【第2章】5.魔法の学生寮
魔技学院は大きく分けて二つの建物からできている。正門前に位置するメインの建物は学校施設で、裏の広いグラウンドを挟んだ先にもう一つの建物、学生寮が建っている。
正門から見れば、学院は街の中にあるように見えるけれど、実は裏手には大きな森が広がっており、表と裏でまったく違った風景が広がっている。
休日には友人と街へ買い物に出かけたり、裏の森にある大きな池で癒しのひと時を過ごしたりと、自由な過ごし方ができる場所だ。
ノエルとリラは学生寮へ行く手前、グラウンド横の石廊下を歩いていた。
今の時間は剣術の実践訓練中のようで、剣を持った生徒たちが一対一で模擬戦をしていた。
「本当に広すぎて、寮に行くだけでも一苦労だな」
ノエルは、言葉とは反面、嬉々とした表情で学院の大きな建物を見上げる。
「わたしも、あまりここには来たことないから、いまだに、どこに何があるのかわからないな」
「そっか。リラはここの卒業生じゃないのか」
「えっ?だって、わたし1000年生きてるもん。この学院はせいぜい創立500年くらいじゃない?」
「じゃあ、リラは魔法をどこで覚えたんだ?1000年前にも学校はあったのかな?」
その問いにほんの少しだけ、リラは話すのを留まったように感じたが、すぐに彼女は口を開いた。
「もちろん、学ぶ場所はあったよ。こんなに立派な施設ではなかったけど。ただ、わたしには……魔法を教えてくれる師がいたの」
「へぇ、師匠か。じゃあその人も魔法使いなんだな」
「厳密には……違う、と思う。でも、魔法も使える人だった」
「そっか」
ノエルは、それ以上踏み込んで聞いてもいいものかと迷っていると、リラは続けてポツリと言った。
「もう何百年も会ってないから。また会えるといいな」
それはノエルに向けて話したというより、願いを空に届けるような呟きだった。ノエルは、共に空を見上げる。
「会いたいと思っていたら、きっと会えるよ」
その言葉にリラはクスッと笑う。
「死んでても?」
「え?あっ、そっか。リラが1000年も生きてるから、ついその人も生きてるのかと……。うん、まぁ、でもきっと会えるさ!」
「何それ。根拠もないくせに」
ノエルは頭を掻きながら苦笑いをする。つられてリラもクスクスと笑った。その時、グラウンドの方から男子生徒の声が聞こえてきた。
「お前!もっと腰入れろよ!」
どこか苛立ちを含んでいるような声に二人は顔をあげる。声のした方を見ると、尻もちをついているメガネの男子生徒に、剣先を向けて怒っている、少し太った男子生徒が目に入った。
メガネの生徒は「ご、ごめん……」と言いながらよろよろと立ち上がる。
「ったく、これじゃあ、まともに練習できねーよ」
「うぅ……」
メガネの生徒は今にも泣きそうな顔をしながら、両手で剣を握った。その手はどこか震えている。
「ほら、行くぜ!」
小太りの生徒が剣を振り上げる。
「やっぱり無理だ!」
しかし、その瞬間、メガネの生徒は恐怖で顔を逸らし、その場にしゃがみ込んでしまった。
「え!?おい……!」
勢いよく振り上げられた剣は制止することを許さず、メガネの生徒に向かって一直線に振り下ろされた。
ガキン――!!
