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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第3章

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体調はFeel?隊長はCool。(前編)

 台風への攻撃(アタック)を終えてタワーに帰還すると、いつものようにリサとシズゥが迎えてくれた。


「ふたりともお疲れさま。台風はシグナル2まで弱まったわ」

「今日はモチコが撃ったから、モチコの手柄だよ」


 ミライアがそう伝えると、ふたりから歓声が上がる。


「モッチーやるじゃん~。おりゃ~」


 シズゥは言いながら、手に持ったコロッケをモチコの口に詰め込む。


 が、コロッケが詰め込まれる直前に、モチコは口を閉じてガードした。

 毎度同じ手でやられはしないぜ。

 私だって成長しているのだ。


 口に詰め込まれなかった代わりに鼻先に衝突したコロッケから、おいしそうな匂いがする。

 モチコはコロッケを手で受け取り、ひとくちかじってみた。


 さくり、と衣の軽い歯ごたえのあとに、口の中で広がるひき肉とじゃがいもの甘み。

 この味は間違いない。

 いつもの銀河屋のコロッケだ。


「おいしいです」

「台風の日のコロッケは格別だよねえ~」



 コロッケをおいしく頂いたあと、しばらくして台風が上陸した。

 

 リサとシズゥは街の被害状況などを確認するのに忙しく動き回っている。

 そのあいだモチコはやることがなく、中央展望室(コントロールルーム)の隅にあるテーブルで本を読むことにした。


 モチコがテーブルの上で本を開くと、ミライアが声をかける。


「モチコは、空き時間によく本を読んでるよね」

「あ、はい。すきあらば文字を読みたい人種です」

「この本は……。『独楽(こま)の物理学』?」

独楽(こま)っていう、回転するおもちゃの仕組みを解説した本です」

「へえ。変わったのを読むね」

「最近、色んなジャンルの本を読んでみようと思いまして。意外なところから、発見があるかもしれないですし」


 ほうほう、とミライアはうなずいたあと、テーブルの横の床に座って、ホウキの手入れを始めた。

 モチコも読書を始めることにする。


 台風の雨風が強くなり、ざあざあ、という音がタワーを包み込んだ。

 やっぱりこの音は、本を読むのにちょうどいい。

 モチコはしばらくのあいだ読書に集中した。



 雨風の音がだいぶ弱まってきた頃、ホウキをいじっていたミライアが顔を上げる。


「お、そろそろ台風が通り過ぎたかな?」

「そうですね」


 モチコは答えながら、ミライアの顔をジッと見つめた。


 先輩はいつも通りの声。

 いつも通りの口調。

 いつも通りの動きだ。


「モチコ、どうしたの? 私の顔に何かついてる?」


 ただジッと見つめてくるモチコに、ミライアが不思議そうに尋ねた。

 それでもモチコは、ミライアの顔を見つめ続ける。


 少し首をかしげながら見返してくるミライアの顔。


 この顔も、いつも通りの先輩の顔。

 ――じゃない!


 モチコはミライアの眉がいつもより少しだけ険しく、わずかに眉間にしわが寄っていたのを見逃さなかった。


「先輩、仮眠室に行きましょう。さあ、はやく」

「え? どういうこと?」


 モチコは答えず、ミライアの身体を背中からぐいぐいと押して、下の仮眠室へと連れて行った。


 いまの先輩はおそらく頭痛かめまいがある。

 魔力酔いの症状だ。


 平気そうな顔をしていても、高速で飛ぶのにあれだけの魔力を使ったあとの魔力酔いは、結構しんどいはず。

 先輩が隠していても、私が見逃しませんっ!


「ああそうか。心配してくれたんだね。モチコにはバレてたか」

「はい。隠してもダメです。私がチェックしてますから」


 そう言ってモチコは、ミライアを仮眠室のベッドに押し込んだ。


「モチコ、ありがと」

「いえ」


 これくらいは相方として当然の務め。

 むしろ先輩のお役に立てて嬉しいくらいだ。


 ミライアを無事にベッドで休ませ、これでよしと一息ついたのも束の間。

 ぐい、とモチコの手が急に引っ張られた。


 ベッドに横になったミライアが、脇に立っていたモチコの手を掴んだのだ。


「じゃあ、モチコも一緒に寝てくれるの?」

「ふえっ!?」


 ニヤリと口元に笑みを浮かべて言うミライアに、モチコは慌てて答える。


「わ、私は寝ません!」

「この前は一緒に寝てくれたのに?」

「う……。このあいだのは……。たまたまです!」


 モチコは仮眠室のカーテンをバシャッと勢いよく閉めた。

 ミライアを置いて、逃げるように展望室(コントロールルーム)へ戻る。


 あんな冗談を言えるくらいなら、少し寝れば元気になるだろう。

 乱れた呼吸を整えるため、モチコはふぅ、と息を吐いた。


(中編へ続く)

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