【第2章】1.闇に潜む声
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鈍く禍々しい赤黒い光を纏った大きな玉を囲むように、四人の人物が立っている。暗い闇のような空間で、顔は見えない。
「ウグリナが消されたようだね」
艶のある声で一人が言った。
「あれはお前の手下だったっけ、ナグルヴァス」
ナグルヴァスと呼ばれた者は淡々とした口調で返す。
「あれは、様子見として送り込んだだけだ。痛手にもならない」
すると一人が女性の声でクスっと笑った。
「ほんに、気の毒なことやわぁ。あれでもナグルヴァスはんのために、必死で戦うてはったというのに」
「フン。あれを戦いと呼べるのならな」
女性の声はクスクスと笑う。そうしているとずっと口を閉じていた一人が言った。
「それで、収穫がなかったわけではなかろう」
重く低い声が響く。ナグルヴァスと呼ばれた者はニヤリと口角を上げた。
「ああ、見つけたさ。『生き残り』を」
「はぁーあ。ようやくだね。かれこれ300年近くかかったんじゃない?僕ならもっと早く見つけて――」
その瞬間、その艶のある声の主の顔面を黒い靄のようなものが貫く。
「黙れ」
ナグルヴァスと呼ばれた者から放たれたもののようだ。しかし顔面を貫かれた者は一切動じることなく貫かれたまま笑い声を上げた。
「君、沸点低すぎ。もう少し感情を抑えるようにした方がいいんじゃない?これじゃあ死人がゴロゴロ出るよ」
「黙れと言っているのが聞こえないのか」
「まったく……あんた方はいつも人間のように争うてばかり。あまりに醜うて見とれしまへんわ」
女性の声がクスクス見下すように笑う。その三人に割って入るように重く低い声で一人が言った。
「余計な話はするな」
その一声で三人は口を閉じ、場が静まったところで艶のある声が言った。
「そうだね。探しものが見つかったんだ。これからは僕らは『共闘関係』だ」
「そやねぇ。ナグルヴァスはん。さっきの話し、続けてくれはります?」
「……スヘリナがあいつの隠れていた村を襲撃したことで、おそらくあいつは我らの狙いに気づいただろう。そして、近いうちに動く」
重く低い声が返した。
「ならば、やることはわかっているな。ナグルヴァス」
ナグルヴァスは再びニヤリと不敵に笑った。
「ああ。生き残りが残っていては、世界の『不変』に反する」
重く低い声の主もフッと鼻を鳴らした。
その隣で女の声の主は首を傾げる。
「スヘリナ……?ウグリナはんとはちゃいますのん?」
ナグルヴァスはその問いに興味無さげに応える。
「あいつが手下となった時に名前を変えるよう頼まれたんだ。だから変えてやったよ。スヘリナとな」
それに艶のある声が反応する。
「うへぇ……。君はほんと陰気で意地の悪いやつだなぁ。ウグリナに仕返しされなかったの?」
「フン。あいつは外見にしか興味のない魔族だ。知恵など人間ほども持ち合わせていないさ。その証拠に最期までスヘリナと呼ばれることにこだわっていたからな。……まぁ、そのせいであの生き残りに俺の名が伝わってしまったのだから、ことごとく能無しだった」
「バッサリ切り捨てるねぇ。ナグルヴァスに仕える手下は大変だ」
「ほんまに……。もう少し情いうもん、持たはったほうがええんとちゃいます?」
その二人の言葉にナグルヴァスはギロリと睨みつける。
「気色の悪いことは言うな。貴様らの方がよっぽど非道だろう」
すると二人はおかしそうにクスクスクスと笑い出す。それは不気味に、異様に空間に響く。
「まったく……。君は正直なんだよ、ナグルヴァス……」
「ええ……。人間として生きていけはると思いますえ」
その声はどちらも優しい声だったがその奥に深い闇を感じさせるような冷酷さを孕んでいた。
ナグルヴァスは呆れたように息を吐いた。
「貴様らには構っていられない」
そう言い身を翻すと一歩進まないうちに一瞬で闇へと消えて行った。艶のある声も女の声も、笑え声をやめると目を合わせたかのように頷き合い、彼に続いて消えて行く。
その場に残った重く低い声の持ち主は黒く濁る大きな玉を見つめた。
「運命は、回る……」
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第二章が始まりました。続きを待っていてくださると嬉しいです。