7・理不尽や固定概念や世間の常識を打ち破れ!
あたしは事前に施設所長に手紙を送り、
海斗くんに会いたい旨を伝えた。
その後電話で彼と打ち合わせを行って、
ついに海斗少年に会いに行く運びとなった。
最寄り駅からタクシーで降り立ち鉄の門をくぐる。
足早に玄関まで行くと割腹のいい、
メガネをかけた男性が立って待っていてくれた。
「SEI先生ですね、お待ちしておりました!」
明るい声が彼の気の良さを伺わせる。
「はい、今日はよろしくお願いします。」
「では早速ですが岸くんの所へご案内しますね。」
彼に先導されてコンクリートの廊下を歩くと、
白い扉の前に出た。
「このフリースペースでお昼の自由時間を過ごしてます。」
そう言って開かれたそのドアの向こうに、
他の子供から離れた隅っこで、
ペタンとカーペットの床に座っている子が見えた。
上下スエットでフィギュアを握りしめ、
小さくブツブツと何かを呟いていた。
「海斗くん、面会の人だよ〜。」
振り返ったその子は青白いく貧弱なイメージの、
小さな少年だった。
すでに8歳とのことだったがもっと幼いような印象がした。
「海斗くんこんにちは。
あたしが誰だか分かるかな?」
「…お姉さん誰?」
「あたしはそのフィギュアの原作者、SEIだよ。
ファンレターありがとね。」
その瞬間彼はビクッと身を震わせ、
信じられないといった表情で瞼を大きく見開いた。
「ウソ、そんなこと起こるわけないよ。」
「ウソじゃないよ、
先生わざわざ会いに来てくれたんだよ〜。」
所長が後ろからフォローしてくれた。
「よーし、
じゃあイサムーン描いてあげるよ!
一緒にお絵描きしようじゃないか!
そこの画用紙に描いてもいいかい?」
彼が頷くのを確認してから、
あたしは彼の横に置いてあったお絵描き帳を広げ、
下描きなしにイサムーンを描いた。
すると死んだ魚の目のようだった少年の瞳に、
少し光が宿ったように感じた。
彼も画用紙を1枚破り大好きなヒーローを描く。
なんと充実した楽しい時間だろうか。
こんな子が親を殺しのだろうか?
描きながら色々な話をしたが、
あたしにはどうも彼が人殺しのようには思えなかった。
そうして2時間程遊んでから、
名残惜しいがあたしは帰ることにした。
事務室で訪問手続きをしながら、
所長に事件のことについて聞いてみた。
「所長、実はあたしなりに、
事件について調べてみたのですが…。
犯人を彼と断定したのはいささか軽率なのでは、
と感じています。
だってあるのは動機と状況証拠だけで、
確固たる証拠までは見つからなかったらしいじゃないですか。」
「ええ、
個人情報の保護があるので詳細は言えませんが、
私も警察の捜査は不十分に思えます。
未解決の事件が多いと内外からの評価が下がりますし、
早く解決済みにしたかったのでは…という気がします。」
もしもこれが冤罪ならとんでもない話だ!
あたしに出来ることは他にないのだろうか。
余命宣告通りなら時間がない。
もっとあたしならではの型破りな方法はないか…。
型破りなら時間とか現世の概念を飛び越えて発想するのは?
そこまで考えてハッとした。
死んだ後に彼が過去に戻れるように、
神様にお願いするのはどうだろうか?
それで事件の真相を解き明かすチャンスを作れたら…。
だって現在の科学では出来ないことなんだからもう、
神頼みしかないじゃない。
ほらよくマンガでも神様が異世界転生させてたりしてるし!
って、マンガじゃあるまいし。
イヤ、あたしがその漫画家だった。
じゃあ漫画家特権で可能になるかも?
無表情でグルグル思考していると、
目の前に座っている所長がキョトンとしていた。
「どうかされましたか?」
「あっいえ、ちょっと考え事をしてました。
あの、また後日に彼に手紙を送っても良いでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。
施設の規定で私も拝見することになりますが。
あと、彼の伯父さんに頼まれて秘密になっているのですが、
海斗くん実は幼少からのオーバードーズで、
脳に少し障害が残っているんですよね。
過去のことを忘れやすく思い出しにくくなってます。
なのでお手紙も無くす可能性があるんですよね。
そのため一度開封して彼に読んでもらったあとは、
所の方で退所するまで保管管理することになると思います。
それでもよろしいでしょうか?」
オーバードーズ?
子供がそんな事をするのだろうか。
大人が飲ませたってこと?
一体この事件はどうなっているのだろうか。
なにかオカシかないか?
やっぱり裏があるようにしか思えない。
あたしは怪訝な顔で、
またもや固まってしまっている事に気づき、
慌てて笑顔を作ると頷いた。
「はい、それで構いません。
どうぞよろしくお願いします。」