その剣を間一髪のところで受け止めたのはノエルだった。いつの間にかメガネの生徒の剣を手にしている。
リラは先ほどまで隣にいたノエルがいなくなっていることに気づいた。
「……彼、瞬発力だけはあるんだから」
彼女は呆れたように息を吐き、ノエルに近づいた。
ノエルは腕で冷や汗を拭きながら、メガネの生徒に向く。
「危なかったな。大丈夫か?」
「あ、あなたは……」
小太りの生徒も急いで彼に駆け寄る。
「お、おい、リアンセ!大丈夫か!?」
メガネの生徒は、差し出された手を申し訳なさそうに握って立ち上がる。
「う、うん。ごめん、僕……」
「ったく、何やってるんだよリアンセ。剣から目を逸らすなんて、剣士ならやっちゃダメなことだぞ」
「ごめん……」
彼はメガネを指で押し上げながら、俯きがちに謝ると、続いてノエルの方を見た。
「あ、あの、お兄さんも、すみませんでした……」
「俺からも、危ないところをありがとうございました」
小太りの生徒は、リアンセと呼ばれたメガネの生徒よりも堂々として、背筋を正して頭を下げた。二人の謝罪にノエルは両手を振る。
「いやいや、謝らないでくれよ。俺も一応剣士だから」
「えっ、そうなんですか?」
メガネの生徒が顔を上げた時、遠くから男性の声がした。
「そこ!何している!」
見ると、教師と思われる中年の男性がこちらに駆け寄って来ている。健康的な焼けた肌に筋肉質な身体はまさに剣を扱う者の姿だ。
「せ、先生……」
二人の生徒は、まずい顔をする。男性教師は生徒二人に近づくと呆れたように言った。
「またリアンセか」
「す、すみません……」
「お前なぁ。一体いつになったらまともに剣を振れるようにるんだ?」
「すみません……」
リアンセと呼ばれた生徒はひたすらに謝り続ける。見かねたノエルが割って入った。
「あの、失礼ですが、今は剣術の授業の最中ですか?」
男性教師はノエルに向くと眉根をひそめる。
「そうだが……君は?ここの生徒ではないようだけど」
「俺はノエル=フェルディアと申します。訳あって、この学院に用があって」
それを聞くと男性教師は、ハッと鼻を鳴らした。
「なら関係ないですよね。これはこいつらの問題なので。ほら、お前らグズグズしてないでさっさと練習を続けろ」
ノエルはその振る舞いに、カチンときた。そして、去ろうとする教師の腕を掴んで止めた。
「彼らの問題、ではないですよね」
「は?」
男性教師もノエルを睨む。ノエルは淡々と言った。
「このメガネの生徒は、あなたから見ても、他の生徒より成長が遅いことがわかっているのに、彼についてあげることもしていない。一歩間違えれば、先ほどの訓練で彼は大怪我を負ったと思いますよ。これって、完全にあなたの監督責任ですよね?」
「んなっ!?」
男性教師は強引に手を振り解いた。ノエルは続ける。
「本物の剣を子どもに持たすのなら、もっと慎重に、適切な方法で生徒一人一人を指導すべきですよ。剣士なら、それくらいわかるでしょう」
「んだと!?さっきから聞いてれば生意気な口をききやがって、この――!」
男性教師は怒りのままに、拳をノエル目掛けて振り上げた。
「いいんですか?」
拳が鼻先まで飛んできた瞬間、リラが強い口調で口を挟んだ。拳はギリギリのところで止まる。男性教師はリラを見た。
リラはとても冷たい目を彼に向けた。
「生徒が見てますよ」
その一言で男性教師はハッとし周りを見渡した。
何事かと生徒たちは手を止めてこちらを見ている。中には、この状況を冷ややかな視線で見つめて、ヒソヒソと話している生徒もいる。
彼は拳をゆっくり降ろす。その時、授業終了を告げる鐘の音が鳴り響いた。
「きょ、今日はここまで!」
その一声で、集まってきていた生徒たちは一斉に散り散りとなり片付けを始めた。
「このことは校長に報告するからな」
吐き捨てるように言い、男性教師はその場を足早に去っていった。
ノエルは、ホッと胸を撫で下ろす。リラは教師の背中を見ながら呟く。
「報告したって意味ないけどね」
それを聞いたノエルは、リラと目を合わせると、お互いに小さく苦笑いをした。
「あのぅ……」
おずおずとメガネをかけた生徒――リアンセはノエルたちに声をかける。
