてリサに1勝くらいはしたいからね~」





 ――そんなタワーでの会話はつゆ知らず。


「モチコ大回転、と名付けよう」

「ええっ、もっとカッコいい名前はないんですか?」


 夜空を飛ぶホウキの上では、モチコの必殺技の名前で盛り上がっていた。


 モチコ大回転。

 ほかのみんなに聞かれたら笑われそうだ。

 そもそも自分の名前が入っちゃってるのが恥ずかしすぎる。

 もっとカッコいい名前がいい。


「カッコいい名前って、例えば?」

「そうですね……。最終奥義・回転突撃オメガ・ジャイロニング・アタック、とか……?」


 先輩はたっぷり十数秒ほど無言で考えたあと――。


「モチコ大回転、カッコいいよ」

「うえー!?」


 結局、そのままモチコ大回転で決定してしまった。

 みんなに広まらないことを祈ろう……。


「今日は実験はお休みにするよ。もうだいぶ魔力を使ったし、これ以上使うと眠くなるから」

「先輩がそんなこと言うなんて、珍しいですね」

「代わりに、帰ったらうちでパーティーしよう」

「パーティ?」

「モチコ大回転、成功記念パーティー」

「えーーーっ!?」


 いや、パーティーは嬉しいんだけども。

 そのネーミングが何とも。


「あれ? モチコ、実験したかった? まだ裸で抱き合うやつ、やってないけど」

「いや! そうことじゃ全然ないです!」


 笑う先輩の背中をぽこぽこと叩いているうちに、ホウキはタワーへとたどりついた。

 屋上展望台(フライトデッキ)に着地して、モチコはホウキを降りようとする。


 そのとき、お互いの身体を紐で結んでいたのを忘れて降りようとしたので、モチコはホウキの上でズッコケて、また1回転しそうになった。


「おお。モチコ大回転、再び」

「いや! これは違いますから!」


 モチコは必死に否定する。

 ホウキに引っかかって、ぶらんと干されてるみたいな状態で叫んでも、ぜんぜん説得力はなかったけど。



「ふたりとも、おかえりい~」

「おシズさん、ただいま戻りました」


 中央展望室(コントロールルーム)へ戻ると、シズゥがコロッケ山盛りのお皿を持って迎えてくれた。

 今日はいきなりコロッケを口に詰め込んだりはしないらしい。

 ただ、なぜかシズゥはモチコを見てにやにやしている。


「どうかしましたか? おシズさん」

「ん~? 今日の台風は、どっちが仕留めたのかな~?」


 なぜかおシズさんは、誰が台風にアタックしたのか気になっているらしい。

 モチコが口を開くより先に、ミライアが答えた。


「モチコ大回転のお手柄だよ」


 うわ!

 先輩、さっそく恥ずかしい技名を広めちゃってる!


 シズゥとリサは、大回転……? と最初は不思議そうにつぶやいていたが、笑ったりはしなかった。


「すごいすごい。モチコちゃん、カッコいいわ!」


 リサは盛大に拍手して褒めてくれた。

 シズゥもそれに続けて拍手をしながらつぶやく。


「そっか~。モッチー大回転かあ~。それはびっくりだな~」


 褒めてくれてはいるものの、なぜか少しだけ残念そうだった。


 ……意外とモチコ大回転、馴染んでるかも?


 そのあとは、夜中まで台風が通り過ぎるのを待った。

 しばらくタワーでコロッケを食べたり、読書をしたりして過ごす。


 台風が大きな被害もなく無事に通り過ぎ、ミライアがシャワーを浴び終わると、早めに帰宅することになった。


「じゃあ、先にあがるから」

「はいよ~。おつかれさま~」

「大活躍のモチコちゃんも、今日はおつかれさま」

「はい。お先に失礼します」


 挨拶をして螺旋階段を上っていると、下から「ぐわ~」とシズゥが叫ぶような声が聞こえてきた。

 不思議に思ってそちらに目をやると、シズゥがポケットから何かを取り出してリサに手渡している。

 何をしているのかモチコには分からなかったが、ミライアが先に上って行ってしまったので、その先は見届けずに立ち去ることにした。


 最後にシズゥがぼやく声だけが聞こえた。


「とほほ~。コロッケ払いじゃだめ~?」

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