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【第2章】3.学問の都市

「それで、案内するってどこへ行くの?俺も一応王国騎士だったから、武器の修理が得意な業者は知ってるけど、ほとんどがラオニスにあるから、またあそこへ戻るの?」

 道中、歩きながらノエルはリラに聞いた。しかし、リラは首を横に振る。

「これから行くのは学問の都市・テルノアだよ」

「テルノアって、あの王立魔技学院があるところか!」

 ノエルはテルノアへ行くと聞いて心が弾むのを感じた。リラもそれに気づく。

「なんだか嬉しそうだね」

「ああ。俺、騎士になる前は魔技学院に入りたかったんだ。なんてったって、国で一番大きな武術の学校だからな!」

 ――王立魔技学院。ノエルの言う通り、ヴェルシオン王国で最も生徒数の多い伝統ある学校だ。ここは魔術と武術を学ぶことができ、自分のなりたい進路に合わせて、どれを必修とするか選ぶことができる。騎士団員になるためには騎士養成所に通う必要があるが、その前に魔技学院で学んでから来る者も少なくない。

「入りたかったってことは、入らなかったんだね」

「まぁ、いろいろあってさ。あと、テルノアにある有名なところと言えば……」

「オーディスの本拠地」

「ああ……」

 ノエルは、そうだったと頷く。

 国際魔法秩序管理機構・通称オーディスは世界各地に存在する、魔法関連の法を守るための機関である。通常の法律とは違い、世界共通で魔法に対する認識を統一するためにできた機関で、魔法についての概念を決めている他、実際に魔法犯罪や魔法による災害など、幅広く対応している。

 そして、その本拠点がテルノアにあるのだ。

「そういえば、今回のトルンでの騒動もオーディスが捜査に入ったんだっけ」

 ノエルは思い出すように言う。

「ええ。墓地の修繕をしていたのはおそらく災害局だろうけど……今回の件は『魔特』が動いているはず」

「まとく?」

 聞き慣れない言葉にノエルが聞き返すと、リラは表情を変えずに、声だけ抑え気味で話す。

対魔特務局(たいまとくむきょく)。略して魔特(まとく)。魔物や魔族との対抗を主として作られた機関で、その活動はあまり公にされていない秘密の機関」

「秘密の……」

「魔物は動物並みの知性しかないやつらばかりだけれど、魔族は魔物とは違って、人間を滅ぼすだけの力と知能がある。それは国家レベルでの大きなものになりかねない。そのためにオーディスの中でも戦闘と情報収集、どれにも優れた人材が集められている……ってウワサ」

「ウワサだとしても、やけに詳しいね。俺、話しを聞いてそんな機関があったなくらいにしか思わなかったよ」

「そう?ま、長く生きているといろいろ知るから……」

「そういえば、君は1000年生きているって言ってたね。それから、来年の春には死ぬって……。あれはどういうこと?」

 トルンの村ではバタバタしていて、なんだかんだ聞けていなかった質問を切り出した。しかし、リラは話すのをためらっているようだった。

「……信じることが難しいかもしれないけど」

 そうリラは前置きをする。

「わたしには『ある呪い』がかけられているの。それでその呪いは来年解ける。それによってわたしの中で止まっていた時間が一気に動き出して、一瞬のうちに寿命を迎える……」

 ふと、リラはノエルが深刻そうな顔をしていることに気づき、呟くように「かもしれない」と付け加えた。

 ノエルにとっては、にわかに信じがたい話しだけれど、ユキとの思い出をありありと語るその言葉に、嘘は感じられなかった。また、こうして話してくれているリラからは嘘をついているようには見えない。

「そうか……」

 どんな呪いで、なぜ呪いを受けてしまったのか、そしてなぜ来年解けることを知っているのか、本当に死んでしまうのか、質問したいことは山ほどあったが、これ以上踏み込めるほどの仲でもないため、浮かんだ言葉はぐっと飲み込んだ。

「長い、時間だったんだろうな」

 そうして代わりに出た言葉がそれだった。リラは頷くでもなく、否定するでもなく、ただ空を見上げて言った。

「意外と、あっという間だったかも。100年あれば世界は大きく変わる。それをもう何回も見てきたから。まぁ、だから、飽きないよ」

 苦笑するリラに、ノエルも笑い返す。そうしてしばらく、二人の間にどこかぎこちない沈黙が流れた。

「そう言えば」

 話題を変えるように、明るい口調でノエルは沈黙を破る。

「テルノアってラオニスより商業施設が少ないイメージがあるけど、有名な修理屋でもあるの?」

 その問いにリラは笑った。

「ふふ。長く生きているとね、コネがたくさんあるんだよ」


 トルンからテルノアへはかなりの距離があり、馬車を乗り継いで向かった。その間、二人は他愛のない話しを交わしたが、お互い、過去のことなど深く踏み込むことはしなかった。

 そして、トルンを離れて数日後、ようやく学問の都市・テルノアに着いた。

「おぉー!ここがテルノアかぁー!」

 馬車を降りてノエルは大きく伸びをする。ラオニスとは違い、人はそれほど多くはなく、道路や建物、街路樹や街灯はきれいに整備され、どこか上品で優雅な雰囲気を感じさせる。ラオニスが『動』としたらテルノアは『静』だ。

「テルノアはお金持ちも多いって聞いてたけど、そんな感じがする、おしゃれな街だなぁ」

 ノエルがそんなことを言っている隣で、リラは驚いたように瞬きを何度もしていた。

「あれー……?」

「どうかした?」

 ノエルが聞くと、リラは片手を頬に当て首を傾げた。

「こんな綺麗な街だったかな。前に来た時はもう少し雑多な感じがしたけれど……」

「前って?」

「……120年前くらい」

「さすがに変わるよ」

 ノエルは苦笑いをした。

「この様子じゃあ、あそこもかなり変わってるかもしれないな……」

 リラはそう言いながら「こっちだよ。……たぶん」と言いながら歩き出した。不安な気持ちを隠しながらノエルは後を追った。

 テルノアの街を東へ歩いた先に、一際高くて大きな建物が見えてきた。それを目にした途端、ノエルは目を輝かせる。

「まさか、あれって」

 まるで城や神殿をかけ合わせたような豪華さと優美さを兼ね備えたその建物の中心には美しいステンドグラスがはめ込まれており、また細部まで、こだわり抜かれた装飾で彩られている。

「ここだよ。……よかった、ここは昔と変わらないみたい」

 リラはその大きな建物の前で足を止めた。ノエルは建物を見上げて喜びの声をあげた。

「魔技学院だ!」

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