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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第3章

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かしましガールズ買い出し紀行(前編)

「お、タワーが見えた。そろそろだね」


 魔導トロッコに揺られながら、モチコはつぶやく。

 今日はマルシャ、チャンチャルと3人でお出かけする日だ。


 灯台タワーの最寄り駅のあたりの地域は、中心街と呼ばれている。

 そこは、この街でいちばん大きい商業地区になっていた。


 中心街でトロッコを降り、駅の出口へと向かう。

 駅前で待ち合わせの予定だった。


「わ、ふたりとも、早い」


 待ち合わせの時間より少し早めに着いたのだが、すでにチャンチャルとマルシャがいた。


「おはよ! モチコちゃん! 楽しみすぎて早く来ちゃった!」

「白おかっぱが遅れた訳じゃないんだから、気にしなくていいわよ」


 今日はみんなシグナスの制服を来ていないので、私服だった。


 モチコは白いブラウスに水色のロングスカート。

 日避けに、水色のリボンが付いた小ぶりのストローハットをかぶってきた。


「モチコちゃんの私服、かわいいね!」

「ちーちゃんの服も、すごく似合っていてかわいいよ」


 チャンチャルは淡いグリーンの半袖Tシャツに、グレーのドルフィンパンツ。

 足には緑色のリボンがついた、かわいいサンダルを履いていた。


「マルシャの服は、おしゃれ。カッコいい」

「ありがと」


 マルシャは黒のブーツに、黒い網タイツ、黒いショート丈のプリーツスカートに、形が良い黒の長袖シャツ。

 さらに黒いネクタイに、ダークグレーのサングラスと、全身黒ずくめだった。


 そして、いつものタマネギの芽みたいな短いツインテールが……無い。

 今日は髪を結んでいないのだ。


 全身黒のコーディネイトに、赤い瞳と髪がよく映える。

 背が小さいマルシャはいつも可愛く見られがちだが、今日はお洒落でカッコ良かった。



 わいのわいのとお互いに褒め合ったあと、さっそく3人でお店めぐりを始める。

 午前中は適当にお店を見て、ランチを食べたあとで、午後からお目当ての本屋に行く計画だ。


 雑貨屋の前を眺めたりしながら商店街を歩く。

 まずは、ボタンとレースを売っているお店に入ることにした。


 店の中には、ところ狭しと小箱が積まれている。

 それは小さいお弁当箱くらいの大きさで、中にはボタンが入っているようだ。

 それぞれの箱のおもてには、サンプル用のボタンが貼り付けてあり、きらきらと光っていた。


 店中に積まれた小箱のうえで、色とりどりのボタンが輝いている。

 さながら、宝石を散りばめたようだ。


「わー! このボタン、かわいい! マルシャちゃんは、こっちのまっ黒のやつにするといいよ!」

「黒しか着ない訳じゃないわよぉぉぉぉ!」


 ふたりがきゃっきゃと盛り上がっている横で、モチコはレースの入った引き出しを開けてみる。

 中から、手で触れたら溶けてしまいそうなほど、繊細なレースがあらわれた。


「おぉぉ……。もうこれは芸術作品だ……」


 重ねるほど華やかになるのに、ひとつひとつを見れば静かに透けている。

 優雅でありながら、どこか儚げなその佇まい。


 繊細で美しい網目をじっと見ていると、なぜか生き物の細胞のいちばん奥をのぞき見ているような、深遠な気持ちになる。

 ほお、と感嘆のため息が漏れた。


 そんなレースの棚が、天井まで続く。

 めくるめく世界に、思わずうっとりしてしまう。



 仕事として魔法を使う職業の人は、魔法士と呼ばれる。

 魔法士は、黒に近い色の服を着なくてはならないと、王国魔導法で決まっていた。

 黒い服だと、オーラを練ったときに、色が見えやすいからだ。


 オーラの色が見えれば、魔法を発動しようとしていることが周囲に分かる。

 オーラを隠して魔法を使おうとする人間は、犯罪者か暗殺者くらいしかいない。


 黒い服はどうしても地味になりがちだ。

 だから、おしゃれは服の内側にあるボタンやレースで楽しむのが、魔女たちのあいだでの定番だった。

 ボタンとレースで盛り上がった3人は、わりと長い時間をそのお店で過ごした。



 そのあと、各自が気に入ったものを購入してから、店を出る。

 お昼まではまだ時間があるので、もう少し見てまわることにした。


「この店、見てもいいかしら?」


 マルシャがそう言って入っていったのは、女性用の下着のお店だった。


「うおう……。なんか、すごいね……」


 モチコはマルシャの後ろにくっついて、ドキドキしながら店に入っていく。


 下着の店だからという訳ではなく、明らかにちょっとお高い店だったからだ。

 レースをふんだんに使った豪華な装飾が施されたものや、セクシーなランジェリーとかもある。


「うわー! これかわいい! こっちも! モチコちゃん、見て見て!」


 ちーちゃんはノリノリだ。

 あっちこっちでかわいい下着を見つけては、Tシャツの上から身体に当ててみたりしている。

 なんか結構攻めてるやつもあるけど。


 一般的には、瞳と同じ色の下着をつけるのがおしゃれだとされている。


 そういえば先輩の下着はどうなんだろ。

 前に先輩の家でちらっと見たときは、先輩の瞳とは違う色だったけど。


 モチコは近くにあった、高そうな下着を手に取ってみた。

 華やかな装飾が施された赤い下着は、可愛いというよりは品があって美しい感じ。

 先輩なら似合いそうだ。


「モチコちゃん! そんなにジッと下着を見ながら、なに考えてるのかなー?」


 にしし、と笑いながらチャンチャルが言う。

 一瞬、先輩のことを考えていたのがバレたかと思ってドキッとした。

 無表情だからたぶん分からないはず。

 でも、ちーちゃんの野生の勘はするどいからな……。


 モチコの答えを特に聞くこともせず、チャンチャルはマルシャの方へぴょんぴょんと楽しそうに跳ねていった。

 そちらを見ると、マルシャがやたら真剣な表情で下着を吟味している。


「色はこっちか? ……うーん、でも形はこっちか?」


 マルシャの手には、左右に赤と黒の下着がそれぞれ握られていた。

 どちらも可愛いデザインだ。


「マルシャちゃん真剣だね! 誰か可愛い下着を見せたい人でもいたりして!」


(後編へ続く)

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