表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/20

ホウキの上の柔らかな衝突(後編)

「おっと、忘れるところだった」


 ミライアが、何かを思い出したようにつぶやく。

 左手はホウキを握ったまま、右手を左胸にあるポケットに入れてゴソゴソやっている。

 何かを探しているようだ。


「あった、これだ」


 ポケットから取り出したのは、細長い長方形のカードというか、御札(おふだ)のようなものだった。

 モチコはそれが何か知っていた。


「スクロールですね」

「そう。よく知ってるね」


 スクロールとは、魔法が封じ込められたカードのようなものだ。

 一定量の魔力を流すと、そこに封じられた魔法が発動するようになっている。

 ただし使用できるのは1回のみの使い捨てだ。


「今のスクロールは小型だから、こうしてホウキに乗りながらでも簡単に使える」

「もともとは、巻物の形だったんですよね?」

「そう。だから今でも巻物(スクロール)って呼んでる。今は小型化されてカードみたいだけど」

「技術の進歩はすごいですね」


 スクロールは大変便利だが、熟練した職人がごく少量ずつしか製作できないため、非常に貴重な品だ。

 買うとなったら最も安価なものでも、モチコが数ヶ月暮らせるくらいのお金がかかるだろう。

 と、モチコは魔法学校で学んだ知識を思い出していた。


 ミライアが右手でスクロールを掲げると、そこに刻まれた文字のような模様が、緑色の光を放ち始める。


「ちょっと顔を見せてもらえるかな?」


 ミライアはそう言いながら、上半身を左にひねって後ろを振り返り、モチコの方を見た。

 モチコはしがみついていた手を緩めて、言われたとおりに顔をミライアの方へ近づける。


 スクロールの緑色の光が見え、その光に照らされたミライアの顔が見えた。

 とても美しい顔だ。

 その顔が近づいてきて、きれいな顔だなぁと思いながらぼんやり眺めていると――。


 その顔がモチコと衝突した。


「……ふえっ!?」


 思わず変な声が出た。

 モチコは、何が起きたのか確かめようとする。

 おでこに、ミライアの唇のやわらかな感触が残っていた。


「い、いまっ……!?」


 緑色の光が辺りに弾けて、スクロールは灰になるように砕けて消えていった。

 が、モチコの頭は混乱していて、それを見る余裕など無い。


「雨避けの魔法をかけたよ」


 ミライアが続ける。


「ちょっとしたバリアみたいな魔法さ。ある程度の雨や風は避けられるし、小石や砂が飛んできても弾いてくれる」

「なんで、きっ、キス……」

「ん? 魔法をかけるのに両手が塞がっていたから。あ、おでこじゃなくて唇がよかった?」

「う……。だい、じょうぶ、です……」


 急激に速くなった心臓の鼓動は全然大丈夫ではなかったが、モチコはとりあえずそう答えた。

 お待ち帰りの話は本当なのではないか、という疑念が浮かんでくる。

 


「よし、これで準備万端だ」


 ミライアは特に気にした様子もなく、再び前を向きなおして言った。

 耳の下あたりでふたつに結んだ黒髪が、風になびいて艷やかに踊っている。


「ここからは乱気流に捕まらないように、高速で台風に近づく。しっかりつかまっていてくれ。――いくぞ!」


 ミライアが前傾姿勢を取ったので、モチコは返事をする間もなく慌てて背中にしがみついた。

 ミライアが身体にまとっている黄金色のオーラが、ひとまわり大きい光になる。

 その光がふたたびミライアの身体にギュッと集まって、黄金色が濃くなったように見えた、その直後。

 ホウキがものすごい勢いで夜空を切り裂いた。

 

 それまでも十分速かったが、今度のは比べものにならないほど速い。

 乱気流のためか、もしくは雲を避けて飛んでいるためか、ホウキは大きく左右に揺れ始めた。

 次々と後ろに流れていく雲をみながら、モチコはミライアの腰に回した手にぐっと力を込める。


 このドキドキと大きくなった心臓の鼓動は、速さのせいなのか、揺れのせいなのか。

 それとも、もっと別の理由のせいなのか。


「うぅぅ……」


 モチコは小さく呻きながら、頭の中でぐるぐると考える。

 そのあいだに、ホウキは猛スピードで台風へと近づいていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