秘密の宝石は親愛の証(前編)
街でいちばん大きい本屋にやってきた。
ここは一般向けの本屋なので魔導書は置いていないが、それ以外の本はかなり充実している。
さっそく恋愛小説のコーナーを見ることにした。
「モチコちゃん! 気になる本はあるかな!」
びっしりと並んだ本を前にして、チャンチャルは楽しそうだ。
「恋愛小説だけでも、いっぱいあって悩むね」
モチコは平積みになっている大量の本を眺める。
棚にある本も含めるとさらにすごい数だ。
いくつかの本には、書店員さんの推しコメントが書かれた札が付いていて、それを見るだけでも楽しい。
恋愛小説にはどれも表紙にすてきなイラストが描かれていて、部屋に飾っておくだけでも楽しめそうだ。
チャンチャルの解説も参考にしながら、あれやこれやと吟味していく。
ふと一冊の本が目に入った。
「これ、表紙のイラストが可愛い」
「表紙買いも全然アリだよ!」
本を手に取ってみる。
表紙には、文学少女っぽい子と、スポーツ少女っぽい子が並んで描かれていた。
「モチコちゃん! お目が高い!」
いつも楽しそうなチャンチャルのテンションが、さらに高くなる。
「それは『ひみしん』だよ! いま一番流行ってる作品! 内容もいいから超おすすめ!」
「ひみしん?」
モチコのつぶやきに、マルシャが横から補足をしてくれる。
「タイトルの略称よ。それ、なかなか良くできてて、面白いと思うわ」
マルシャも読んだことがあるらしい。
本のタイトルを見ると『秘密の宝石は親愛の証』とあった。
略して『ひみしん』か。
ネタバレにならない程度に、チャンチャルがあらすじを説明してくれる。
――とある女学園で、退屈な日々を過ごしていた主人公。
ふとしたきっかけで、学園の人気者であるスポーツ万能少女から、部活のマネージャーに抜擢される。
大会優勝を目指し、ふたりは共に充実した毎日を過ごすようになる。
「主人公は、退屈な日々から救ってくれたスポーツ少女に、感謝の気持ちを抱くようになるの!」
いつしか感謝は親愛に変わっていく。
だが、人気者のスポーツ少女に自分は釣り合わないと思った主人公は、親愛の気持ちを心の奥にしまっておくことにした。
「それで主人公は、ペンダントをつくるんだ!」
「ペンダント?」
「相手の瞳とおなじ色の宝石で出来たペンダント! それを胸に隠しておくことで、親愛を心に秘めておくんだよ!」
チャンチャルはちょっと早口で、ものすごく熱心に説明してくれた。
「最近はこの本の影響で、宝石ペンダント作りが流行ってるの! シグナスのスタッフにもやってる子多いよ!」
「へえ、そうなんだ」
まずは定番の恋愛小説から読み始めようと思っていたところだ。
いま流行っているというこの作品はちょうど良いかもしれない。
表紙イラストの絵柄も好みだし。
「じゃあ、この本にしようかな」
「モチコちゃん! お買い上げありがとうございます!」
なぜかチャンチャルが嬉しそうにお礼を言う。
「そしたら、モチコちゃんには特別サービスだよ!」
「え? サービス?」
「今ちょうど私が持ってる、この本も貸してあげる! セットで読むといいよ!」
そう言ってサコッシュから取り出したのは『めちゃ簡単! 宝石ペンダントのつくりかた』という本だった。
「ペンダントを作る本?」
「そう! ひみしんを読んだら、絶対作りたくなるから!」
「ちーちゃんも作ったの?」
「んー、それは秘密!」
そう言ってにしし、と笑うチャンチャルがかわいかったので、モチコはそれ以上つっこまなかった。
そのあと、みんなで本屋をぐるりと見てから、お会計を済ませる。
購入した『ひみしん』と、チャンチャルから借りた本をトートバックに入れ、本屋を後にした。
(中編に続く)




