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台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに  作者: にしのくみすた
第1章

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夜明けの誓い、宙を舞うスカート(後編)

「さて、お腹もいっぱいになったところで、ちょっと聞いてもいいかな?」


 ミライアが少し真面目な声で言った。


「モチコの魔法のことなんだけど」

「はい」


 そのうち聞かれると思っていたので、モチコは特に驚かなかった。


「魔法が発動しない体質って言ってたけど、どういうこと?」

「ええと……順を追って、説明しますね」


 夜空に雲が出てきて月が隠れたのか、部屋の中が暗くなる。

 いつの間にか、ランプの明かりも消えていた。

 モチコは少しずつ話し始める。


「まず、私は『マナを魔力に変換すること』は出来るんです」


 この世界には、魔法の素となる魔素(マナ)という物質が空気中を漂っている。

 魔法使いは、空気中のマナを自分の身体の中に取り込んで、『魔力』に変換することができる。


 変換された魔力は、身体をまとうオーラとなって目に見えるので、魔力=オーラと言い換えてもいい。

 マナを身体の中で魔力に変換することを、一般的には『魔力を練る』とか『オーラを練る』と表現することが多かった。


「オーラを練ることは出来るのですが、練ったオーラが、すぐに蒸発してしまいます」


 通常であれば、練ったオーラは、魔法使いの身体にしばらく留まる。

 そのままオーラを練り続けて一定量を溜めることで、魔法を発動することが出来るのだ。

 だが、モチコは魔法の発動に必要な量のオーラを溜めることが、どうしてもできなかった。

 

 モチコは実際に、ミライアの前でオーラを練ってみせる。

 モチコの身体から緑色のオーラが立ちのぼり、暗い部屋が少し明るくなった。

 だが、よく見るとオーラに炭酸水の泡のようなものが混ざっていて、生まれてはすぐに消えていく。


「泡のようなオーラ……。こんなの初めて見た」

「はい。魔法学校の先生方にも、これが何なのか分かる人はいませんでした」


 モチコはそう言うと、両手の手のひらを上に向けて、身体の前にかざした。


「私が出来るのは、これが精いっぱいです」


 モチコの手のひらの上でオーラが揺らめいてキラリと光った。

 オーラが丸い玉のような形をつくり始め、モチコの頭くらいの大きさの半透明の玉になって、ぽよんと宙に浮かぶ。

 その玉はゆっくり、ふわふわと上昇していき、部屋の天井近くで弾けるように消えた。


「これは……シャボン玉……?」

「はい。オーラをなんとか形にしようと必死で練習して、3年かけてようやく出来たのが、このシャボン玉です」

「3年……」

「一応、シャボン玉をもう少し大きい玉にしたり、小さい玉をたくさん作ることもできます」


 モチコの身体からオーラが消えた。

 部屋が再び暗くなる。


「でも、それだけです。何の役にも立ちません」


 モチコは感情を込めずに淡々とそう説明した。

 顔はいつも通りの無表情だ。

 ミライアが少し険しい顔をして尋ねる。


「……何か解決する方法はないのか? 詳しい人に相談するとか」

「魔法学校の先生方はお手上げだったので、街の有名な魔法使いや、お医者さんを紹介してもらったりもしました。でも結局詳しいことは分からず……。体質だから仕方がないだろう、と」

「そうか……」

「本当は私、空を飛ぶ魔女になりたかったんです。ずっと憧れで、学費を貯めて魔法学校にも通って。……結局は魔法も使えない落ちこぼれのまま卒業して、魔法と関係ないメイドの仕事につきましたけど」

