3・次世代のコメディヒーロー爆誕。
キャバクラがダメならどうするかな。
他に短時間で済むバイトってあるのかな。
思わずフゥーと息を吐いた瞬間、
携帯の着信を告げるバイブレーションが起きた。
2つ折りのそれを開いて確認すると相手は、
担当編集の木村くんからだった。
「先生お疲れ様です!
そろそろ携帯スマホに買い替えませんか?
メッセージアプリ使えないの不便ッス。」
良く通る大きめの声が特徴的で、
若者らしいシャベリが耳を貫いた。
「あ〜、ごめんね。
今はお金がないから入ったらになるかな。」
あたしが苦々しい感じで答えると、
彼は電話口でいっそう声を大きくした。
「それなんスが、
近々お金入って来ると思いますよ!
この前試しに読み切り掲載したイサムーン、
連載にしようかって話になったッス!」
「えっ!本当に!?」
「はい、
なんでも子供にウケてるらしいッす!」
意外だ、
あの作品はどちらかというと、
ちょっと大人向けかと思ってたのに。
…屈しないし諦めないと決めたあの時。
あたしは自分の信念に従って作品を描くことにした。
そのためのポイントは3つあった。
1・理不尽を打ち破るような内容にしたい。
なら罪人が実は無実でそれを晴らして行くのはどうか?
2・あたしは自分を後回しにするヒーロー像は、
個人的には好きではない。
自分を救うことが他人を救うことにもなる、
と思っているからだ。
思い違いし易いが自分勝手と自分を救うことは違う。
自分勝手とは他人に迷惑かけてもなんとも思わないことだ。
自分を救うこととは自分自身を被害者にしないことである。
被害者が1人減れば加害者だって減るわけで、
加害者を出さないこと、
もしくは罪が軽い状態で止めさせることは、
加害者をも救うことになるだろうと考えている。
3・固定概念や世間の常識を打ち破るような、
意外性のある内容がいい。
それなら主人公はニートでどうだろうか?
で、最終目標は職に就くこととか、ニートだし。
うーんそれなら…。
冤罪かけられたニート設定だし、
コメディ要素が多い方がいいよね。
これらを踏まえて出来上がった作品が、
冤罪ヒーローイサムーンだった。
「そっか、子供に感謝だね!
連載ありがたくやらせてもらいます!」
「了解ッス、
先生おめでとうございます!!」
あたしは無意識にさっきまでの薄暗いものとは一転して、
喜びに溢れたニコニコ顔に変貌するのを感じた。
ついに念願成就のスタートである。
けれどこの時すでに、
最期のカウントダウンは初まっていたのだった。