「すみませんでした。ご迷惑をおかけして……」
ノエルは彼に笑いかける。
「気にすることないよ」
そこへ小太りの生徒がリアンセの肩に手を乗せて話しかけた。
「さっきは悪かったな」
「あ、う、ううん……僕こそ……」
リアンセが話し終わる前に、小太りの生徒は剣を片づけに走って行ってしまった。
「ごめん……」
走り去る背中に彼はそっと言った。そして、自身も片づけをしにトボトボと歩いていく。
「あの子も大変だね。卒業するまで、かなり時間がかかりそう」
リラが小さく言う。ノエルは、他の生徒とぶつかってまた謝っている彼の姿を見つめた。
周りの生徒よりも一回り小さく見える背中に、ふと、ノエルは幼い頃の自分と重なった。
「……っ」
気づかないうちに、ノエルは彼に向かって駆け出していた。
「あ、ちょっと……」
リラが止める間もなく、ノエルはリアンセに声をかけていた。
「ねぇ、君」
「えっ?あっ、お兄さん……」
「君……えっと、リアンセ、だっけ?あのさ、俺、ノエルって言うんだ」
「あ、はい。さっき先生に言ってるのを聞きました」
「そ、そうか。それでさ、俺、実は王国騎士団に入っていたんだ」
「あ、はい……。それも知ってます」
「え?」
王国騎士であることはまだ言っていないはずだ。リアンセは暗い顔で俯くと、メガネを押し上げる。
「国王側近の近衛兵にいらっしゃいますよね。フェルディアさん」
「あ、ああ。俺の父だけど」
「僕の父も王国騎士団に所属しているんですよ」
リアンセは、ノエルと目を合わせようとせずに、俯いたままそう言った。
「そうなのか。それなら俺も知っているかもしれないな。名前はなんて言うだ?」
しかし、リアンセはその問いには応えたくないと言わんばかりに顔を背けると「すみません、僕急いでいるので」と小さく言い、駆け足でその場を離れた。
「あ、リアンセ!」
ノエルが呼び止めるが、彼は振り向かなかった。
「あまり深追いしない方がいいんじゃない?」
リラがそう助言する。
「そう、だよな。そうなんだけど……」
それでも、彼が昔の自分と重なってしまう。
「きっと、本当は剣士になりたくないんじゃないかと、思ってしまうんだ」
リラはノエルをチラリと見る。ノエルはまっすぐリアンセを見ていた。リラは何も聞かずに「そう」とだけ返事をした。
その後、二人はグラウンドを離れ、寮へ向かった。
魔技学院の寮は男子寮と女子寮でそれぞれ分かれている。
石廊下から寮の正面玄関を入るとすぐに、吹き抜けのホールが広がっていた。天井には魔法で作られているのか、ガラス玉のような照明がいくつか浮いていて、辺りを照らしている。
向かって正面の壁、ホールの中心には掲示板が配置してある。その隣には、少し間隔を空けて男女の石膏像がそれぞれ厳かに建っている。
入ってすぐ左手側には、訪問者や生徒たちの対応をするための受付があった。
ノエルは受付に向かって声をかけた。
「すみません」
すると、奥から中年の女性が現れた。
「はーい。どなたでしょうかね」
「テオルダン学院長から、こちらに宿泊許可をいただいていまして」
ノエルが言うと、女性は頷いた。
「あぁ、はいはい、学院長から話しは聞いていますよ。わたしはここの寮母をしているので、困ったことがあればわたしに聞いてくださいね。はい、それじゃあ」
寮母は奥からファイルを持ってきて中から一枚の紙を出した。
「ここに、名前を記入してね」
言われた通り、二人は差し出された紙にそれぞれ名前を記載した。
「はいはい。えーと、ノエル=フェルディアさんと、リラ……。あなた、ラストネームは?」
「ないよ。ただのリラ」
「はいはい。ただのリラさんね」
寮母は紙に承認のサインをサラサラと書くと、手際よく紙を二枚に割いた。そして、それぞれを手のひらに乗せ、息をそっと吹き掛ける。すると、紙はふわりと舞いあがり、ひらひらと宙を漂いながら二人の手元に落ちてくる。
そして、二人の目の前まできた紙は、一瞬のうちに形を小さな鍵へと変えた。
「あなたたちの部屋の鍵ですよ。二泊三日分、それぞれの部屋専用の鍵になっているから、無くしちゃダメですからね」
