第7話「キッシー会談反省会 ~ジュラルミンケースの中身は一体なんなんだ!自分じゃ開けないよ~」
~首相公邸(旧官邸)執務室にて~
「吉田くん。これさあ、中身どうやって見るの?」
ジュラルミンケースに入っていたUSBメモリらしきものを指さす。
十分に蒸らした紅茶をカップに注ぎながら、吉田くんは答える。今日はダージリンかな?
「キッシー総理から受け取ったあれですね。
USBメモリだと思うので、パソコンがあれば見られますよ。
プリンス・オブ・ウェールズです。ダージリンは茶葉の銘柄ですね」
「へえ。ここの備え付けのパソコンでも見られるのかな。ちょっとやってくれない?マッキントッシュで働いてたんでしょ?詳しいでしょ、パソコン。
あと、勝手に人の心を読むのはやめてね」
デスクの上の総理専用と書かれたパソコンを指さす。
紅茶のカップを差し出し、パソコンを一瞥した吉田くん。
「マッキンゼーですよ。ええと、IDとパスワードを入力してログインしてもらえますか?」
やれやれ、吉田くんには困ったもんだ…。
「ええと、何言ってるの?そんなの分かるわけないじゃないか」
ふぅと溜息をついて、吉田くんは微笑んだ。
「さすがですね~。待ってくださいね。ああこれは、静脈認証と虹彩認証の二要素認証ですね。
ロートルにはぴったりだ。ここに人差し指を置いて、ここを見て下さい」
ロートルって言った!?ナチュラルに口が悪いな…。
「これでいいかい?」
「ありがとうございます。ではUSBメモリを接続してみますね。
んーあれ?ああーなるほど。これはただの認証用のやつか。シンクライアントなのね。
総理、もう一回、指と眼球を貸してください」
なんだよ。
「はい、どうぞ」
もう一度センサーに人差し指を置いて、認証カメラを見る。どうやら機密文書が見られる状態になったようだ。
「このパソコン、生体認証だから指と眼球を盗まれない限り安心ですよ。ふふ。
さて、総理はこれからお勉強ですね。僕は見てはいけないので失礼しますよ」
そう言って、吉田くんは立ち去ろうとする。
「ちょっと待ってよ、吉田くん。キッシーとの会話は全部聞いてたでしょ。
一緒に分析してくれよ。俺、○んじゃうらしいよ。ちゃんと読まないと」
吉田くんは少し困った顔をして、
「そんな呪いの手紙みたいな。でもこれは総理しか見てはいけない機密文書ですよ。自分でやらないと。
ふふふ。キッシー総理はずいぶんと面白い方でしたね」
何がふふふだよ。
「他人事だと思ってひどいね。あの人ほんとやべえんだから。真正のサイコパスだよ」
「何言ってるんですか。サイコパスは総理の方でしょ?
わけの分からないボケを何回もぶっ込もうとするから空気が悪くなるんでしょ」
「ふふ。いや、そうだよ。飽きて早く帰ってくれないかなと思ってね」
失敗したけどね。
吉田くんはニヤリと笑ってこう続けた。
「前総理がこの国のことを思って、総理のことを思って、せっかく真剣に熱い話をしてくれているのに。
面倒くさいから早く帰って欲しいだなんて。真正のサイコパスは総理ですよ。自覚がないのが証拠です」
「なんだよそれ。まあいいからとりあえず読もうよ。これ。
ていうか、吉田くんが読んどいてよ。それで今度まとめて教えてよ。その方がいいわ」
吉田くんは目を見開いた。
「無茶苦茶ですね~。なんで僕が。総理しか見てはいけない機密文書は、総理しか見てはいけないんですよ。
せめて政策チームに振ってくださいよ」
「それはないわ。あいつらバカだもん。吉田くんが一番頭いいんでしょ?頼むよ!
ていうか、総裁選で俺を勝たせたのは吉田くんでしょ。責任取ってくれないと困るよ。
紅茶ばっかり飲ませて、いつまでも執事みたいなことやってる場合じゃないのよ。このっ!執事か!」
「ふふふ。やっぱりおかしいですよ、総理は。それでよく総理になれましたね。
僕がスパイだったらどうするんです?ほんとに○にますよ」
「ないない、そんなこと。とりあえず頼んだよ。俺このあと会合あるから!料亭で。じゃあ先行ってかんな~!」
吉田くんに任せた方がいい。自分で読んでもわかんないからね。彼がスパイならもうとっくに○んでるわ。
今日は久しぶりの料亭だ。疲れも溜まってるし、ゆっくり日本酒でも飲もう。うん。それが俺のやり方だ。