表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/54

ひざひざひざひざひざひざひざひざひざひざ(中編)

「さて、これで整理も終わったし……。魔窟へ行くとしますか」


 本の整理をなんとか終えたモチコは、いよいよ魔窟へと挑むことにした。

 封が破かれた禁書も、魔窟に戻さないといけない。

 片づけを最速で頑張ったおかげで、探索できる時間はまあまあ残っている。


 魔窟の扉に鍵を差し込む。

 妙な光沢のある金属で出来た扉が、ドゴォーンという重低音とともに動きだした。

 扉が完全に開いたのを確かめてから、奥へと進む。


 魔窟の中は、今日もひんやりとした空気に包まれていた。

 まずは魔導ランプをつけて、持っていた禁書を本棚に戻す。

 そのあとは、ランプの灯りを頼りに、いろんな本棚を探索してみることにした。


 お目当ては、モチコが魔法を使えるヒントになりそうな本だ。

 

「ふむふむ……。どれも、なかなか面白いですなあ」


 魔窟にある本は、さすがにそこらにある本とは一線を画している。

 興味深い本ばかりで、ついつい手に取っては読み耽ってしまう。

 そういう意味での収穫はたくさんあった。


 だが、モチコの魔法に役立ちそうな本というのは、なかなか見つかるものではない。

 そもそも、そんな本が存在するのかも分からないのだ。



 しばらく本棚を調べていると、見覚えのある本があった。

 以前に見た『魔女子(まじょこ)とコドモドラゴン』の絵本だ。


 絵本を手に取ってぱらぱらとめくってみた。

 そのストーリーは、子供の魔女が、子供のドラゴンと一緒に、いろいろな魔法の力比べをして遊ぶというものだった。


 開いたページから、深森に漂う霧を思わせるような神秘的な香りが漂ってきた。

 一度お会いしたから分かる。

 これは、奥様の香りだ。


 奥様が子供のときに読んでいた絵本なのかな?

 きっと大切なものなのだろう。


 モチコは絵本をそっと閉じて本棚に戻した。

 すると、その絵本のすぐ隣にあった本が、なんとなく目に入る。


「……マナの呼吸法?」


 見慣れないタイトルだ。

 気になって中を見てみると、魔法を使うときの呼吸法を解説した本だった。


 呼吸の仕方によって、オーラの質や量が変化するかを研究した本のようだ。

 曰く、人間はマナの大部分を、呼吸を通して口から摂取していると。

 全身の皮膚からもマナを吸収できるが、それは全体の1パーセントにすぎない、とのことだった。


 なるほど。なにかの役に立つかもしれない。

 わずかながら、モチコの中にひらめきのようなものがあった。

 しばらくのあいだ、その本を読むことにする。


 ちょうど流し読みを終えたところで、勤務終了の時間となった。

 モチコは本を戻し、魔窟を出て図書館を後にした。



 外に出ると、夕方の空はすでに薄暗く、夏の厳しい暑さも少し和らいでいた。

 お屋敷の広大な敷地のなかには、たくさんの木が生えている。

 その木々のあいだを縫って歩いていくと、セミの声が聞こえてきた。


 何という種類のセミかは分からないが、夕暮れに似合う、すこし寂しげな鳴き声だった。


 メイド館へと戻る道の途中、林のなかに、小さいベンチがある。

 モチコがその横を通り過ぎようと近づいたとき、変なものを発見した。


 なにかが、ベンチの横に落ちている。

 ぼろ雑巾のようなもの。

 いや、雑巾にしては大きい。いったい何だろうか。


「……人間だ」


 モチコが近づいて確かめてみると、それは人間だった。

 正確に言えば、金色の髪で、桃色の目が2つ付いていて、黒い魔女のローブを着ている人間。


「ランラン、こんなところで何してんの」


 ランランはベンチのすぐ前の地面に、つぶれたような形で転がっていた。

 なんでベンチで寝ないのか。

 ベンチにいたけど落ちたのか、もともと地面に転がっていたのかは分からない。


「ん……あ、モチコぉ……?」


 ランランは少しかすれた声でモチコの名前を呼ぶと、だるそうに身体をよじらせた。

 いつもはぱっちり開いている桃色の瞳も、今日は半分くらいしか開いていない。

 夕暮れで気づかなかったが、よく見ると顔色も悪かった。


「大丈夫? ランラン、体調悪そうだけど」


 モチコは起き上がろうとするランランを支えて、ベンチに座らせた。

 その隣に自分も座って、ランランのおでこに手を当ててみる。

 熱は無い。これは――魔力酔いか?


 モチコは片手でランランの背中をさすりながら、もう片方の手でメイド服のポケットからハンカチを取り出す。

 ハンカチでランランの顔についた、土や葉っぱのくずを取ってあげた。

 転がったときについたものだろう。


 そのとき、ランランから漂う匂いに気がついた。

 ランランというか、来ているローブにまとわりついた匂い。


 それは、使われていない古い井戸を覗きこんだときのような、暗く湿った匂いだった。

 お世辞にもいい匂いとは言えない。

 まるで長い時間、古い地下室にでも閉じこもっていたかのようだ。


「モチコぉ。添い寝してほしぃなー。なんてなー」


 ランランが小さくつぶやいた。

 モチコはハンカチをしまって、ベンチに座った自分の膝をポンポンと叩く。


「添い寝というか、膝くらい貸してやる。ほら寝ろ」

「ぃやあ、ありがたやぁ」


 いつもより口数の少ないランランを、膝まくらの上に仰向けに寝かせる。

 モチコはランランの金髪をかき分け、丸くて広いおでこを撫でてあげた。


 ランランの顔色はいまだすぐれないものの、撫でられるのは気持ちよさそうだ。

 黙ったまま目をつぶっているその顔を、モチコはしばらく眺めていた。



 ランランは魔法学校での学年は一緒だったが、年齢はモチコの方がひとつ上だった。

 モチコは学費を貯めるために1年間働いてから入学したからだ。

 こういうときのランランは、やっぱり年下って感じがするかもしれない。


 ――ランランは、闇属性の魔女だ。


(後編へ続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