ノエルは鍵を手に取った。小さく『ノエル=フェルディア』と書かれている。
「すごいな、リラ」
ノエルが関心して言うと、リラは自分の鍵をジトっとした目で見つめたまま応えた。
「ええ、ほんとに」
リラの鍵には『ただのリラ』と記されていた。
「男の像が立っている方が男子寮、女の像が立っている方が女子寮よ。間違えて異性の寮に入ろうもんなら、石膏像からお仕置きを喰らうから、気をつけてくださいね。それから、食事は朝昼晩と、それぞれ時間が決まっているから、良ければ食べて行ってくださいな。食堂は、正面玄関から入って右手側にある、あの階段を降りて行けばありますから。えーと、あとは」
寮母はファイルから二枚の案内用紙を取り出し、二人に手渡した。
「それ、寮のマップですから。ノエルさんは三階の一番奥。リラさんは二階の一番奥。四階は特待生とか上級生たちが勉強してるから立ち入るのはオススメしないわ。ピリピリしてるの。二階には大浴場があるけど、個人浴室もあるから好きな方を使ってね。あとは各階に談話室があるから生徒たちと談笑するのもいいわよ。それから――」
と、話しが一向に終わる気配がしないので、ノエルは割って入った。
「ありがとうございます、寮母さん。いただいたマップを見ますので、あとは大丈夫ですよ」
「あら、そう?それじゃあ何かあれば、また呼んでくださいね」
「はい。ありがとうございます」
そして二人は、それぞれ石膏像の前へ行った。
「それじゃあ一旦ここで」
「ええ。荷物を置いたらここへ戻ってくるから」
「うん。依頼もこなさなきゃいけないしな」
男女の石膏像は、それぞれゆっくりと顔を動かして、彼らを見る。そして、許可をもらっている人物だとわかったのか、ゆっくりと像が横へ動いた。
すると、先ほどまで像が建っていた場所から上へと続く階段が現れた。
「おぉ〜」
ノエルは驚きの声をあげて、意気揚々と階段を上った。
「魔技学院の寮、一度入ってみたかったんだよな」
そうして三階まで来ると、廊下の前で足を止めた。ホールにあった照明玉と同じものが、天井付近を浮遊している。窓からは、傾き始めた夕日の温かい色が差し込んでいる。
今はまだ、みんな学校にいるようで、とても静かだった。ノエルはマップを見ながら、そっと歩き出す。
「一番奥、だったな」
あまり広くない廊下だが、その代わりに部屋が広いのだろう。ガラス越しから見える談話室はとても広く、落ち着いた空間のように見えた。
一番奥の扉まで来るとノエルは足を止めて、確認のため一応ノックをした。中から返事はないため、受け取った鍵を鍵穴にそっと差し込む。ガチャリと鍵が開く音を聞き、ノエルは扉を開けた。
「……え、え?えぇぇ!?」
見覚えのある部屋の景色に、思わず仰天の声を上げた。静かな廊下にノエルの声がこだまする。
「ちょ、ちょ、ちょ」
ノエルは扉を閉めた。この部屋はおかしい。再度、ゆっくりと扉を開けると、驚きで部屋を凝視した。
「な、なんで、俺の部屋が?」
そこには、ノエルが長年過ごしていた、実家の自分の部屋と、まるっきり同じ部屋が広がっていた。
ベッドの位置や窓の位置、鏡の位置やクローゼットの位置まで、そっくりそのままノエルの部屋だ。
驚きで入ることができず、ノエルは再び扉を閉め、そして寮母からもらったマップを見た。
そこに書かれていることによると、どうやら個室は各階に一部屋ずつしかなくて、その部屋のみ『使用者の想像する部屋』が反映される魔法がかけられているようだ。
「想像する部屋……。つまり、俺は『部屋』と言われて自分の部屋を無意識で想像していたのか?なら……」
ノエルは深呼吸をすると、目を閉じ、想像した。
豪華な家具で揃えられた広々とした部屋を。
想像したまま、また扉を開ける。
「わぁ……!」
目の前には想像した通りの部屋が広がっていた。明らかに部屋の奥行きは建築面積を越えているが、入ってみるとその全てに行くことができた。
「な、なるほど。すごい魔法を思いつくもんだな。貴族になった気分だ」
そう呟いて、高級そうな椅子に腰掛ける。だが、だんだんと居た堪れない気持ちになってきた。ノエルはさっさと部屋を出て、扉を三度閉めて開く。最初の時に現れた、実家のノエルの部屋がそこに広がっていた。
