秘密の宝石は親愛の証(後編)
鉱石のお店を出ると、もう夕方だった。
モチコはそこで、予想外の事態に気づく。
「あれ? マルシャとちーちゃんが、居ない……?」
ふたりの姿が消えていた。
モチコが店に入る前までは、ここにいたはずだ。
どこへ行ったのだろうか。
あたりを見まわすと、遠くの方で、誰かが叫んでいるような声が聞こえる。
その声に耳を澄ませてみると――。
「白おかっぱぁぁぁぁぁ!」「モチコちゃーん!」
やば! 私を探してるじゃん!
モチコは慌てて声のする方へ向かう。
ふたりは遠くまで探しに行ってしまったようだ。
なかなか見つけられないでいると、また声が聞こえた。
「うぉぉぉぉい! どこ行ったのよ、白かっぱぁぁぁ!」
やば! マルシャが私の呼び名を連呼しすぎて「お」がどっかいっちゃってる!?
それじゃ白い妖怪じゃん!
小走りで声のする方へ向かうと、ようやく遠くにマルシャが見えた。
モチコが声をかけようとすると、それより先に、別の人物がマルシャに近づく。
知らない若い男性だった。
誰かお探しですか?
と、尋ねられたマルシャが「ちょっと友達を……」と返している。
すると男性は、手伝います、と急に言い出した。
マルシャもすこし戸惑っている。
最初は親切な人かと思ったが、どうも様子がおかしい。
手伝うと言いつつも特に行動はせず、マルシャに話し続けている。
髪の色が可愛いね、とか。
服がお洒落だね、だとか。
これは……ナンパというやつでは?
ついにその男性が「クラブの会員証があるから遊びに行こう」などと言い出した。
会員証らしきものを見せながら、遅くなったら送るよ、と。
「家が超遠くにあるから無理」
断るマルシャ。
だが男性はしつこく食い下がる。
クラブのなかにあるカジノにも入れるよ、とか言いつつ。
会員証を持っているのとは反対の手で、マルシャの腕を掴んだ。
「きゃっ」
マルシャが小さく悲鳴をあげる。
助けなきゃ、とモチコが大声で叫ぼうとしたとき――。
ばしゅん。
風を切るような音がした。
何が起きたのか、そこにいた誰にも分からず、一瞬の静寂。
ふと気づくと、男性が手に持っていた会員証が消えていた。
正確には、なぜか地面に落ちている。
「お兄さん! なにしてるのかな!」
片足の膝を高く上げ、両手を格闘家のポーズみたいに構えたチャンチャルが、笑顔で立っていた。
男性はあわてて地面に落ちた会員証を拾う。
すると、今度はチャンチャルにも、クラブに行こう、とおなじ誘い文句を繰り返した。
その直後、モチコは見た。
すう、と息を吸ったチャンチャルの脚が、空中をものすごい速さで舞う。
それが男性の手先をかすめ、持っていた会員証がはるか遠くへ弾け飛んだ。
回し蹴りが鮮やかに決まったのだ。
ドルフィンパンツから生えた太ももが、夕陽にすらりと映えて印象的だった。
「次は、頭に当てるね!」
そう、チャンチャルは笑顔で言った。
さっきと同じ、片足を上げた格闘ポーズのまま。
それを見た男性は、ひぃっ、と悲鳴を上げながら、一目散に逃げていった。
やっと現場にたどり着いたモチコは、息を切らせながら言う。
「マルシャ、大丈夫だった!?」
「はぁぁ、大丈夫。ちーありがと。まったく、白かっぱが勝手にほっつき歩いてるせいよぉぉぉぉ!」
たいへんよく響く声で文句を言うマルシャに、モチコは平謝りする。
もう「お」が無くなったことに文句を言えなくなってしまった。
そのあと邪気払いに、喫茶店で軽くお茶をしてから帰ることにする。
お詫びとしてマルシャにエッグコーヒーを奢ってあげたところ、大変気に入ったようで、許してもらえた。
最終的に、ちーちゃんは絶対に怒らせてはいけない、という結論で今日はお開きになった。
魔導トロッコの駅へつくと、ここで解散となる。
モチコ以外の2人は徒歩で帰るそうだ。
「あれ? マルシャ、家が超遠いんじゃないの?」
「あれは嘘。実家は王都だけど、シグナスに来てからは中央街に住んでるわ」
こうして、色々あったおでかけも終了。
みんなと別れて自宅に帰り、夕食前にちょっとだけ『ひみしん』を読んでみようとページを開いた。
すると、気づけばご飯を食べるのも忘れて読み切ってしまった。
面白い。これだけ流行るのも頷ける。
そしてちーちゃんの言う通り、ペンダントを作ってみたくなった。
夕食を食べたあと、ペンダント制作に取りかかる。
ちーちゃんから借りた、作りかたの本を読みながら。
丸メガネの店員さんがくれたパーツを使って、赤い石をペンダントに仕上げていく。
「よし、できた。ばっちりグー」
完成したペンダントは、小さい石だけれど、はっきりと輝く凛々しい赤色だった。
先輩の瞳とおなじ色。
モチコは満足げにペンダントを眺める。
今夜は、それを胸につけたまま眠りにつくことにしたのだった。




