ビフォー
死に掛けの子供を拾った理由は、遠い世界で好きだった推しにそっくりな髪の色だと思ったからだった。
「っ大丈夫っ!! 助けるからっ」
ぼろぼろで枝のように細い両腕で息が切れ切れな状態。生きているのもやっとな感じの子供を必死に抱えるが、ぶらぶらと手足がぶら下がっているかのような姿に胸を痛めたが、それで足を止めるわけにはいかないので、食べられるような食事。飲み物などを口に木匙で運び、ゆっくりゆっくり食べさせて、いきなりたくさんは食べられないので一日に何回も小分けに食べさせて、眠っているのを何度も何度も確認して呼吸しているのを見て安堵して、すぐに異変に気付ける場所で仕事をしていた。
一か月くらいにずっと寝たきりだった子供が少しずつ動けるようになった時は涙を流して喜んだ。ただの涙ではない、滝のような涙でそのあまりにも量の多い涙に助けた子供が怯えていた……怖がらせるつもりはなかったけど。
「なんで……」
美味しいご飯を一緒に食べることが出来るようになった時に子どもが尋ねてきた。
「なんで、僕を助けたの……」
聞かれて正直に答えていいか迷った。でも、誤魔化したらこの子は心を閉ざす気がした。
「う~ん。信じてくれないと思うけど、聞きたい?」
「正直に言ってくれたら」
ならば、こっちも正直に言ってみようか。
「簡潔な話と長くなる話。どちらがいい?」
「…………じゃあ、長く。簡潔だと信じるに値する内容が省かれる気がする」
「…………」
言われてみるとそんなことになりそうな気がする。
では長く話そうと思ってそっと耳に触れる。
魔術で擬態していた丸い耳が先のとがったものに戻る。
「………私、先祖返りのハーフエルフなんだ」
両親は普通の人間同士だった。最初は妻の浮気を疑い、夫は責め立てたが、浮気ではなく、先祖返りというのが魔術師などの調べで発覚したら喧嘩をしていた二人はその元凶の子供を責め立てて、機嫌が悪い時に殴れる道具扱いで物置に置いていた。
最初はされるがままになっていたその先祖返りの子供はある日限界が来たのか突然壊れた。
「壊れた結果……私は【魂の記憶】を思い出して、自分が何人もの人生を送っている存在だと認識したんだ。転生というんだけど……」
魂の積み重ねた記憶や経験は人が生きるには膨大過ぎて脳が受け止めきれないと無意識に封じられている物だと教えてくれた神官が言っていた。だけど、私の場合は先に心が壊れてしまったことで絶望して死んでしまう恐れがあったからの救済措置ではないかと。
過去にもそんな例があったとか。
「私が【魂の記憶】を取り戻したことで、このまま暴力を受け続けることがおかしいという事実を知って、私は両親に復讐をして、家を出た。私の【魂の記憶】はこの世界のモノ以外もあったからその別世界の知識を役立ててほしいと言われてね……」
今子どもの食べている料理も私と同じように【魂の記憶】が戻ってしまった人が世に広めたものだ。
「それは……」
「無理に慰めようとしなくてもいいよ」
こんな話はきっと不幸自慢のようなものだ。この子供も死に掛けていた時点で似たようなものなのだ。それでも慰めようとしてくれているのが純粋に嬉しい。
「でね。私のたくさんある記憶の中に【推し】というものがあってね。貴方のその青い髪がそっくりなのよ」
だから、助けた。きっとその髪の色ではなかったらここまでしなかっただろう。
「推し……」
「好きだ。応援したい。勇気をもらえる。かつての私という存在が生きているのが嬉しいと思わせてくれた。トクベツ」
一言で言い表すには説明が難しい存在を【魂の記憶】が大事に大事に抱いていた。そして、壊れた私がその【推し】を思い出したから自分の境遇のおかしさに気付いてさっさと逃げたのだ。
「………貴方。名前は?」
ずっと聞きたかったこと。でも、聞いても話してもらえるか分からなかったので聞かなかった。
………今なら教えてもらえるかも。
「………………………………あったかもしれないけど、分からない」
覚えていないと言うことはずっと名前で呼ばれていなかったと言うことと名乗る相手もいなかったということだろう。
「そっか…………私と同じか。私はね。説明してくれた神官が付けてくれたんだ。ガーネットって」
そこまで告げて、少しだけ迷うように、
「ねえ。貴方のことアイオライトと呼んでいい?」
菫青石。ウォーターサファイアとも呼ばれている石。
「それ………推しというやつの名前?」
少しだけ睨むように言われて、口ごもる。
「…………………………うっ、うん。だっ、駄目かな……」
問い掛けながら駄目だよねと自分に突っ込む。
「ううん……大丈夫………そっか、僕の名前か。アイオライトって……」
頬を緩めて嬉しそうに顔を赤らめる。
「じゃあ……よろしくね。アイオライト」
手を差しだして告げると、彼は………アイオライトは顔を赤らめて少しだけ恥ずかし気に差し出された手を取った。
アイオライトはどんどん身体が良くなってきた。リハビリになるからと言って家事の手伝いもしてくれて、私よりも料理が得意になっていた。
「ガーネットさん。あの、聞きたいことが……」
緊張した面持ちで名前を呼んでくれるようになったと思ったら文字を教えてほしいと言ってきたので喜んで教えた。
勉強を必死にしている傍らで私が仕事をしていると不思議そうに覗き込んで、
「何をしているんですか?」
と尋ねてくる。
「んっ? 薬草作り。わたしエルフの先祖返りだしね」
薬草の目利きできるかなと試してみたら出来たのだ。後、薬草も育ててみたし、前世の記憶を応用して何か便利道具作れないかなと思って試したら機械式機織り……実際には魔力だけどそんな感じで反物を作れるようになったのだ。
(ありがとう……某ミュージアムの説明のお姉さん)
貴方が教えてくれた型番をこの世界で活用して珍しい模様を作って評判になっています。流石、シートベルトや車のシートの織り方を教えてくれたら今までなかったみたいなので。
そんな感じでお金はたんまり稼いでいる。
「アイオライト。服を作るからサイズ測らせて」
と反物を用意して服を作ろうとしたら恥ずかしそうに断られたので残念だけど、町に出て服職人さんにしっかり頼んだ。
既製品でいいと最後まで抵抗していたけど。
アイオライトはそこまでしてもらう義理はないと何度も言っていたが、ならば大人になったら恩返しをしてねと黙らせた。
「…………そこまでしてくれるのは俺が、貴方の好きな人に似ているから……」
そんな風に風に不安げに言ってきたけど、その頃には推し関係なくアイオライトを好きになっていたので、ぎゅっと抱きしめて今は貴方がいっぱい大好きだと伝えた。
「あっ、暑いから離れてよっ!!」
悪態をついて引き離す様に寂しさを感じたけど、今までずっと私の動きを気にして遠慮していたのが、遠慮しなくなったことが嬉しくて、安堵したのだ。
ちなみにガーネットの前世はゲームの設定集などは買わない(買えなかった)ライトなオタクです。