「うん。やっぱり、こっちの方が落ち着くな。……っていけね、リラと待ち合わせてるんだった」
ノエルは荷物を部屋に置くと、急いでホールまで向かった。ホールにはリラがすでにいると思っていたが、そこには誰もいなかった。
「まだ部屋にいるのか?」
その場で待っていようかと思ったが、少しだけ寮を散策したい気持ちの方が勝り、自然と足は食堂へ続く階段を降りていた。
階段は螺旋構造となっていて、それをずっと降りるとすぐに広すぎるほどの空間に出た。
「おぉー!」
地下一階は吹き抜けになっているのか、とても天井が高く、各場所に本物かと見間違えるほど精巧に作られたガラスの木が立派に枝を伸ばしている。年季の入った古びた楕円形の大テーブルとイスはは乱雑に見えるようで、人ひとり通れるだけの通路を作りながらさまざまに敷き詰められている。
寮のホールへと続く螺旋階段とは反対側には地下一階に続く階段と部屋があり、それは食堂側はすべてガラス張りとなっており中の様子が見える。どうやら厨房のようだ。
また、地下であるにもかかわらず、天井まで伸び切った木々から夕陽が差し込んでおり、まったく暗さはなく、むしろあまりにも幻想的な空間が広がっていた。
「あ、ノエル」
ふと、リラの声がした。彼女は中央付近のテーブルに腰掛けている。隣の席に、一人の女子生徒が座っていた。ノエルはリラに近寄った。
「なんだ、リラ、ここにいたんだな」
「部屋の近くでこの子と会って、少し話をしていたんだ。ごめんね、ホールにいなくて。待たせたでしょ」
謝るリラに、ノエルは頭をかいた。
「いや、待たせたのはこっちの方だよ。さっきまで部屋にいてさ。部屋にかかってる魔法がすごくてつい」
「ああ……」
リラは彼の言いたいことがわかるように頷いた。
「魔法、ですか?」
ノエルの言葉に反応したのは女子生徒の方だった。
腰まである長い艶のある茶髪に、どこか眠たげな雰囲気を持つ垂れた目、柔らかそうな血色の良い肌。まるで人形を思わせるような、可愛らしさと儚さを併せ持った彼女は、ノエルと目が合うと、少し恥ずかしそうに目を逸らした。
彼女の問いに、リラが応える。
「寮の個室には魔法がかかっていて、使用者の想像する部屋が作り出されるんだよ」
「へ、へぇ、それは初めて知りました。すごいですね。わたしも入ってみたいな」
そして、リラは女子生徒とノエルを交互に見た。
「紹介するよ。一緒に学院に来た彼、ノエル。ノエル、こっちの女の子はメルア」
「メルアか。ノエルだ、よろしくな」
ノエルは愛想良く手を差し出した。しかし、メルアという名前の彼女は恥ずかしそうにうずうずしている。リラが助け舟を出した。
「彼女、人見知りが強いみたいで」
「あぁ、それはすまない」
ノエルは慌てて手を引っ込める。その様子を見たメルアも慌てて言った。
「い、いえ。こちらこそ。よ、よろしくお願いします……」
小さいけれど、透き通った優しい声だった。
「メルア、さっきのこと、彼にも話してもいい?」
「は、はい」
リラはメルアに確認を取ると、ノエルに言った。
「彼女、あのリアンセって男子生徒と友人らしいの」
「え、そうなの?」
メルアは小さく頷く。
「今の時間なら図書室にいるかもって。行ってみる?」
ノエルは少し考えるように黙り込んだ。
部外者が首を突っ込んでもいい内容でもないだろう。けれど、本心ではやはり彼のことが心配だった。
「うん。とりあえず行ってみよう。……話しかけるかは、様子次第、かな」
「そう。それじゃあ、メルア、図書室に案内してもらえないかな」
「えっ、わ、わたしがですか?」
「わたしたち、この学院には詳しくないの」
「……わ、わかりました」
そして三人は食堂を出た。
あまり人に関心を示さないリラが、メルアにはどこか自分から話しかけに行っているように見え、ノエルはそれに少し違和感を抱いた。
「なんだか珍しいね。リラがフレンドリーにしてるなんて」
思わずそう口走る。彼女は不機嫌な顔をするかと思ったが、それとは裏腹に、どこか神妙な面持ちをして言った。
「ちょっと、気になることがあって……」