第8話「ハニートラップの真相 ~味方にいると頼もしく、敵にするとおそろしい。それが究極で完璧な秘書吉田くん~」
~首相官邸執務室にて~
「ありがとう。これ飲んだら少しましになってきたよ…」
シジミ汁が五臓六腑に染み渡る…。大したもんだね、吉田くん。何でも作れるんだな。
眉間に皺を寄せて吉田くん、
「酒臭いですね~。ひどいもんだ。それでよく立派な答弁ができますよ」
「まあね。でも今日は助かったよ。玉井くん。不倫報道出てからなんかフニャフニャになっちゃったね。質問に全くキレがなかったよ。
選挙の時はほんと物凄い勢いだったからねー。彼のせいで少数与党になったっちゃったから、こっちは。
やっぱり不倫なんてするもんじゃないね。まあ彼はイケメンだからモテモテなんだろうけど。うらやましいよ。
それともあれか、やっぱりハニートラップ的なあれなのかね?」
俺も総理になったらモテモテハーレムになると思ってたんだけどな…。
空っぽのシジミ汁のお椀を返す。
お椀を受取りながら吉田くん、
「何言ってるんですか。素敵な奥さんがいるじゃないですか。
お代わりいります?」
「いやいらない。
でも俺にはなんでハニートラップが来ないんだろうね?昨日の料亭でも何もなかったしな。おかしいよね」
不思議だよ。ほんとに。
吉田くんは小バカにしたように微笑んで言った。
「2~3日に一回は来てますよ。こっちで丁重に追い返してますけどね」
なんてことするんだ!?
「そうか…。それは世話をかけていたんだね」
「はい。まあ、たまには役立つこともありますけどね。
ちょっと説得して、他に行ってもらったりすることもありますよ~。"たま"にね。ふふふ」
え!?
「え!?"たま"に?」
二コっ。
「そう。"たま"にですけどね」
二コっ。じゃないよ!
吉田くん…。おそろしい子っ…。
「玉井くんも災難だね…。あのままの勢いなら、ワンチャン野党大連立で総理になれたかもしれないのにね」
「ふふ。まあ脇が甘いとダメだってことですよ。総理も気をつけてくださいね」
そう言って、吉田くんは微笑みながら、睨みつけてきた。
「うん。」
あんたがいる限り、モテモテハーレムも夢のまた夢だよ…。
「さて。二日酔いもさめたところで、例の総理専用機密文書についてのメモは読んでくれましたか?」
と、吉田くんは急に話題を変えてきた。
本当だ、いつの間にか二日酔いはさめている。
「うん読んだよ。1万件以上もあるんでしょ?全部見るのは無理じゃん。キッシーはほんとに見たのかね?」
「どうでしょうね。あれだけ脅してきたからには見てるかもしれないですね~、根性で。
それであの大量の文書、小菅総理がキレイに整理したっぽいんですよね。一度ガースー総理に話を聞きに行った方がいいですよ。とりあえず何を読んでどうすればいいのか。聞いた方が早いです」
うーん。ガースーあの状態だからな…。
「そうだねー。迷惑じゃないかな。俺、嫌われてるんだよね。たぶん」
「ふふふ。何言ってるんですか。嫌われてるのはデフォでしょ。じゃあアポ取っときますね~」
吉田くんは微笑みながら颯爽と部屋を出て行った。