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少女の苦難

                 白髪の少女視点

 

 今日は本当についてない。

 私が少しヘマをして脆い床を踏み抜いて落ちた先で、偶然出会ってしまった敵性機獣から逃れようと、移動した先の廃墟の中で見つけた死んだように眠る男。


 敵性機獣に見つかっただけでも最悪なのにあろう事かこの男、敵性機獣を猫か何かみたいに対処しようと試み始めた。


 敵性機獣は人類の敵。特に眼紐型めひもは知性も殆どない、手当たり次第に貪り食う危険な存在だ。それが共通の認識のはずなのに、少なくとも私のコミュニティが住む階層においてはそうだった。おばばとかに口を酸っぱくして言われたもんだ。


 それなのに何故この男はアホみたいに、怯えてるだけだなんて言い切れるのか?

 そもそも慌てて逃げてる最中に倒れてる男を見かけたから、咄嗟に起こして共に逃げ始めたけど、よく見ればこんな人物は見かけたことはないし服装も少しおかしい気がする。


 私が男に対して不信感を芽生えさせ始めていると、アホな行動をしていた男がゆるい苦笑顔で疑問を投げかけてきた。

「なぁ」


 一瞬、この男を囮にしてでも逃げた方がいいのではと思ってしまった。

 だって今日初めて出会って、この男について何も知らないしアホな行動に付き合う義理もない。


 私にはやるべき事がある。時間もない。

 付き合ってられない。逃げるべき。

 そう冷静な自分がこの場からの離脱を推奨してくる。けど!


 そうすると私はたぶん一生この事について後悔し続けるだろう。

 目的を果たした後もぐじぐじ考え続けて、事あるごとに思い出すんだ。

 絶対に私が望むような人生は歩めないだろう。

 だから、私は自分の人生に後悔しないために彼に呼びかける。


「何よ!いいからこっちに⋯⋯」

「合わせるべき眼は、一体どれだろうな?」

 男を呼び戻そうと叫ぼうとした瞬間、眼紐型の太く筋肉質な触手に男が思いっきり弾き飛ばされた。

 轟音を立てて崩壊しそうな廃墟に突っ込んでいく男。


 死


 あまりもあんまりな吹っ飛び具合に絶対に死んだと思った。

 そして当たり前のように次はあたしの番だ。


「ーーーーーっ!」

 金属の擦れるような、軋むような腹の底から震え上がるような咆哮を目の前で聞かされ、腰が抜けそうになった。

 怖い、死ぬかもしれない。いや間違いなく死ぬ。どうすればいい? わからない、でも。


「⋯⋯逃げなきゃ」

 とにかくどんな偶然でもいい、眼紐が急にお腹痛くなるでもいいし、私から興味が失せるでもいいからとにかくこの場からの離れなきゃいけない。


 チラッと男が弾き飛ばされた方を見るが、埃が舞い上がってる以外変化はない。

 あんな吹き飛ばされ方をしたんだ。生きてはいまい。

 アホな男だったが死んだと思うと心が少し寒くなる。

 私は生き残るぞ。


 そっと一歩ずつ足を後ろに踏み出す。

 幸いにもこの眼紐は先程の男の奇行が脳裏に残ってるらしく、こちらの様子を伺うように機械の混じった触手をウネウネとさせている。

「良い子よ〜。そのままじっとしててね」


 あまりの緊張感に私までアホな言葉を吐いてしまう。額を流れる冷や汗が重く感じる。

 だって仕方ないじゃない!戦士でないものがまともに出会ったらまず死ぬと言われてる存在にこんな間近にまで寄られて、まともじゃいられないわよ。拾いピッカーは脆弱なのよ!


 一歩ずつ一歩ずつジリジリと距離を離していく。

 もしかしてこのまま逃げられるんじゃないか、そんな淡い期待を抱いたのがいけなかったのかな。


「ーーーっ! 痛っ!」

 私の儚い希望をやすやすと打ち砕き、機械と融合した筋肉質な触手が襲いかかってくる。なす術なく私は巻き取られ、容赦なく巻きつき締め上げられる。

 身体中の骨が軋みをあげ、息がどんどんし辛くなっていく。


 私はそのまま持ち上げられ、機獣に引き寄せられるのに抵抗らしい抵抗はできない。

 生物としてのスペックが違いすぎる。

 怖い、嫌だまだ死にたくない!やりたい事がまだ残ってるのに⋯⋯。

 視界がぼやけ始める。薄れ始める意識の最中、聞こえるはずのない声が響いてくる。


「⋯⋯仲良く遊ぶのは良い事だが、やり過ぎは感心しないな」


 吹き飛ばされ死んだはずの巫山戯ふざけた男がそう言いながら、眼紐をビンタで吹っ飛ばした。

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