「あぁ……」

「だから今回、先輩と空が飛べることになって、実は嬉しかったんですよ。あ、私が海岸にいたのも、先輩が空を飛ぶところを、一目見たかったからなんです」

「……」


 ミライアは、少し険しい顔をしたまま黙ってしまった。

 まあ、いつもの事だ。

 モチコがこの話を誰かにすると、みんな何と反応したらよいか分からず、困った顔になる。

 学生時代も、クラスメイトがみんな困った顔をしてモチコから離れていき、友達と呼べる人間はほとんどいなかった。


 モチコは、小さく深呼吸をする。

 そして、暗くなった雰囲気を変えようと、わざと大げさにおどけて言った。


「まあ、よくある話ですよ。結局のところ……」


 自分が最も嫌いな言葉を、敢えて口にする。


「私には()()()()()()()ってことで、諦め――」

「私が叶えてみせる」


 突然、ミライアがモチコの言葉を遮った。


「え……?」


 ミライアは繰り返した。

 雲の切れ間から、月明かりが部屋に差し込む。


「私が、モチコの夢を、叶えてみせる」

「と、突然どうしたんですか」

「モチコを必ず、空を飛べる魔女にする」

「いや、それは無理ですって……」

「才能なんて関係ない。モチコは空を飛ぶ魔女になれるよ。信じて」


 そう言うミライアの赤い瞳があまりにも真剣で、モチコは息を飲んだ。

 今までこんなことを言う人間は、ひとりもいなかった。

 モチコに才能が無いと分かると、ひとり、またひとりと知らぬ間に離れていく。


 真正面から向き合ってくれる人に出会ったのは初めてで、どうしたら良いかわからない。

 胸の奥から熱が込み上げてきた。

 両手を握って、胸にぎゅっと押しつける。


「……し、信じても、いいんですか……?」


 思わず声が震えた。

 ミライアが、凛とした声で答える。


「私がモチコの夢を叶えてみせる。――この魔女の名において、約束する」


 それは魔女が、最も大切な誓いを立てるときに使う言葉だった。

 誓いの儀式に則り、お互いに差し出した右手を固く握り合う。

 繋いだ手を、月明かりが照らしていた。


「よし、オッケー」


 ミライアはそう言って手を離すと、両手を上げて伸びをした。

 モチコも胸に溜まった熱を冷まそうと、深呼吸をする。

 気がつくと、もう夜明けが近かった。



 ミライアがぼんやりと窓の外を眺めている。


「先輩、そろそろ眠くなってきましたか?」

「そうだね。お腹もいっぱいだし、約束もできたし、そろそろ寝ようかな」


 それを聞いたモチコは、ジャガイモの入っていた鍋を片付けようと立ち上がる。

 すると、突然ミライアが服を脱ぎ始めた。


「えっ、ちょっと!」


 上に着ていた魔女の制服がそのへんにポイっと投げられ、床に脱ぎ捨てられた。

 続けて、下に履いているスカートも脱ぎ始める。


「せ、先輩っ!?」


 モチコが止める間もなくスカートもまた宙を舞い、違う方向の床に飛んでいった。

 あっという間に下着姿になったミライアを、直視してもよいのか分からず、モチコは挙動不審になる。

 当たり前のように、美しい下着姿だった。


「じゃあ、寝る」


 こちらが慌てていることなど全く気にしていない様子で、ミライアは毛布をかぶって寝ようとしている。


「ちょ、ちょっと先輩!」

「ん? 一緒に寝る? いいよ、おいで」


 ミライアはよく分からないことを言いながら、かぶっていた毛布をバサっと開いて、モチコの入る場所を作ろうとしている。

 ……だからそこを開いてしまうと、美しい下着姿が丸見えなんですけど!


「一緒に寝ませんっ! おやすみなさい!」

「おやすみ。朝日が昇ったら起こして。家まで送るから」


 そう言うとミライアは、モチコが返事をする間もなく寝息を立て始めた。

 モチコは思わずため息をつく。

 でも決して嫌な気持ちでは無かった。

 本当に変な魔女。そして困った先輩だ。


 夜明けの近づく小さな部屋のなかで、モチコはミライアが起きないように小声でつぶやいた。


「……よろしくお願いします、先輩」

<作者コメント>

 お読みいただきありがとうございます。

 ここまでが、第1章となります。


 お話の執筆はすでに最後まで終わっていて、

 全5章、60~70話くらいの構成になる予定です。


 1章はモチコとミライアが出会う話でした。

 2章からは、モチコがメイドとして働くお屋敷へも舞台を広げながら、

 魔女の仲間がたくさん登場してきて、にぎやかに話が展開していきます。


 途中、モチコは山あり谷ありの展開を迎えますが、

 作者はハッピーエンドが好きです。


 少しでも気に入っていただける部分がありましたら、

 コメントや、ポチッと応援して頂けたらうれしいです!

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