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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第3章

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私のスペシャル(前編)

 4人のアルビレオたちが、フライトを開始した。

 それぞれの配置へと分かれて飛んでいく。


 朝番の任務は4人体制だ。

 2人が台風の見回りで、残り2人が船の誘導を担当する。


 船はほとんどが小型の漁船で、大きい船は滅多に通らない。

 沿岸で漁をする船を、空からうまく誘導するのがミッションだった。


 ピコットとチャンチャルが、ホウキの上から船の位置を確認し始める。


「船同士がぶつからないように、空から誘導するんですね」


 モチコがつぶやくと、ピコットが補足で説明してくれる。


「ぶつからない事も大事だねっ。でも、もっと重要なのは、魔物を避けることなんだよっ」

「魔物を?」


 ピコットと話していると、少し離れて飛んでいたチャンチャルが近づいてきて言う。


「そう、魔物! 大きい海の魔物は、空からじゃないと見えないんだ! クラーケンとか!」

「そっか……。確かに大きい魔物は避けないと危険だね」


 漁船がクラーケンに狙われたら、ひとたまりも無いだろう。


 小型の魔物なら、釣り上げて食用に出来るものもある。

 だが、海中にいる大型の魔物は、出会わないように避けて進むしかない。


 そのために、空から魔物の位置を確認できる魔女が活躍するのだという。



「ほら! モチコちゃん、あそこにクラーケンがいるよ!」


 チャンチャルが指をさしたあたりの海面を見てみる。

 と、そこだけ海の色が違っていた。


 大きくて濃い染みのようだ。

 あの海面の下にクラーケンがいるのだろう。


「あ! やば!」


 チャンチャルはふいにそう言うと、ホウキの上で立ち上がった。

 それを見たモチコは、ギョッとして言葉を失う。


 ……ちーちゃんっ! ここ空の上!!

 しかも下にはクラーケンが!!


 当然ながら、飛んでいる最中にホウキの上に立つ魔女など普通はいない。

 そんなことをすれば落ちるからだ。


 あまりに恐ろしい光景に、モチコは思わず目をつぶりそうになる。

 驚きと焦りで心臓がバクバク鳴る。


 しかしチャンチャルは、そんなモチコの心配を気にする様子もない。

 ホウキの上で両手を広げて、やじろべえみたいな恰好になった。

 さらに身体をそのまま前へ傾けて、ホウキごと前傾する。


「ああっ! 落ちる!!」


 慌てたモチコが叫ぶのと同時に、チャンチャルのホウキが急激に落下していった。

 すごいスピードで海面へ一直線に向かっていく。


「ピコニャーさん! 大変です! 助けないと!!」

「んにゃ? 大丈夫だよっ。モチコちゃん、よく見てみてっ」


 大慌てのモチコとは対照的に、ピコットは落ち着いてそう答えた。


 あらためてチャンチャルを見る。

 と、海面すれすれまで落下したところで、ホウキが急にⅤの字を描いて上昇した。


 そのあとも繰り返し、落下と上昇を繰り返す。

 まるで波の上をサーフィンしているかのようだった。


「ちーちゃんはね、あの飛び方が一番速く飛べるんだよっ」

「えっ!? あれ、飛んでるんですか!?」


 しばらく見守ってみると、確かにホウキをコントロールして飛んでいるようだった。


 チャンチャルは最短距離で漁船の前にたどり着くと、大きなオレンジ色の旗を取り出して広げる。

 ホウキの上に立ったまま、片手で旗を掲げ、もう片方の手で何かジェスチャーをしていた。


「あれは、船に手信号でメッセージを送ってるところだねっ」

「手信号?」

「あの漁船がクラーケンのいる方向へ進んでいたから、別の方向へ誘導してるんだよっ」

「おお。なるほど」


 その鮮やかな動きに感心していると、漁船はポポッと汽笛を鳴らしてから、左に旋回していった。


 船が安全な方向へ舵を切ったのを見届けると、チャンチャルはふたたびホウキを傾けて、ピコットたちがいる高さまで上昇してきた。

 ぴょん、ぴょん、ぴょんと、まるで空中にある透明な波に乗っているかのように、大小の弧を描きながら登ってくる。


「ただいま!」

「ちーちゃん、すごいね! 鮮やかな飛び方で感動しちゃった」


 モチコは率直な感想を伝える。

 チャンチャルは、にしし、と無邪気に笑って喜んでいた。



 そのあとも、しばらく同じように漁船を誘導するところを見学した。

 途中に暇な時間もあったので、3人で色々とおしゃべりしたりもする。


 ほとんどの漁船は朝から漁に出て、お昼前には帰ってくる。

 そのため、船の誘導は午前中が最も忙しいそうだ。

 午後は台風がなければ結構のんびりしているとか。


 ちなみに、夜は暗いため、上空からでも海中の大きな魔物を見つけることができない。

 だから、どんな船でもよほどの理由がない限り、夜のあいだは海へ出ないそうだ。


 みんなでそんな話をしているうちに、あっという間に夕方になった。


(中編へ続く)

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