8・SEI先生は我慢出来ない!
あれから2年と数ヶ月が経過した。
あたしは病院の固いベッドの上に居た。
もう起き上がることも出来ないし、
指に力も入らない。
手持ちのお金は全て使い、
治療費やアシスタント代と漫画作成費に回した。
そうしてなんとか3ヶ月前に、
冤罪ヒーローイサムーンを仕上げられた。
もしも死後あたしへの収入などが発生したら、
子供の支援団体に寄付する流れになっている。
お金は天に持って上がれないしね、
それなら子供たちにお礼として渡したい。
話は戻り。
ありがたいことに、
イサムーンの完結を惜しむ声が多かった。
けれど2年前ほどから、
作者の病気療養休載が時々公表されていたので、
多分ファンのみんなは察していることだろう。
あと海斗くんのことだが…。
出版社が危惧した施設訪問による炎上など起こらなかった。
オシャレ部長の冴川さんがお見舞いに来た際、
「僕や編集長の出番はなかったね。
まぁ余計な心配や悪い妄想の9割以上は、
実際には起こらないって言うけど…正しくだ。」
と言ってニヤリと笑っていた。
加えて事件についてだが。
個人的に探偵などを雇い、
彼の親殺しに関する事を調査してみたのだが、
有力な情報は得られなかった。
分かった事は海斗くんの親が、
毒持ちモンスターだったということ。
…日本の殺人事件は家族などの身内の中で、
最も多く起こっているという統計がある。
彼がやってしまったかどうかは別として。
全ての子供がそうとは断定できないけれど、
子供は親や身内から傷つけられて、
オカシくなって罪を犯すのかもしれない。
あたしはベッドで横たわりながら、
「うん、やっぱり神様に、
彼のタイムリープを交渉しよう。」
と考えたその瞬間。
とても眠たくなって来た。
瞼が重くて開かない。
遠くでお見舞いに来ていた木村くんの、
慟哭と涙に濡れた声が聞こえた。
「先生!あなたはあなた自身と、
僕やファンのみんなを救いましたよ!
理不尽、固定概念、世間の常識に縛られた人を、
導いて救ってくれたヒーローです!」
うん、そうだね木村くん。
あたしは最期に信念を貫くことで、
あたし自身を救うことが出来た。
そしてもしそんなあたしのマンガで、作品で、
読者を救えたならこんな幸せなことはない。
まぁでも、あたしがそうしたかっただけだけど。
そもそも世の中の理不尽や固定概念、世間の常識に、
我慢し切れるほど殊勝な女じゃなかっただけ。
ていうかもっと早く自分のそういう本質を、
受け入れていれば良かった。
ヘンに我慢したことの方が無駄な努力だったわ。
自嘲しながら振り返りあの子のことを思う。
あとは海斗くんのことだね、
大丈夫、天国で神様に交渉するよ。
彼ならきっと自分を救える。
そう最後の最後に自分を救えるのは、
他の誰でもない自分自身なんだから。
この先自分を救った心の力で他人をも救うだろう。
あっ、そうだ、しまった!
彼に送った手紙に、
タイムリープの発動条件を書くのを忘れてた!
これは作家としてあるまじき事だね。
まぁでも、しょうがない。
発動条件はソラで神様と打ち合わせでもしよう。
想いに耽りながら苦笑していると、
気付いたらあたしは空に浮いていた。
そして自分の肉体やベッドを取り囲んでいる、
木村くんや両親を眼下に見ている状態になっていた。
これが魂が抜けた、ということか。
貴重な経験だね、
次の作品に活かそうじゃないか。
そんでさっきから迎えに来たと見える、
白い光の玉が周りを飛んでるんだが。
これも次に使えるかもしれない貴重な体験だね。
「お待たせ、さて神様の元へ行こう!」
あたしは白い光の玉と共に、
天に向かって飛び立ったのだった。
最後まで読んで頂きまして、
本当にありがとうございます!
こちらは本編「親殺しのゲットバッグ」の、
スピンオフとなっております。
よろしければぜひ本編の方も合わせて、
お読み頂けたらと思います。
さて小話になりますが、
わたしの幼少期の将来の夢は漫画家でした(笑)
絵を描くのが大好きだったので、
マンガも描いてみたくて道具を少し買い、
トライしてみたのですが…。
これがめちゃくちゃ難しい!
イラストとは勝手が違うし、
1ページ仕上げるのにすごく時間がかかる。
ヘタレなわたしは途中で心が折れました(笑)
ちなみに数年前にペンタブならどうだろうと、
再び挑戦してみたのですが、
これがまた扱いにくくて挫折…。
さらに何年も絵を描かなかったせいで、
普通の紙とかでも下手クソになってました。
なんなら小学生の時の方が上手かった(笑)
だからと言って文が上手い訳でもありませんが。
マンガを描ける人、
文章が上手い人はリスペクトです!
ということで小話はここまでで(笑)
ブックマークやイイネをして下さった皆様、
心から感謝しております!