侍
⋯⋯戦闘ドロイドか?
いきなり現れて立ち入り禁止と宣った目の前の存在は、何とも形容し難い雰囲気の持ち主だった。そもそもドロイドに雰囲気って何なんだ。
顔は詳しくはわからないが、犬系の何かを模した面を被っている。服装が妙で、以前エンジュに見せてもらった地球時代にあったと言われている、和の国の着物を纏っている。
腰に大小二本の刀。戦闘ドロイドの基本兵装は電磁ライフルの筈だが、何故刀?
何より俺が異様だと感じたのは、目の前の存在が人工音声で喋り、見えてる手や足先などが機械であるにも関わらず所作や立ち姿が極めて人間臭いことだ。
「おいおい、お兄さんよ。俺がイケてるからって、そんなに黙って見つめられると照れちまうよ。で、話し聞いてた?」
「あ、あぁ。あんたの雰囲気があまりにドロイドらしくなかったんでな。少し驚いていた」
「まぁ、俺は特別だからな。会うやつは皆んな俺に夢中になっちまう⋯⋯言っとくが俺に男色の気はないからな? ⋯⋯冗談。まぁ、俺としては無駄に働きたくないからさ、大人しく回れ右で帰ってくんない? 疲れるの嫌いなんだよね」
は、話し口も随分人間臭い。テミス様のような統括AIならいざ知らず、ただの戦闘ドロイドに積むような人工知能じゃないだろう? 疲れるって何だ。ドロイドに疲労なんて概念ないだろう⋯⋯。 まぁいい、
「このまま帰るのは無理だ。俺たちはそのビルに用がある」
「ん〜、具体的には?」
「ビルの最上部に上の階層に繋がる部屋がある筈だ」
「⋯⋯ここを戻って西の方に行けば上に行けるぞ」
面倒くさそうにドロイドが指差す。
「マスター、確かにそちらのルートでも上に行けますが三日程かかってしまいます」
三日など論外だ。このビルを登れば今日中に戻れるのだ。
「何かお前にとって大事なものがあるなら、別に奪いにきたわけじゃない。ただ通してほしいだけだ」
俺がそう言うと、目の前の戦闘ドロイドが軽く首を傾げる。ただそれだけの動作で雰囲気が冷たいものに変わっていくのがわかった。
「あぁ〜、俺が物腰柔らかなイケメンだから勘違いしちゃったか? 居るんだよね、優しく接するとつけあがっちゃうタイプ。 ——お願いじゃない。立ち去れと命じてるんだよ」
「っ!?」
ドロイドが刀にそっと手を置いた瞬間、俺は咄嗟に首を抑え、間髪入れず飛び退いた。
「お、少しはわかる感じか? まだ斬っちゃいないよ。まだな」
首を抑えていた手を離す。血は出てない。奴の言うようにまだ斬られてはいなかったんだろう。
ただ俺の感覚的には首を飛ばされたと思ってしまった。
「マスター?」
突然飛び退いた俺を、獣挽きが不思議そうに見ている。彼女はあの強烈な殺気を感じなかったみたいだ。
「⋯⋯大丈夫だ。問題はない」
「強がっちゃって〜。俺が本当に抜いてたら首飛んでたよ? 分からないわけじゃないんだろ。大人しく時間かけてでも帰んな」
しっしと追い払うような仕草。完全に此方を格下と判断した態度。
確かに剣の技術は隔絶したものを感じた。まだ抜いてないにも関わらずだ。だが戦闘は剣の技術だけで決まるものじゃない。
相手は戦闘ドロイド。どんな剣術プログラムを独自にインストールしているのか知らないが、パワーに関しては製造されたスペックから大きく逸脱はできないだろう。
肉体のスペックは此方が上と判断する。油断はしない。
獣挽きを上段に構える。霊抉での奇襲も考えたが、通じる相手とは思えない。ただ全力で、奴に斬られても獣挽きを振り下ろす。
俺の回復力なら、相打ちは勝利と考えて問題ない。
「はぁ⋯⋯、これだから脳筋は嫌いなんだ。技術ってものを軽視しやがる。お前は自分では俺を舐めてるつもりはないんだろうけど、剣を抜いてる時点で舐めてるんだよ。ま、理解はしなくていい。この先は無いんだからよ」
奴の姿が霞のように掻き消える。首に強烈な殺気。首をガードしそうになるが本命は違うと直感が訴えかける。
「——後ろか!」
獣挽きの刃で俺の心臓を狙った神速の突きを弾く。
「⋯⋯へぇ、これは正直避けられないと思ったんだが、思ったよりやるねぇ。変だな。色々とチグハグだからちょっと面白いねぇ」
今の突きは何とか弾けた。弾くので精一杯だった。幻覚体との戦闘を経験してなかったら、今ので終わっていた。慌てて距離を取り構える。
「表情に余裕がなくなったぞ? ⋯⋯相打ちくらいには持っていけると考えてたんだろうが、甘いなぁ。砂糖菓子のように甘いな。はぁ⋯⋯、ほっぺが落ちちまいそうだ」
くねくねとふざけていたドロイドが、溜息を溢し刀を鞘に戻す。
「⋯⋯?」
刀を納めるなんて何かの罠かと訝しんだ俺に、ドロイドは言う。
「多少、武をわかってるつもりになってる兄ちゃんに現実を教えてしんぜよう。——『一刀流居合・巨獣断ち』」
「————」
俺は反応できなかった。音を置き去りにした刹那の抜刀斬り。正眼に構えていた俺の右腕ごと胴を両断する一閃。
刀を親指で押す僅かな鈴の音に似た抜刀音が聴こえたと思ったら、目の前に奴が瞬間移動したように見えた。俺の認識では斬られてしまったと感じた。
だが、何故か困惑顔のドロイドは、合点がいったのか面倒くさそうにこぼす。
「斬ったと思ったんだが、そういえばその剣は意思持ちだったか」
俺の右腕に食い込んで止まった奴の刀。俺の体が頑丈だからでは無い。ドロイドの腕に絡まる何本もの触手。
「——マスターを傷つけることは許しません。私達は急いでいるんです。全力で排除させてもらいます⋯⋯!」




