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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第2章

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巻けば尊し白百合の花(後編)

「あっ、あの。アルビレオって、なんでしょうか……?」


 モチコは今がチャンスだと思い聞いてみる。

 その答えはリサとシズゥから返ってきた。


「アルビレオっていうのは、2人でペアになって空を飛ぶ魔女のことよ」

「うちのチームだと、ミライアとモッチーがアルビレオだね~」

「2つで1つとなって空で輝く二重星(アルビレオ)が由来になっているの」

白鳥座(シグナス)のくちばしの部分にある星の名前だよ~」


 白鳥座(シグナス)を構成する星のひとつであるアルビレオは、二重星という性質を持っている。

 肉眼ではひとつの星に見えるが、望遠鏡でみると非常に接近したふたつの星であることが分かるのだ。

 ふたりでひとつとなって空を翔ける魔女のペアのことを、この二重星になぞらえて『アルビレオ』と呼ぶそうだ。


「アルビレオはとても神聖な存在なのよぉぉ! 白おかっぱがミライア様のアルビレオとして相応しいのか、今後はじっくりとチェックさせてもらうからぁぁぁぁぁーーーっ!」


 マルシャは大きな声でそう叫ぶと、またズンズンと足音を立てながらドアの方へ向かっていく。


「マルシャ、もう帰るの?」


 そう尋ねたミライアに、今度は丁寧な口調で返す。


「今日はもう失礼しますわ、ミライア様。……白おかっぱがミライア様に()()()()ところなんて、見たくないですもの」


 マルシャはドアの前までいくと振り返り、モチコの方を見る。

 そして、たいへんよく響く大きな声で叫んだ。


「白おかっぱぁぁぁ! トイレはあっち! でもこっちの奥にある方が空いてておすすめだからぁぁぁ!」

「えっ?」

「私はだいたい2階のカフェにいるから、何かあったらすぐ聞きなさいよねぇぇぇ! シグナスに入ったばかりの白おかっぱなんて、どうせ何も分からないでしょぉぉぉーーっっ!」


 ばこん。

 ドアが勢いよく閉まった。


「え? もしかして、良い人……ですか……?」


 嫌われていると思ったが、意外とそうでもないのかもしれない。

 戸惑うモチコの横で、リサとシズゥが微笑ましく笑っていた。



 嵐のマルシャが去ったあと、部屋には静けさが戻ってきた。

 ミライアが部屋の隅に積んである箱から、何かを取り出しながら口を開く。


「モチコ、今日のフライトの準備をしようか。こっちに来て」

「あ、はい」


 モチコはイスから立ち上がり、ミライアに近づく。

 リサとシズゥは黙ってニコニコしながら、少し離れたイスに座って様子を見ていた。


 ミライアがモチコの目の前に立つ。

 身長差があるので、ミライアが見下ろし、モチコが見上げる形になった。


「モチコ、制服似合ってるよ。かわいいね」

「ふぁっ……あ、ありがとうございます」


 急に褒められて変な返事になってしまった。恥ずかしい。

 ミライアはそんなモチコを見て、口元で少し笑っていた。


「じゃあ、そのまま動かないで」


 そう言うと、ミライアは両手を広げてモチコに近づいて来た。

 少しかがんだミライアの顔が目の前に来て、広げた腕がモチコを包むようにして背中にまわされる。

 鼻先に触れそうなミライアの身体からは、良い香りがした。

 甘くて優雅な百合の花のような香り。


 ――抱きしめられる、と思った。


 モチコの心臓が急激に跳ねた、次の瞬間。

 ミライアの腕は、モチコを抱きしめはしなかった。

 代わりに、その手が背中からセーラーカラーの内側へ入っていく。


「あ……」


 モチコが小さく声を吐き出すあいだに、ミライアの両手はセーラーカラーの内側を通り、肩の上を撫でたあとで、モチコの胸の前に出る。

 そこには白いスカーフが握られていた。


 ミライアはスカーフを、モチコの胸の前にあるスカーフ留めに通す。

 最後にスカーフをきゅっと引っ張り、形を整えた。


「これでよし。モチコは今日から、私のアルビレオだ」


 白いスカーフを巻いてもらった――。

 ただそれだけのことだったが、モチコは何とも言えない、うっとりとしたあたたかさに包まれていた。

 まるで、大切に抱きしめられているみたいだ。

 吐いた息がなんだか熱い。


「ほわあぁぁ……。なんて尊い……!」


 ぽやぁとしているモチコの横で、リサが今まで見たことがないほど、興奮した様子でつぶやいていた。

 両手で顔を押さえているが、指の間からしっかり見ている。


「はい~。尊みポイント入りました~。リサの大好物ですねえ~」


 シズゥがまたよく分からないことを言っている。

 そんな周りのことは気にしていない様子で、ミライアが口を開いた。


「アルビレオは任務の前に、お互いの無事を祈って相方にスカーフを巻くんだ。このスカーフは、お互いに自分の命を預けるという信頼の証でもある」

「信頼の、証……」

「モチコ、私にも巻いてくれる?」

「はい……」


 手が届くように少しかがんでくれたミライアに、モチコは白いスカーフを巻いていった。

 初めてのうえに緊張して手が震えてしまい、少し形が悪くなってしまったけれど、ミライアはとても満足そうにスカーフに触れて微笑んだ。


「ありがとう。初めて人に巻いてもらえたのがモチコで嬉しいよ」

「は、はいっ。こちらこそ……っ」


 ふたりの胸には純白のスカーフが咲いている。

 それは白百合のように凛とした白だった。


「スカーフはチームごとに色が違うんだよお~。うちら『白組』もついに4人揃ったね~」

「ほへぇぇぇ……。尊すぎて、今日はご飯食べられないかも……」


 リサは両手で顔を覆ったまま、机に突っ伏していた。

 モチコが加わった4人の『白組』と、まだ初々しい『白のアルビレオ』が誕生した瞬間だった。

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