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第十一話「最上位オーバーシア」

学院の空が――“ひび割れた”。


昼なのに日が落ちたかのように暗くなり、

地面が静かに震え始める。


嬢が胸元で飛び出し、

蒼白になった。


『レイン……っ!

 観測線が……破れた……!

 あの揺れ、昨日の比じゃない……!!』


レインは胸の奥がざわつくのを感じた。


(また来た……観測者……!

 しかも、前よりはるかに……重い……!)


学院長が駆け寄るよりも早く、

じいが静かにレインの前へ立つ。


「坊ちゃま。

 本日……少々“騒々しく”なりましょう」


空が無音で弾けた。


五つ、十、二十……

数える間もなく、

黒い影が 五十体 降り注いだ。


嬢が叫ぶ。


『は、ハーヴェスター五十!?

 こんなの絶対におかしい!!

 人間領域に来る数じゃないよ!!』


学院全域の結界塔が一斉に赤く点滅する。


《警告――警告――

 観測反応多数――

 位相衝突――制御不能――》


レインの胸が強く痛む。


(う……まただ……

 器が……揺れてる……!!)


嬢が焦った声で光を送る。


『レイン、動かないで!

 まだ器が安定してない……

 さっきの揺れだけで、負荷が戻ってる……!』


ハーヴェスター五十体が

“にじむように”動き始め、

レインを中心に包囲を形成した。


《回収対象――主の器――捕捉完了》


嬢が絶望に近い声を上げた。


『五十体なんて……こんなの、ただの処刑執行だよ……!』


じいが、

そっと一歩前に出た。


その動作ひとつで――

空気が止まった。


「……坊ちゃまの周囲を、これ以上汚さぬよう」


じいが指を鳴らした。


軽い音だった。

しかし――


世界が裏返った。


五十の影が一斉に、

“概念そのものを消去されたように”消滅した。


嬢が息を呑む。


『じい……

 一度に五十体……!?

 位相丸ごと……削った……!?』


レインは震えたまま立ち尽くす。


(強すぎる……

 本当に……どこまで……)


じいは微笑んで言った。


「坊ちゃま。

 どうやら“本命”のご登場のようでございます」


空が再び裂けた。


今度は黒ではない。

白銀の重い輝きが三つ――

ゆっくりと空間を染めながら降下してくる。


嬢がレインにしがみつく。


『レイン……あの三体……

 “第三観測層サード・フェイズ”だよ!!』


「第三観測層……?」


嬢が早口で説明する。


『観測者は階層で分かれてるの!

 第五が斥候

 第四がハーヴェスター

 第三が下位オーバーシア、

 第二が上位オーバーシア

 第一が最上位オーバーシア。


 あの三体は、

 “オーバーシアの一番下……なのに”

 存在圧がもう……反則レベル……!』


レインは本能で理解した。


(これが“下位”……!?

 ハーヴェスターとは比にならない……)


嬢はさらに続けた。


『視界に入るだけで精神が削れるくらい強い……

 だから絶対に目を合わせちゃダメ……!』


レインは顔を伏せ、

視界の隅で白銀の影を捉える。


地面が軋むのは、

重さではない。

ただ“存在しているだけ”で世界を押しつぶすからだ。


下位オーバーシア三体が

じいを取り囲むように円を描いた。


《主の器……異常深度……

 回収優先度……最上位……》


じいは微笑む。


「では……片付けてまいりましょう」


そして、一歩。


無音。


次の瞬間――

三体のオーバーシアが空へ弾き飛び、

その身を“割られた概念のように”崩壊した。


嬢が絶句する。


『は、速すぎて……

 位相そのものを……切り裂いた……!?』


レインも目を見開く。


(じい……

 本当に……見えなかった……!)


じいは淡々と告げた。


「坊ちゃまの障害は、

 一つたりとも生かしてはおけませんので」


しかし――

残る二体は、

まったく違う“気配”を放っていた。


紅。

そして、漆黒。


嬢が顔色を失う。


『レイン……っ!

 あれ……第一観測層ファースト・フェイズ……

 オーバーシアの最上位……!!』


(最上位……!

 さっきの三体よりも……圧倒的に……重い……!)


アザリエルとセティア


紅の影が突然、

軽い調子で手を振った。


「やあやあ〜!じいくん!

 名前分かんないからじいくんでいいよね〜。

 さっきの三人、すっごかったよ〜?

 見事な分解技術!拍手〜!」


セティアが穏やかに笑う。


「落ち着きなさいアザリエル。

 下位三体が消えたぐらいで興奮しすぎだ」


レインは凍りついた。


(な……人間みたいに……喋ってる……!?)


アザリエルがレインを見つけ、ぱぁっと顔を輝かせた。


「うわ〜〜!主の器ちゃん発見っ!

 ねぇセティア、見てよこの揺れ!

 きれい〜!

 これ、ほんとに人間なの?すごいねぇ!」


セティアは慈しむように微笑んだ。


「可愛い子だね……。

 怖がらなくていいよ。

 すぐに“回収”するから。

 ほんの一瞬で、痛みも苦しみも終わる」


嬢が身を震わせて叫ぶ。


『レインに触るな!!』


アザリエルは嬉しそうに嬢を覗き込む。


「うわ〜、嬢ちゃん光キレイ〜。

 解析したいなぁ、ちょっと触ってみよっか」


じいが前に立つ。


「お控え願います。

 嬢の主に触れるなど、許しませぬ」


アザリエルはにやりと笑う。


「じいくん、本気出せないでしょ〜?

 主の器、まだ不安定なんだよね?

 本気の余波で死んじゃうよ?」


セティアが優しく頷く。


「そうだね。

 だから“今なら”取れる。

 行こうか、アザリエル」


嬢が悲鳴を上げた。


『レイン!!構えて!!

 あいつら……じいの制限を完全に読んでる……!』


二体が――

同時に動いた。


位相が跳び、

空間が裏返り、

時間がわずかに遅延したような感覚。


気づいた時。


アザリエルが、

レインの目の前にいた。


まるで、人間のように優しい笑顔で。


「はい――つかまえた♡」


セティアの優しい声が続く。


「泣かなくていいよ。

 すぐに終わるからね。

 回収は……救いだよ」


嬢が絶叫する。


『レイン!!』


じいが初めて、

本気の焦りを見せた。


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