私のスペシャル(前編)
4人のアルビレオたちが、フライトを開始した。
それぞれの配置へと分かれて飛んでいく。
朝番の任務は4人体制だ。
2人が台風の見回りで、残り2人が船の誘導を担当する。
船はほとんどが小型の漁船で、大きい船は滅多に通らない。
沿岸で漁をする船を、空からうまく誘導するのがミッションだった。
ピコットとチャンチャルが、ホウキの上から船の位置を確認し始める。
「船同士がぶつからないように、空から誘導するんですね」
モチコがつぶやくと、ピコットが補足で説明してくれる。
「ぶつからない事も大事だねっ。でも、もっと重要なのは、魔物を避けることなんだよっ」
「魔物を?」
ピコットと話していると、少し離れて飛んでいたチャンチャルが近づいてきて言う。
「そう、魔物! 大きい海の魔物は、空からじゃないと見えないんだ! クラーケンとか!」
「そっか……。確かに大きい魔物は避けないと危険だね」
漁船がクラーケンに狙われたら、ひとたまりも無いだろう。
小型の魔物なら、釣り上げて食用に出来るものもある。
だが、海中にいる大型の魔物は、出会わないように避けて進むしかない。
そのために、空から魔物の位置を確認できる魔女が活躍するのだという。
「ほら! モチコちゃん、あそこにクラーケンがいるよ!」
チャンチャルが指をさしたあたりの海面を見てみる。
と、そこだけ海の色が違っていた。
大きくて濃い染みのようだ。
あの海面の下にクラーケンがいるのだろう。
「あ! やば!」
チャンチャルはふいにそう言うと、ホウキの上で立ち上がった。
それを見たモチコは、ギョッとして言葉を失う。
……ちーちゃんっ! ここ空の上!!
しかも下にはクラーケンが!!
当然ながら、飛んでいる最中にホウキの上に立つ魔女など普通はいない。
そんなことをすれば落ちるからだ。
あまりに恐ろしい光景に、モチコは思わず目をつぶりそうになる。
驚きと焦りで心臓がバクバク鳴る。
しかしチャンチャルは、そんなモチコの心配を気にする様子もない。
ホウキの上で両手を広げて、やじろべえみたいな恰好になった。
さらに身体をそのまま前へ傾けて、ホウキごと前傾する。
「ああっ! 落ちる!!」
慌てたモチコが叫ぶのと同時に、チャンチャルのホウキが急激に落下していった。
すごいスピードで海面へ一直線に向かっていく。
「ピコニャーさん! 大変です! 助けないと!!」
「んにゃ? 大丈夫だよっ。モチコちゃん、よく見てみてっ」
大慌てのモチコとは対照的に、ピコットは落ち着いてそう答えた。
あらためてチャンチャルを見る。
と、海面すれすれまで落下したところで、ホウキが急にⅤの字を描いて上昇した。
そのあとも繰り返し、落下と上昇を繰り返す。
まるで波の上をサーフィンしているかのようだった。
「ちーちゃんはね、あの飛び方が一番速く飛べるんだよっ」
「えっ!? あれ、飛んでるんですか!?」
しばらく見守ってみると、確かにホウキをコントロールして飛んでいるようだった。
チャンチャルは最短距離で漁船の前にたどり着くと、大きなオレンジ色の旗を取り出して広げる。
ホウキの上に立ったまま、片手で旗を掲げ、もう片方の手で何かジェスチャーをしていた。
「あれは、船に手信号でメッセージを送ってるところだねっ」
「手信号?」
「あの漁船がクラーケンのいる方向へ進んでいたから、別の方向へ誘導してるんだよっ」
「おお。なるほど」
その鮮やかな動きに感心していると、漁船はポポッと汽笛を鳴らしてから、左に旋回していった。
船が安全な方向へ舵を切ったのを見届けると、チャンチャルはふたたびホウキを傾けて、ピコットたちがいる高さまで上昇してきた。
ぴょん、ぴょん、ぴょんと、まるで空中にある透明な波に乗っているかのように、大小の弧を描きながら登ってくる。
「ただいま!」
「ちーちゃん、すごいね! 鮮やかな飛び方で感動しちゃった」
モチコは率直な感想を伝える。
チャンチャルは、にしし、と無邪気に笑って喜んでいた。
そのあとも、しばらく同じように漁船を誘導するところを見学した。
途中に暇な時間もあったので、3人で色々とおしゃべりしたりもする。
ほとんどの漁船は朝から漁に出て、お昼前には帰ってくる。
そのため、船の誘導は午前中が最も忙しいそうだ。
午後は台風がなければ結構のんびりしているとか。
ちなみに、夜は暗いため、上空からでも海中の大きな魔物を見つけることができない。
だから、どんな船でもよほどの理由がない限り、夜のあいだは海へ出ないそうだ。
みんなでそんな話をしているうちに、あっという間に夕方になった。
(中編へ続く)




